「幼馴染が妊娠したから結婚は無理」彼に嘘をつかれ、婚約破棄の責任を押しつけられた

佐藤 美奈

文字の大きさ
8 / 24

第8話

しおりを挟む
ロザミアとの生活は、思っていたものとはまるで違っていた。確かに彼女は美しく、その甘える仕草や情熱的なキスはエリックを夢中にさせる。だが、そこまでだった。彼女が本当に求めているのは、彼自身ではなく“王子の妻”という地位と、それに伴う贅沢な暮らしだけだった。

国の未来や民の暮らし、そしてエリックが抱える苦悩について、彼女が興味を示すことは一度もなかった。彼女の関心が向いているのは、ただ高価な宝石やドレス、そして絶え間ない愛の言葉だけだった。それ以外には、全くと言っていいほど気を使おうとしない。最初はその美しさに魅了されていたが、次第にその空虚さに気づかされていった。

『イリアがお腹を蹴ったなんて、よくあんな嘘を思いついたと自分でも思うわ。でも、おかげで私たちは結ばれたんだもの。彼女には感謝しないとね』
 
ある夜、ロザミアがくすくすと笑いながら言った。

その言葉を耳にした瞬間、背筋が凍るような思いが走った。あの夜会での茶番劇は、すべてロザミアが仕組んだ筋書きだったのだ。そして、エリックはそれにまんまと乗せられただけに過ぎない。

もちろん、エリックも共犯なのだから、彼がロザミアのことをどうこう言う資格はない。だが、イリアと親友だというのに、彼女の立場を無視して、ここまで冷徹に計画を実行できるものかと、ロザミアの卑劣さに驚いて恐ろしさも感じた。

あの時のイリアの顔が、今でも脳裏に鮮明に蘇る。全ての光を失った虚ろな瞳。その瞳には、希望も救いも見当たらなかった。そして、ワインに濡れ屈辱に震えながらも、彼女は一粒の涙も見せなかった。

その姿は、あまりにも気高く誇り高かった。どんなに苦しんでいたとしても、自分を見せることなく静かに耐え抜いていた。その強さが、逆に彼を打ちのめしていった。
 
(僕は、なんてことをしてしまったんだ。取り返しのつかない過ちを犯してしまった)
 
エリックの胸に広がるのは、焦りと後悔の念だった。自分が犯した過ちが、日を追うごとに重くのしかかり心を締め付けていく。その中で、イリアへの渇望が日に日に大きくなり、止めようとしても抑えきれない感情が膨らんでいった。

彼の心は、彼女を失ったことへの痛みと、彼女を取り戻すためにどうすべきかという焦燥感で満たされていた。自分がどれほど愚かだったのかを痛感せずにはいられなかった。

「イリア……」

無意識のうちに、彼女の名を呟いていた。会いたい、会って、謝りたい――いや、違う。ただ、彼女に会いたい。あの安らぎを、彼女の隣にいるという安心感が、エリックはどうしても欲しくてたまらなかった。

(彼女が僕を支え、導いてくれたあの光が、今はどこにもない)

そんな矢先、父である国王と、母である王妃が長い外遊から帰国したという報せが届いた。それと同時に、自分の犯した過ちがついに明らかにされ、裁かれる時が来たことを彼は胸の奥でひしひしと感じた。

あの日からずっと避けてきた現実が、今、目の前に立ちはだかっている。エリックのこれからの運命が、両親の前でどう決まるのか。それを強く意識させられ、急に全ての重みが増して深い緊張が胸を締め付けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

異母姉の身代わりにされて大国の公妾へと堕とされた姫は王太子を愛してしまったので逃げます。えっ?番?番ってなんですか?執着番は逃さない

降魔 鬼灯
恋愛
やかな異母姉ジュリアンナが大国エスメラルダ留学から帰って来た。どうも留学中にやらかしたらしく、罪人として修道女になるか、隠居したエスメラルダの先代王の公妾として生きるかを迫られていた。 しかし、ジュリアンナに弱い父王と側妃は、亡くなった正妃の娘アリアを替え玉として差し出すことにした。 粗末な馬車に乗って罪人としてエスメラルダに向かうアリアは道中ジュリアンナに恨みを持つものに襲われそうになる。 危機一髪、助けに来た王太子に番として攫われ溺愛されるのだか、番の単語の意味をわからないアリアは公妾として抱かれていると誤解していて……。 すれ違う2人の想いは?

私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか

れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。 婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。 両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。 バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。 *今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m

嘘の誓いは、あなたの隣で

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢ミッシェルは、公爵カルバンと穏やかに愛を育んでいた。 けれど聖女アリアの来訪をきっかけに、彼の心が揺らぎ始める。 噂、沈黙、そして冷たい背中。 そんな折、父の命で見合いをさせられた皇太子ルシアンは、 一目で彼女に惹かれ、静かに手を差し伸べる。 ――愛を信じたのは、誰だったのか。 カルバンが本当の想いに気づいた時には、 もうミッシェルは別の光のもとにいた。

【完】婚約者に、気になる子ができたと言い渡されましたがお好きにどうぞ

さこの
恋愛
 私の婚約者ユリシーズ様は、お互いの事を知らないと愛は芽生えないと言った。  そもそもあなたは私のことを何にも知らないでしょうに……。  二十話ほどのお話です。  ゆる設定の完結保証(執筆済)です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/08/08

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

婚約解消の理由はあなた

彩柚月
恋愛
王女のレセプタントのオリヴィア。結婚の約束をしていた相手から解消の申し出を受けた理由は、王弟の息子に気に入られているから。 私の人生を壊したのはあなた。 許されると思わないでください。 全18話です。 最後まで書き終わって投稿予約済みです。

旦那様、本当によろしいのですか?【完結】

翔千
恋愛
ロロビア王国、アークライド公爵家の娘ロザリア・ミラ・アークライドは夫のファーガスと結婚し、順風満帆の結婚生活・・・・・とは言い難い生活を送って来た。 なかなか子供を授かれず、夫はいつしかロザリアにに無関心なり、義母には子供が授からないことを責められていた。 そんな毎日をロザリアは笑顔で受け流していた。そんな、ある日、 「今日から愛しのサンドラがこの屋敷に住むから、お前は出て行け」 突然夫にそう告げられた。 夫の隣には豊満ボディの美人さんと嘲るように笑う義母。 理由も理不尽。だが、ロザリアは、 「旦那様、本当によろしいのですか?」 そういつもの微笑みを浮かべていた。

処理中です...