婚約者を妹に取られた私、幼馴染の〝氷の王子様〟に溺愛される日々

ぱんだ

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第10話

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「なあ、これ見ろよ」

いつものように、カイルが私の部屋のソファでリラックスしてくつろいでいた。彼は無造作に王都の流行帳を広げ、興味深そうにページをめくりながら私にそれを見せてきた。そのページには、美しい湖畔の町の写真が鮮やかに載っていた。青く透き通った湖が町を囲み、その水面には陽光が反射してきらきらと輝いていた。

周囲には色とりどりの花々が咲き乱れ、街並みには古びた石畳の道が続いていて、絵画のような美しい風景が広がっていた。その光景に、思わず私は息を呑んだ。カイルも嬉しそうに、自分がその場所に行ったかのように、その町について語り始めた。

「綺麗……」
「だろ? “水の都”って呼ばれてるらしい」
「……行ってみたいな」

ぽつりと漏れた本心に、思わず自分でも驚いてしまった。その言葉が口をついて出た瞬間、私は自分の感情に無自覚だったことに気づき、少し恥ずかしさを感じた。しかし、カイルの反応は予想外だった。

彼は優しく目を細め、嬉しそうに私を見つめていた。その顔には、私の言葉に心から喜んでいることが滲み出ていて、私の胸の奥に温かな気持ちが広がった。私の本心を察していたかのように、彼の表情は柔らかく安心感を与えてくれるような微笑みを浮かべていた。

「じゃあ、行こう」
「え?」
「卒業したら二人で行こう。誰にも邪魔されないところに」

。その言葉が耳に響くと、何とも言えない甘さが心に染み渡った。カイルとの未来を想像すると、胸の奥がじんわりと温かくなり、長い間失っていたものが少しずつ戻ってくるような感覚に包まれた。

過去の失恋の傷で、灰色に染まっていた私の世界が、カイルとの時間を重ねるごとに少しずつ色を取り戻していく。彼の存在が、私にとってどれほど大切で、どれほど大きな力になっているのか改めて感じる瞬間だった。

「……うん」
「本当か!?」
「……行きたい、かも」

素直に頷くと、カイルは子供のように、嬉しそうに大きく笑顔を浮かべた。その顔は、学園での冷徹な一面とは違って、無防備な笑顔が愛らしく思わず心が温かくなった。

「約束だからな!」

彼はさらに力強く念を押してきた。その言葉に、私も思わずくすっと笑ってしまった。彼の真剣な顔とその童心に帰ったような笑顔のギャップが、なんだかとても尊く感じられた。

彼と一緒にいると、どこか遠くに置き忘れていた感情や記憶が次々と蘇ってくる。忘れていたはずの喜びや楽しさ、素直に心を開くことの大切さを、彼といることで再び感じることができる。私の中にあった固く閉ざされていた扉が、少しずつ開かれていくような気がして胸がいっぱいになる。

次の日、読んでいた本の間に、可愛らしい押し花の栞が挟まっているのを見つけた。見たことのない青い小さな花。メッセージカードが添えられていた。

『湖畔の町に咲く花だ。先取り。 K』

不器用な字で書かれたメッセージ。その一文字一文字に、カイルの真心が込められているのを感じ、思わず胸がきゅんと締めつけられるような気持ちになった。小さなサプライズのようなその手紙は、何気ないものであったはずなのに、私にとってはそれが一番の宝物のように感じられた。

周りの人々には『氷の王子様』として冷徹に振る舞っている彼。どんなに周囲を凍りつかせるような態度を取っていても、私にはそれが一切感じられない。なぜなら、彼は私にだけは温かく優しく接してくれるから。

こんなに不器用で真っ直ぐな王子様に、私はもうとっくに心を奪われてしまっていた。彼の冷たい外見の裏に隠されたその温かさに、私はすっかり心を委ねていた。
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