誕生日パーティーで婚約破棄を発表された「幼馴染が妊娠したから結婚する！」王子が体を壊して地獄の苦しみを経験する。

第28話

やがてそこに姿を現わしたのはカトリーヌ令嬢でした。細い両腕で頭を抱えて地に伏ふせて、じっと動かないまま何も信用できないような絶望ぜつぼう的な目をしていた。

「……どうしてこの人がアリーナを襲おそうの？」
「私が回復した病気が再び発症はっしょうして苦しんでいるレオナルドのためじゃないかしら？」

カトリーヌを見下ろしながら、ミレーユが納得できないような顔で口を開いた。どうしてアリーナに対して危害を加えようとしたのか？

アリーナはレオナルドの病気が発症してカトリーヌが助けるためにやってきたのだろうと、ある程度予想していた通り、大方そんなところだろうという口ぶりである。まさにその通りであります。ただカトリーヌの中では自分が勝負しょうぶを制すると思っていたが……。

「ばか王子がアリーナとの約束を破った裏切りの代償で……そういうことね」

アリーナの話を聞いてミレーユは腑ふに落ちました。生まれつき虚弱きょじゃくな体質のレオナルドをアリーナが治療ちりょうしたのも知っていますし、彼女への感謝を忘れて調子に乗った彼が、何度も呼び出して軽い病気を回復してもらっていたことも全てわかっている。

誕生日パーティーでは、アリーナが先に帰った後にミレーユはレオナルドに近づいて、面と向かって厳しい批判を浴びせた。言葉に尽くせない恩おんを受けておきながら、親友と婚約破棄とはどういうことだと抑えきれない感情を爆発させた。

「カトリーヌさんは凄すごく強い魔法師みたいなので、私に勝てる自信があったのでしょう」

アリーナはカトリーヌのことを半ば当然のように認識にんしきしていた。彼女は魔法師として数々の功績を挙げて名を響ひびき渡らせているのだ。世界中でも知らない人のほうが珍めずらしいだろう。

「あっ！思い出しました。カトリーヌさんって《烈火れっかの炎髪えんぱつ》なんて異名いみょうをお持ちの超強い人じゃないですか!!」

次の瞬間、ミレーユは頭の中に埋うもれていた記憶きおくを掘り起こす。異名持ちで、とんでもないほど強い人だとかなり興奮こうふん気味に声をあげた。

「カトリーヌさんって火魔法が得意で上位精霊とも契約してるらしいわ」
「何でも盗賊団数千人を一瞬で燃やし尽くしたみたいよ」
「まあ怖こわいですねぇ～」
「私たちのことを火魔法で脅おどかそうとしたのね……」