婚約者を妹に取られた私、幼馴染の〝氷の王子様〟に溺愛される日々

ぱんだ

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第11話

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心労がたたったのか、ある朝、ひどい熱を出して寝込んでしまった。頭がガンガンして、体は鉛のように重くて動くのもつらかった。ぼんやりとした意識の中で、誰かが部屋に入ってくる気配がして、やがてその人物の声が響いた。

「エリーゼ? 大丈夫か?」

その声は、間違いなくカイルのものだった。ぼやける視界の中で、彼が心配そうに私の顔を覗き込んでいるのが見え、なんだか夢の中のように感じた。

「……カイル、……なんで」

私は弱々しくつぶやいた。

「なんでじゃないだろ。顔色が悪いってメイドから聞いて、すぐに飛んできたんだ」

カイルは私の手を取るようにして、私の額に優しく触れた。その優しさに私は思わず目を閉じた。

「熱いな」

彼は眉をひそめ、何かを考えているようだった。そして、すぐに濡れたタオルを持ってきて、そっと私の額に乗せてくれる。その手つきは、驚くほど手慣れていて、どこか冷静で私を安心させるようだった。

「何か食えそうか? 粥でも作らせるが」

彼は心配そうに言った。

「……いらない」

私は小さな声で答えたが、彼の顔を見上げることができなかった。

「一口でもいいから食え。薬が飲めないだろ?」

有無を言わさぬ口調だったけれど、その言葉の奥に確かな優しさが感じられた。カイルがメイドに指示して持ってこさせたお粥は、ほとんど味がしなかったけれど、彼の「食え」という強い視線に負けて、私は数口だけそれを口にした。無理して飲み込むその味気なさに、少し苦笑いがこみ上げてきたけれど、それでも彼の思いやりに胸が温かくなった。

薬を飲んだ後、再びベッドに横になると、カイルはまだ帰る気配を見せなかった。彼はベッドサイドの椅子に静かに座り、ただじっと私のことを見守っているだけだった。その視線は、私を包み込むように優しくて心強かった。

「……もう、大丈夫だから。帰っていいよ。うつるかもしれないし」

私は弱々しく言ったが、カイルは微動だにしなかった。

「俺は風邪ひかないんだよ。お前が眠るまで、ここにいる」

そう言って、彼はそっと私の手を握った。その手は大きくて温かく、私を守るように力強く包み込んでくれた。その温もりが、身体の奥までじんわりと染みていき、弱った心に優しく浸透していくのを感じた。

フレックスが、私が体調を崩したときに見舞いに来てくれたことなど一度もなかった。口先だけで心配してくれたことはあったかもしれないけれど、本当の意味で心配してくれることなんてなかった。でも、カイルは違う。彼は、言葉ではなく行動で示してくれる。彼は今、ここにいる。それだけで私の心は少し楽になった。

「……カイル」

私は声を震わせながら、ただ彼の名前を呼んだ。

「ん?」

カイルが、少し驚いたように私を見返す。

「……ありがとう」

私は言葉を紡いだが、それがすべてだと言いたかった。感謝の気持ちが溢れて胸がいっぱいになった。

その瞬間、涙がふと頬を伝った。しかし、それは悲しい涙ではなかった。温かい涙で心から感謝している涙。握られた手に私は自然と力を込めた。その力が、どこかお互いの絆を深めるように感じられた。

「……早く元気になれよ」

カイルの声が、ほんの少しだけ震えているように聞こえた。それはきっと、私のせいだろうと思った。熱のせいで、彼の声も少しだけ震えていたのだろう。それでも、その声には切なさと温かさが含まれていて、私はその声に包まれながら少しずつ眠気に誘われていった。
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