病気で療養生活を送っていたら親友と浮気されて婚約破棄を決意。私を捨てたあの人は――人生のどん底に落とします。

佐藤 美奈

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30話

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「ナタリアどうしたんだ?」

向かい合って座っていたラウルが無意識に立ち上がって、不思議そうな顔をしてそばへ寄って来た。

「触らないで!」
「え?」
「あなたなんかに触られたくないの!」

ラウルがナタリアの肩に手を触れた瞬間だった。ナタリアは突然痴漢にでも触られたように厳しい言い方をしてラウルを拒否した。ラウルは混乱して頭の中が迷子になっている様子だった。ナタリアは敵意をこめてラウルを睨みつけながら、さらに啖呵たんかを切ってラウルのことを汚いものでも見るような目で見ていた。

「ナタリアごめん。まだ目覚めたばかりだから頭が混乱してるのかな?クラウドの言うことは本当だとおかしな事を叫ぶし、親友のアイリスには冷たい態度だしな」

ラウルは無能なりにふと脳裏に浮かんだ。ナタリアは意識が回復した直後だから感情のコントロールが難しいと思った。ついさっき触らないで!というナタリアの乱れた言葉を思い出してラウルの頭に答えが出た。

クラウドの言ったこと(自分とアイリスに殺された)を真実だと言い、幼馴染で無二の親友のアイリスに噛みつくような言葉を浴びせて思いやりのない態度をとっていたのが何よりの証拠だ。

「触らないでって言ったでしょ!!」
「うぐっあぁぁっ!?あぅぅぅ……」

ラウルは僕は君の敵じゃないから大丈夫だから落ち着いてという感じで、優しさにみちあふれた笑顔をナタリアに向けて彼女の頭を撫でた直後、ラウルは一瞬息が詰まって腹に杭でも打ち込まれたような激痛が走った。ラウルはその場に崩れ落ちながら、ナタリアに膝蹴ひざげりを食らわされたのだとわかった。

「きゃあああっ!!……ラウル様、大丈夫ですか?」
「ア、アイリス大丈夫だ。心配してくれてありがとう」

アイリスが驚きに溢れた黄色い悲鳴を上げて倒れているラウルのそばに寄っていく。先ほどラウルに髪をつかまれてボサボサの乱れた髪のアイリスは深い同情を込めた顔で言葉をかけた。ラウルは体が震えるほど喜びがこみ上げてきてアイリスに厚くお礼を言う。

「ラウル様、お口が汚れています。よろしかったら、どうぞお使いください」
「アイリスしまってくれ。君の大切なハンカチを僕のゲロで汚すわけにはいかない」

アイリスはラウルの口元が汚れているのに気がつくと、急いでハンカチを取り出してラウルに拭いてくだいと優しく言う。ラウルはナタリアに膝蹴りを受けて嘔吐してしまった。

ラウルはアイリスの申し出を断った。汚れ一つない綺麗なハンカチを自分の吐いた汚物で汚すことなんて、申し訳なくてできないという思いだった。

ナタリアの膝蹴りは人体の急所の一つ鳩尾みずおちにめり込んでいた。ラウルは窒息しそうな思いをしながら脳が酸素不足にならないように、口に残る嘔吐物の味も疲れも忘れて全力の限りを尽くして呼吸をして体に酸素を取り入れていた。

「ラウル様そのような細かいことなどお気になさらず」
「アイリス、君という女性はどれだけ僕の傷ついた心を癒やしてくれるんだ」

アイリスは汚れなど気にする必要はないと言う。アイリスの慈悲ぶかい人柄に女神のような顔を見た気がした。ラウルは涙を流してハンカチを受け取った。

(本当はお気に入りのハンカチだから汚したくなかったんだけど仕方ないか……)

アイリスの本心では自分の誕生日に贈られた大切にしているハンカチで、ゲロなんか拭ってもらいたくなかった。帰ったらハンカチは焼却炉に放りこむ事が決まった。
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