25 / 66
第25話
しおりを挟む
――カトリーヌは部屋に既にいない。決死の覚悟を秘めた彼女は最後に振り返って、大切な人の笑顔を思い浮かべているから怖くない。あなたを守るから生きるのを諦めないでと言った。国王とレオナルドは、涙を流し続けていつまでも引きとめておくことはできなかった。
「やはり行ってしまったか……」
「……あんな真面目な顔は初めて見た。カトリーヌ……無事で戻ってきてくれ……」
「あなたたちは何を言ってるのですか!」
もう何事もないことを祈るしかない。二人揃って心配そうな顔をし続けていたら、王妃が不機嫌な口ぶりで言った。かなり不満を抱くものがあったらしい。
王妃のとがめるような視線に気づくと、途端に国王とレオナルドは肩をすぼめた。王妃はアリーナを応援する気持ちが強かった。美容でお世話になっているので、感謝の気持ちを常に忘れていないのです。
「――あそこがアリーナ邸ね」
正面から見ると、なかなかお洒落で白く立派な屋敷だと特に意識せずに感心した。さすがは辺境伯令嬢で神の能力を持つ女性の家であるという思いだ。広大な敷地の周囲を高い塀が取り囲んで、まことに見事な風格を備えている。旧王族が暮らしていた白亜の大豪邸であった。
だが、その広さゆえに外部から侵入するのは難しくないと思わせる。カトリーヌは人の目で認識できないように姿を消した。第一級で才能豊かな魔法師のカトリーヌには、この程度は造作なくできる。
「何がアリーナよ。私のほうが勝つに決まってるわ……人はいつか死ぬけど、好きな人にはまだ生きてもらいたい……」
カトリーヌは、はっきりと不快そうな表情を浮かべていた。彼女は自分の強さに絶大な自信を持っている。これは特に自惚れているわけではない。これまで多大な成果を上げて高い評価を得て世間に認められているのです。
なので、国王の言うことに苛立ちが心の底にあった。何を言ってるの?このおじさん頭が悪いわね。私が負けるわけがないのに、口うるさく注意してばかみたいと思っていた。それでも、国王の前では傲慢な態度をあまり取らなかったのは彼女が、年上の人間に対する礼儀礼節は弁えているからだろう。
「――ミレーユったら、うふふふ」
「この前はそんなことがあったわ。アリーナ笑いすぎよ?」
アリーナと親友のミレーユの声が聞こえてきた。二人は一緒にお茶を飲みながら、世間話に花を咲かせていた。
屋敷の庭には、壮麗な薔薇園が拡がっている。花畑に囲まれた中心に二人はいた。何かの話が思いがけなく膨らんで明るく楽しい会話を交わしながら、甘いお菓子をついつい食べすぎてしまう。
(私が近くにいるのに、何もわからずに笑顔でしゃべってる。これだからお嬢様はお気楽で困るわ……)
レオナルドの幼馴染のカトリーヌは伯爵令嬢である。普通の一般人からしたら、彼女も相当なお嬢様であるが、これまで魔法師として何度も修羅場をくぐり抜けて生きのびてきた女性なので、そのへんの貴族の令嬢とは自分は違うと言いたげな顔をしている。
とても落ち着いた雰囲気で、のんびり過ごしてお茶とケーキを楽しんでいる。そのことに何となく言葉で説明できない複雑な感情が燃え上がってきた。ほとんど八つ当たりみたいな感じであるが、そんなことはカトリーヌには関係ない。もうすっかり激昂してしまって、一気に怒りが頂点に達した。
次の瞬間ふと思う。話し合う前に、楽天的な頭のお嬢様の二人を自分の魔法で、少し脅かしてやろうと思ったのだった。
「やはり行ってしまったか……」
「……あんな真面目な顔は初めて見た。カトリーヌ……無事で戻ってきてくれ……」
「あなたたちは何を言ってるのですか!」
もう何事もないことを祈るしかない。二人揃って心配そうな顔をし続けていたら、王妃が不機嫌な口ぶりで言った。かなり不満を抱くものがあったらしい。
王妃のとがめるような視線に気づくと、途端に国王とレオナルドは肩をすぼめた。王妃はアリーナを応援する気持ちが強かった。美容でお世話になっているので、感謝の気持ちを常に忘れていないのです。
「――あそこがアリーナ邸ね」
正面から見ると、なかなかお洒落で白く立派な屋敷だと特に意識せずに感心した。さすがは辺境伯令嬢で神の能力を持つ女性の家であるという思いだ。広大な敷地の周囲を高い塀が取り囲んで、まことに見事な風格を備えている。旧王族が暮らしていた白亜の大豪邸であった。
だが、その広さゆえに外部から侵入するのは難しくないと思わせる。カトリーヌは人の目で認識できないように姿を消した。第一級で才能豊かな魔法師のカトリーヌには、この程度は造作なくできる。
「何がアリーナよ。私のほうが勝つに決まってるわ……人はいつか死ぬけど、好きな人にはまだ生きてもらいたい……」
カトリーヌは、はっきりと不快そうな表情を浮かべていた。彼女は自分の強さに絶大な自信を持っている。これは特に自惚れているわけではない。これまで多大な成果を上げて高い評価を得て世間に認められているのです。
なので、国王の言うことに苛立ちが心の底にあった。何を言ってるの?このおじさん頭が悪いわね。私が負けるわけがないのに、口うるさく注意してばかみたいと思っていた。それでも、国王の前では傲慢な態度をあまり取らなかったのは彼女が、年上の人間に対する礼儀礼節は弁えているからだろう。
「――ミレーユったら、うふふふ」
「この前はそんなことがあったわ。アリーナ笑いすぎよ?」
アリーナと親友のミレーユの声が聞こえてきた。二人は一緒にお茶を飲みながら、世間話に花を咲かせていた。
屋敷の庭には、壮麗な薔薇園が拡がっている。花畑に囲まれた中心に二人はいた。何かの話が思いがけなく膨らんで明るく楽しい会話を交わしながら、甘いお菓子をついつい食べすぎてしまう。
(私が近くにいるのに、何もわからずに笑顔でしゃべってる。これだからお嬢様はお気楽で困るわ……)
レオナルドの幼馴染のカトリーヌは伯爵令嬢である。普通の一般人からしたら、彼女も相当なお嬢様であるが、これまで魔法師として何度も修羅場をくぐり抜けて生きのびてきた女性なので、そのへんの貴族の令嬢とは自分は違うと言いたげな顔をしている。
とても落ち着いた雰囲気で、のんびり過ごしてお茶とケーキを楽しんでいる。そのことに何となく言葉で説明できない複雑な感情が燃え上がってきた。ほとんど八つ当たりみたいな感じであるが、そんなことはカトリーヌには関係ない。もうすっかり激昂してしまって、一気に怒りが頂点に達した。
次の瞬間ふと思う。話し合う前に、楽天的な頭のお嬢様の二人を自分の魔法で、少し脅かしてやろうと思ったのだった。
5
あなたにおすすめの小説
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?
よどら文鳥
恋愛
デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。
予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。
「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」
「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」
シェリルは何も事情を聞かされていなかった。
「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」
どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。
「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」
「はーい」
同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。
シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。
だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
【完結】貴方の後悔など、聞きたくありません。
なか
恋愛
学園に特待生として入学したリディアであったが、平民である彼女は貴族家の者には目障りだった。
追い出すようなイジメを受けていた彼女を救ってくれたのはグレアルフという伯爵家の青年。
優しく、明るいグレアルフは屈託のない笑顔でリディアと接する。
誰にも明かさずに会う内に恋仲となった二人であったが、
リディアは知ってしまう、グレアルフの本性を……。
全てを知り、死を考えた彼女であったが、
とある出会いにより自分の価値を知った時、再び立ち上がる事を選択する。
後悔の言葉など全て無視する決意と共に、生きていく。
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる