15 / 32
15話
しおりを挟む
「――そういうわけでナタリアのほうから婚約解消を言い出したんだ」
ナタリアたちはテーブルを囲んで座り、ラウルはこれまでの事情をクラウドに詳しく説明する。ラウルは話している間はイラついた感じの動作を繰り返した。両手で髪をかきむしってボサボサにし落ち着かない様子を見せていた。時々、癇癪を起こした子供のように泣き出しけたたましい悲鳴をあげた。
ラウルの口から空気が張り裂けるような声が響き渡ると、店にいる食事中の客たちは振り返って迷惑そうな視線を向けてくる。ここの店は高級レストランというわけではなかったが、常識の範囲内で食事中の会話を楽しむのは最低限のマナーとされている。
いったい何事かと驚いた店員が急ぎ足でやってきて、お客様どうかされましたか?と心配された。ナタリアとクラウドは泣いているラウルを横目で見ながら、騒がしくして申し訳ないという気持ちで非を認めて謝っていた。当のご本人は無自覚のままで非礼をわびることもせず反省するつもりもない。
「それで?」
「いや、だから……はいそうですかと合意できるわけないじゃないか!」
クラウドは呆れるようにして久しぶりに会った友人を眺めてから口を開いた。クラウドから向けられた質問にラウルはちょっと口ごもってから不機嫌そうな顔で言い返した。
これまでのいきさつを話して説明を聞いていたのに、お前は何を言っているんだという思いで心が高ぶって激昂しているのは明らかだった。
「――ナタリア?」
その時、背後から声が聞こえてきた。ナタリアが振り返ってみると親友のアイリスがそこに立っていた。見たとたん心臓が凍りつくかと思った。息の根を止められた悪夢の体験がフラッシュバックのごとくよみがえってきた。
ラウルの浮気相手であり浮気現場を見てしまってナタリアは怒声とともに乗り込んだ。最初二人は慌てて言い訳をして、不適切な行動だったと認めて謝罪した。だがナタリアは有利な立場だったため話に応じることなく、絶対に許さないと口に出してしまって二人からの不満を買った。
その結果ナタリアを手にかける。正直な気持ちを言えば殺すつもりはなかったというのが本音だったが、ラウルとアイリスは自分たちの罪を恐れてナタリアの命を奪った。ナタリアはラウルと同じくアイリスに対する憎しみも消えてはいない。
「アイリス……どうしてここに?」
極度に緊張した感情がナタリアの心に湧いてきた。顔は固くこわばって歯を食いしばって体を震わせ悔しさに耐えていたが、涙が出てきて止まらなかった。
「ナタリアどうして泣いてるの?」
会った瞬間、いかめしい顔で両方の瞳から涙を流しはじめた親友にアイリスは不思議そうに見つめて尋ねた。
ナタリアたちはテーブルを囲んで座り、ラウルはこれまでの事情をクラウドに詳しく説明する。ラウルは話している間はイラついた感じの動作を繰り返した。両手で髪をかきむしってボサボサにし落ち着かない様子を見せていた。時々、癇癪を起こした子供のように泣き出しけたたましい悲鳴をあげた。
ラウルの口から空気が張り裂けるような声が響き渡ると、店にいる食事中の客たちは振り返って迷惑そうな視線を向けてくる。ここの店は高級レストランというわけではなかったが、常識の範囲内で食事中の会話を楽しむのは最低限のマナーとされている。
いったい何事かと驚いた店員が急ぎ足でやってきて、お客様どうかされましたか?と心配された。ナタリアとクラウドは泣いているラウルを横目で見ながら、騒がしくして申し訳ないという気持ちで非を認めて謝っていた。当のご本人は無自覚のままで非礼をわびることもせず反省するつもりもない。
「それで?」
「いや、だから……はいそうですかと合意できるわけないじゃないか!」
クラウドは呆れるようにして久しぶりに会った友人を眺めてから口を開いた。クラウドから向けられた質問にラウルはちょっと口ごもってから不機嫌そうな顔で言い返した。
これまでのいきさつを話して説明を聞いていたのに、お前は何を言っているんだという思いで心が高ぶって激昂しているのは明らかだった。
「――ナタリア?」
その時、背後から声が聞こえてきた。ナタリアが振り返ってみると親友のアイリスがそこに立っていた。見たとたん心臓が凍りつくかと思った。息の根を止められた悪夢の体験がフラッシュバックのごとくよみがえってきた。
ラウルの浮気相手であり浮気現場を見てしまってナタリアは怒声とともに乗り込んだ。最初二人は慌てて言い訳をして、不適切な行動だったと認めて謝罪した。だがナタリアは有利な立場だったため話に応じることなく、絶対に許さないと口に出してしまって二人からの不満を買った。
その結果ナタリアを手にかける。正直な気持ちを言えば殺すつもりはなかったというのが本音だったが、ラウルとアイリスは自分たちの罪を恐れてナタリアの命を奪った。ナタリアはラウルと同じくアイリスに対する憎しみも消えてはいない。
「アイリス……どうしてここに?」
極度に緊張した感情がナタリアの心に湧いてきた。顔は固くこわばって歯を食いしばって体を震わせ悔しさに耐えていたが、涙が出てきて止まらなかった。
「ナタリアどうして泣いてるの?」
会った瞬間、いかめしい顔で両方の瞳から涙を流しはじめた親友にアイリスは不思議そうに見つめて尋ねた。
6
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます
衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。
婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。
シェリーヌは16年過ごした国を出る。
生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。
第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。
第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。恋愛小説大賞は51位で終了しました。皆さま、投票ありがとうございました。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ
リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。
先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。
エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹?
「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」
はて、そこでヤスミーンは思案する。
何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。
また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。
最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。
するとある変化が……。
ゆるふわ設定ざまああり?です。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
『完璧すぎる令嬢は婚約破棄を歓迎します ~白い結婚のはずが、冷徹公爵に溺愛されるなんて聞いてません~』
鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎる」
その一言で、王太子アルトゥーラから婚約を破棄された令嬢エミーラ。
有能であるがゆえに疎まれ、努力も忠誠も正当に評価されなかった彼女は、
王都を離れ、辺境アンクレイブ公爵領へと向かう。
冷静沈着で冷徹と噂される公爵ゼファーとの関係は、
利害一致による“白い契約結婚”から始まったはずだった。
しかし――
役割を果たし、淡々と成果を積み重ねるエミーラは、
いつしか領政の中枢を支え、領民からも絶大な信頼を得ていく。
一方、
「可愛げ」を求めて彼女を切り捨てた元婚約者と、
癒しだけを与えられた王太子妃候補は、
王宮という現実の中で静かに行き詰まっていき……。
ざまぁは声高に叫ばれない。
復讐も、断罪もない。
あるのは、選ばなかった者が取り残され、
選び続けた者が自然と選ばれていく現実。
これは、
誰かに選ばれることで価値を証明する物語ではない。
自分の居場所を自分で選び、
その先で静かに幸福を掴んだ令嬢の物語。
「完璧すぎる」と捨てられた彼女は、
やがて――
“選ばれ続ける存在”になる。
〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。
藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」
憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。
彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。
すごく幸せでした……あの日までは。
結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。
それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。
そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった……
もう耐える事は出来ません。
旦那様、私はあなたのせいで死にます。
だから、後悔しながら生きてください。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全15話で完結になります。
この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。
感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。
たくさんの感想ありがとうございます。
次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。
このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。
良かったら読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる