心から信頼していた婚約者と幼馴染の親友に裏切られて失望する〜令嬢はあの世に旅立ち王太子殿下は罪の意識に悩まされる

第29話

恋人への行く手を阻む3人の令嬢達は抜け殻のようなガブリエル殿下を見下ろすように、姿勢を崩さずにまるで石像のように背筋を伸ばして立っていた。

令嬢達の瞳の色は勝利に満ちていて自信たっぷりの目つきで余裕そのもの。

（これで腑抜けたガブリエルを病室から追い出せる。ガラス細工のような脆く豆腐メンタルの男だったわ）

その中でガブリエル殿下に憐れむような視線を向けて意地が悪くうすら笑いを浮かべる一人の令嬢。

「アイラに頼んで私達を追い出すなんてひどい！」
「尊敬していたのに殿下のこと見損ないました！」
「この卑怯者！」
「負け犬のくせに！」
「アイラを汚い目で見るな！」
「殿下さっさと病室からお引き取りを願います」

ところがなりふり構わずアイラ令嬢に助けを求めたガブリエル殿下に、つい先ほどまで余裕だった令嬢達の顔はあっと言う間に変わっていく。

かわいい顔は悪鬼のような形相になり怒りをぶちまけた。

とがめるような根強い憎悪感を含む冷たい口調に噛み付くような言葉を吐いて、悪口でガブリエル殿下の心を折り余すことなく参らせようとしている。

弱った心を奮い立たせたガブリエル殿下は、切ない顔で残された力を出し尽くして婚約者に真剣に訴えかけるような切迫した眼差しを向けて同意を求める。

「君達は黙ってくれ！僕はアイラに聞いているんだ！」
「殿下やり方が汚いですよ！」
「汚いのはアイラと話をさせてくれない君達の方じゃないのか？」
「私達はアイラの親友だから守ってるだけです！」

周りで口うるさく言う令嬢達の圧力に屈することなくガブリエル殿下は反抗を見せる。

令嬢達はきつい目をして突っかかるような口調の野次を飛ばし、冷たい憎しみのこもった視線を向けるがガブリエル殿下は怒りをこめて睨みつける。

ここで負けるわけにはいかないと一歩も譲らない姿勢で本能的に感じて争いはじめた。真っ向から対立し、いがみ合い野獣のように争って手に負えないもつれ。

「みんな申し訳ないけど部屋から少しの間出てくれる？」

そんな彼の姿がいとおしくなったアイラ令嬢は愛嬌のいい甲高い声を部屋に響かせる。床に倒れて涙がにじむ品がなく情けない印象の彼に勝利の女神が微笑む。

誠実な雰囲気でガブリエル殿下は、自分に真っすぐな瞳を向けて暖かい気持ちがこもり安らかさや清らかさを感じた。

親友達が実行している恋人の扱い方に対してアイラ令嬢も反発を感じずにいられなくなって、苦しめられている婚約者に戸惑いと親友達への否定的な見解が同時に湧く。

「アイラがそう言うなら……」
「わかったよ」

ベッドの上にいる親友の言葉に衝撃を受けたような顔をした3人の令嬢。

純粋な二人の愛の前では何もかもが無力だったと感じた親友の令嬢達は、悔しそうな顔をして諦めの色を浮かべ少しふてくされた口調で部屋から去ろうとする。

（まずい！このままじゃヤバイ！どうにかしないと……）

「お腹が痛いーーーーーー！！もうダメーーー！！動けないーーーー！！」

ギャンギャン言う耳をつんざくような騒音で滑稽なほど強情でわざとらしく発する声。動き方やしゃべり方には少なからず演技を感じられる。

「いい加減に見苦しい真似はやめろ！」

何か決心したような美少年は、大きなキラキラ輝く純粋な瞳で突き刺さるような視線を子供みたいに騒ぎまくる一人の令嬢に向けていた。