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第41話

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「……アリーナ……」

レオナルドはひどく弱々しく今にも死にそうに思える。だが残りわずかな命で力を振りしぼってアリーナに声をかけた。

「なに?」
「最後に、頼みを聞いてほしい……」
「わかったわ」

アリーナはレオナルドの手をしっかりとにぎりながら直ぐに反応した。彼は最後にお願いがあると言う。彼女は二つ返事で引き受けた。

「キスしてくれ……熱いキスを……」
「え?」

レオナルドはキスを要求してきたのである。それも軽い接吻せっぷんではなくて濃厚のうこうなキスを希望した。アリーナは、あからさまに嫌そうな顔をして考え込む。

(私がそんなおねだりを聞く義務ぎむがあるの?レオナルドとは別れてるし全くないわね。それに好きな人じゃないとそう言う事はしたくないし……)

「アリーナお願いだ……げほっ、ごほっ」
「無理です」
「……な、なんで……!?」

せきこみながら、どうしてもご所望しょもうとおっしゃる彼に向かって、彼女は断固拒否する立場をつらぬいた。まさか断られるとは思わなかった。レオナルドはとても悲しそうな顔をして聞いてくる。明らかに動揺の色を隠せず悲壮ひそう感をただよわせている。

「もう私たちは別れてますから、あり得ないでしょう?絶対嫌です!」

婚約破棄したくせに何を言っているんだ?都合がいい時だけ彼氏面するな!別れた男に死ぬ間際になって頼まれてもそんなことは出来ません。冷たい目で見据みすえたまま、自分でも意外なほどきつい声を出してしかっていた。

「そ、そんな事言わないでくれ……そ、それなら軽くでいいから口づけを頼む……」

拒否する意思表示をはっきりしめすアリーナに、レオナルドはハードルを下げる。むさぼるようなキスなんて立場をわきまえず贅沢ぜいたくな事を言って申し訳ありませんでした。それなら軽いキスで結構でございますと、彼は妥協だきょうするより仕方がなかった。

「好きな人じゃないと私は無理って言ってるでしょ!」
「アリーナ頼むよ。死にそうだから……あの世にくから君との最後の思い出をください……」
「いい加減にいさぎよく死になさいよ。おいきなさい」

深い愛情で結ばれている人じゃないとキスはできない。そういうアリーナの言葉にレオナルドは、思い出作り的な意識があるようだ。

くたばりかけの彼を見て、さっさと生涯しょうがいを終えないかな?と彼女は思いながら、あっさり成仏じょうぶつしろと言い捨てて少し苛立いらだったように口をゆがめた。
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