4 / 4
風邪引きな恋
しおりを挟む
ずびびび。
鼻水が垂れる。うわ、きったねえ、なんて自分で言う。
ぷるるる、と電話が鳴る。マナーにしてなかったっけ?と首を捻りながら、携帯の電話に出た。
「も゛じも゛じ」
普通に発音したつもりが、自分の耳に聞こえてきたのはダミ声で潰れた声だった。
昨日、ドラマよろしく雨に打たれながら帰ってきた私に与えられたのは、新しい恋の予感ではなくただの風邪だった。悲しい。
しかも、熱が出てしんどいだけでなく、鼻は詰まるしその上鼻水すごいし、咳で息止まるかと思ったし、喉痛くてご飯の味わからない。
さらに不幸なことに、私には見舞いに来てくれる人がいない。やだ寂しい。
「あんたすっごい声!大丈夫?その様子だと多分、あいつの告白は上手くいっちゃったんだね」
電話の相手は、昨日食堂で一緒にご飯を食べた友人。軽くげっそりしながら、ああまあうん、なんて濁した返事を返した。
「で、どうすんの?」
「んー……」
ずびびびー!と、吸い込みの悪い掃除機みたいな音を出しながら鼻をかむ。
「どうもしないよ。今まで通り。多分あいつは私に相談してくるし、私はそれに乗るだけ。たまにどうしようもなく好きって言いたくなるから、そしたらまた音の賑やかな場所で小さく言うだけ」
「……」
「あとは、あいつが振られるのをひたすらに神様に祈る」
鼻が詰まると、マ行が話しにくい。私だけだろうか。
ぐずぐずとなる鼻が、まるで私を泣いているようにさせる。
「普通さ」
「うん」
「少女漫画とかではさ」
「ここ現実だよ」
「知ってるわよ」
「それは良かった」
「まあ聞きなさいよ。少女漫画とかでは、好きな人の恋を応援したり、幸せを応援したりするものじゃないの?」
一途で純粋な、少女漫画の主人公。好きな人に、他に好きな人がいても笑って身を引くような。
「知らないよ。そんなの。私が幸せならそれでいいの。あいつが、私と一緒に幸せにならないなら、あいつは幸せにならなきゃいい」
自分勝手で身勝手な、私。自己犠牲的な精神なんて、私には無理だよ。
「あ、そ。あんたって変わってるわ」
「え?私普通だけど」
「……まあいいや。元気そうで良かった。じゃあ、ゆっくり寝なさいね」
「まりちゃん、お見舞い来てくれないの?」
まり。私の友達。
「あんたにちゃん付けで呼ばれると、気持ち悪いわ。やっぱ具合悪いのね。しっかり寝なさい。じゃあね。お見舞いは……気が向いたら行ってあげる」
まりはそう言って、電話を切った。
携帯をベッドの上に投げて、またテイッシュを手に取る。ずびびび。
私の恋も風邪ひいたみたい。熱っぽくて、このままあいつにぶちまけようかな、なんて思う。
寸前のところで止めて、吐き出しそうな汚物を飲み込む。……ん、汚物。
「そっかあ。汚物かあ」
あははははは~。
ぼっちな部屋に、から回った私の笑い声が響いた。
まりが見たら、気持ち悪ッて言うと思う。もうなんか、どうでもいいや。
動くのもだるくて、そのまま床に転げた。
「おい」
はて。幻聴だろうか。
「莉緒」
私の名を呼ぶ、誰かの声。電話越しによく聞く、馬鹿者の声。
「……ばかやろお」
「誰がだ」
珍しく、不機嫌な声だった。あんたお調子者なのに。昨日、好きな人と両思いになったはずなのに。
幸せに、なってるんじゃないの。なんでそんな不機嫌そうなの。
「お前、こんなとこで寝てたら悪化すんだろ!」
うるさい……
ずき、と頭が痛む。右側らへん。よくわからないけど。
「起きろって!」
起きろ?つまりこれは夢なのか。そーか。
「しゃーねえな……」
膝の下と、背中あたりに腕みたいなのが当たる。ふわり、と浮遊感。空飛ぶ夢?
違うなあ。これはお姫様抱っこっぽい。
夢って願望の表れだって聞いたことがある。つまり私は、あいつにお姫様抱っこして欲しかったのか。
「ばかばかばーか」
夢の中でまで、私の王子様気取んじゃねえー。
そういえば昔は、よく私が風邪ひいて、その度になぜかこいつが助けに来てくれたりしたっけ。彼女できたらしいし、もう当てにできないんだよなあ。
はぁあ、なんてため息を吐いて、深い眠りへと落ちていった。
起きた時、枕元になぜか置き手紙があった時は絶句した。無理すんな無茶すんなばか言うな、とだけ書いてあった。
鼻水が垂れる。うわ、きったねえ、なんて自分で言う。
ぷるるる、と電話が鳴る。マナーにしてなかったっけ?と首を捻りながら、携帯の電話に出た。
「も゛じも゛じ」
普通に発音したつもりが、自分の耳に聞こえてきたのはダミ声で潰れた声だった。
昨日、ドラマよろしく雨に打たれながら帰ってきた私に与えられたのは、新しい恋の予感ではなくただの風邪だった。悲しい。
しかも、熱が出てしんどいだけでなく、鼻は詰まるしその上鼻水すごいし、咳で息止まるかと思ったし、喉痛くてご飯の味わからない。
さらに不幸なことに、私には見舞いに来てくれる人がいない。やだ寂しい。
「あんたすっごい声!大丈夫?その様子だと多分、あいつの告白は上手くいっちゃったんだね」
電話の相手は、昨日食堂で一緒にご飯を食べた友人。軽くげっそりしながら、ああまあうん、なんて濁した返事を返した。
「で、どうすんの?」
「んー……」
ずびびびー!と、吸い込みの悪い掃除機みたいな音を出しながら鼻をかむ。
「どうもしないよ。今まで通り。多分あいつは私に相談してくるし、私はそれに乗るだけ。たまにどうしようもなく好きって言いたくなるから、そしたらまた音の賑やかな場所で小さく言うだけ」
「……」
「あとは、あいつが振られるのをひたすらに神様に祈る」
鼻が詰まると、マ行が話しにくい。私だけだろうか。
ぐずぐずとなる鼻が、まるで私を泣いているようにさせる。
「普通さ」
「うん」
「少女漫画とかではさ」
「ここ現実だよ」
「知ってるわよ」
「それは良かった」
「まあ聞きなさいよ。少女漫画とかでは、好きな人の恋を応援したり、幸せを応援したりするものじゃないの?」
一途で純粋な、少女漫画の主人公。好きな人に、他に好きな人がいても笑って身を引くような。
「知らないよ。そんなの。私が幸せならそれでいいの。あいつが、私と一緒に幸せにならないなら、あいつは幸せにならなきゃいい」
自分勝手で身勝手な、私。自己犠牲的な精神なんて、私には無理だよ。
「あ、そ。あんたって変わってるわ」
「え?私普通だけど」
「……まあいいや。元気そうで良かった。じゃあ、ゆっくり寝なさいね」
「まりちゃん、お見舞い来てくれないの?」
まり。私の友達。
「あんたにちゃん付けで呼ばれると、気持ち悪いわ。やっぱ具合悪いのね。しっかり寝なさい。じゃあね。お見舞いは……気が向いたら行ってあげる」
まりはそう言って、電話を切った。
携帯をベッドの上に投げて、またテイッシュを手に取る。ずびびび。
私の恋も風邪ひいたみたい。熱っぽくて、このままあいつにぶちまけようかな、なんて思う。
寸前のところで止めて、吐き出しそうな汚物を飲み込む。……ん、汚物。
「そっかあ。汚物かあ」
あははははは~。
ぼっちな部屋に、から回った私の笑い声が響いた。
まりが見たら、気持ち悪ッて言うと思う。もうなんか、どうでもいいや。
動くのもだるくて、そのまま床に転げた。
「おい」
はて。幻聴だろうか。
「莉緒」
私の名を呼ぶ、誰かの声。電話越しによく聞く、馬鹿者の声。
「……ばかやろお」
「誰がだ」
珍しく、不機嫌な声だった。あんたお調子者なのに。昨日、好きな人と両思いになったはずなのに。
幸せに、なってるんじゃないの。なんでそんな不機嫌そうなの。
「お前、こんなとこで寝てたら悪化すんだろ!」
うるさい……
ずき、と頭が痛む。右側らへん。よくわからないけど。
「起きろって!」
起きろ?つまりこれは夢なのか。そーか。
「しゃーねえな……」
膝の下と、背中あたりに腕みたいなのが当たる。ふわり、と浮遊感。空飛ぶ夢?
違うなあ。これはお姫様抱っこっぽい。
夢って願望の表れだって聞いたことがある。つまり私は、あいつにお姫様抱っこして欲しかったのか。
「ばかばかばーか」
夢の中でまで、私の王子様気取んじゃねえー。
そういえば昔は、よく私が風邪ひいて、その度になぜかこいつが助けに来てくれたりしたっけ。彼女できたらしいし、もう当てにできないんだよなあ。
はぁあ、なんてため息を吐いて、深い眠りへと落ちていった。
起きた時、枕元になぜか置き手紙があった時は絶句した。無理すんな無茶すんなばか言うな、とだけ書いてあった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる