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第12話

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「戻ったらイリス様を慰め励ましてあげてね」
「うん、そうするよ」

イリスに義理立てする理由は、エレナの一種の虚栄心でもあったが、ハリーに好感を持たれたいという思いが大きい。エレナは温厚で可愛らしい雰囲気の印象を受けるが、見た目とは裏腹にかなり腹黒い性格でもある。

この間抜けな男は幼馴染の邪悪な心は見抜けず、いい子ぶるエレナのことをピュアな心の持ち主だと勝手に思い込んで、ハリーは手玉に取られているとは全然気がつかなかった。


3時間以上経ってやっと二人は帰ってきた。当然ながら夕食を終えたイリスは椅子に腰掛けて、静まり返った部屋で眠れずにぼんやりと天井の隅を見つめていた。

「イリス遅くなってごめん。エレナがどうしても行きたいところがあるって聞かなくて……」
「私のせいにするなんてひどい。ハリーも楽しんでいたじゃない?」

親しげな口調で話す二人の声を聞くたびに、イリスはなんとも言えない気持ちになって、惨めな立場に立たされたことをエレナに思い知らされた気がした。

その時、いきなり肩を掴まれて引き寄せられる。イリスは瞬間、身体を強張らせた。驚いて振り返るとハリーがいつもと変わらない笑顔を浮かべている。

ハリーと良好な関係を維持していた時は、無駄に爽やかな笑顔を向けられても、うっとうしく感じられることは一度もなかった。むしろ顔に喜びを輝かせて迷うことなく、彼の胸に勢いよく飛び込んでいっただろう。

「ちょっと何する気!?」

あなたなにやってんの、みたいな顔で両手で押し返されて睨みつけられてしまった。ハリーは不思議そうな顔をイリスに向ける。

「イリスどうして僕に抱きついてこないんだ?」

慰めるために良かれと思って行ったことは、良い結果をもたらさなかったのでした。ハリーは冷や汗をかきながら 問いかける声は、明らかに動揺の色が見て取れた。

普段なら喧嘩した時もこれで仲直りできるのに……?イリスからの鋭い視線だけは感じられて、ハリーは心の中で慌てふためいている。

「ハリーどういうつもり?」
「えっ?」

声に冷ややかさを込めたイリスが言った。そう言われてもハリーの頭の活動は停止している。いったいなぜだろうか?イリスに突き放す態度を取られたことでハリーの頭はひどく混乱していた。

「今のは黙ってイリス様の肩に腕をまわしたハリーが悪いわ。驚かれるのも当然よ!」

その様子を見かねたのか、エレナが横から口を挟んだ。やや厳しい口調でハリーをとがめる声をあげる。

まさかハリーがここまで空気が読めなくて、頭が鈍い男だとは思わなかったエレナはしばらく絶句の状態になった。
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