リュウのケイトウ

きでひら弓

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29合宿6ライバル

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『ねえ、
慧人君 二人で居る時だけで
良いから
お兄ちゃんて呼んじゃ
ダメ      かな?。』
夏が慧人のシャツの裾を
少し引きながら、
上目遣いで、恥じらいながら
聞いてくる。
慧人はしばらく、
口を開く事が出来ない。
『ああ、夏がそうしたいのなら。』
夏は消え入りそうな声を
絞りだす様に
一言だけ紡ぎ出す事が出来た。
『ありがとう。』
しかし、慧人の真意をまだ
測りあぐねている。

程無くして朝練の開始時間が
迫り、C組の面々が、
一人二人と境内に集まってくる。
『おはようございます。
慧人さん、夏、
随分早かったんですね。
私達が一番かと思いましたのに。』
『慧人、夏、  おはよ。』
ティタと迩椰が境内への
階段を軽快に上がって来て
二人に挨拶する。

夏は階段を上がって来る
気配と共に素早く慧人から
少し距離を置いている。

慧人と夏も
二人に朝の挨拶をする。
『二人共、おはよう。
                 早かったな。』
『おはよう。
    ティタ、迩椰。』
夏は平静を装っている。
しかし、握っている手に力が
こもっていて、
何処かぎこちなさを
滲ませてしまっていた。
それは、ほんの些細な事。
普通の関わりも少ない人間なら
気が付く事も無い程の瑣事。
しかし、ティタは見逃さない。
『夏、何か良い事でも、
有ったのかしら?。』
夏は、ビクッと反応してしまう。
繰り出す言葉も漫ろ(そぞろ)に
『え、   うん。
       その、     ちょっと  ね。』
ティタの目を見据える事が出来無い。
うつむき、ほんのり赤く染まる。
耳の先にも熱がこもっているように。
『慧人さん
      すこぉーーし、
     お話しを伺ってもよろしい
                 でしょうか。』
ティタが場の空気を2度程
下げる様な気配を発している。
『何だ?。
特段、変わった事も無いが。』
慧人は身動ぎ(みじろぎ)
一つ無い揺らぐ素振りさえなく
坦々と答える。
『それにしては、
夏と随分と仲良くおなりに
なっていらっしゃいますのね。
とても良い事だとは思いますが
どのような経緯か、ほんの
少し気になりましたもので。
ええ、本当に少しだけ。』
ティタは面に貼り付けた
作り笑顔を微妙にこわばらせ
その上、目が笑っていない表情で、
世界を震撼させる空気を纏うと
真実を伝え聞かせよと
モーゼを思わせる尊大な
気迫で更に慧人を問い詰める。
夏は、その気迫に押され、
既に慧人の後ろに隠れ
シャツの裾をつかんで離れない。
『夏が昔、仲良くして
貰った人に似てるんだそうだ、
俺が。』
慧人の答えを肯定する様に、
夏は後ろでコクコク頷く。
しかし、表情には少し陰が射していた。
『ティタ、
あまり夏を責めてやるな。
俺とて、"藤の紫と蜜の香を
記憶の端に感じ入れば"
良い思い出の隙間位は
埋めてやりたいと思うものだ。』
慧人は夏にしか解らない
メッセージを織り交ぜ、
ティタの詰問に回答する。
夏の表情に射す陰は形を(なりを)
潜め、明るい笑顔に変わっていた。
そこへ、傍観者だった迩椰が
言葉を挟む。
『夏、良かったね。
夏もこれで迩椰達と一緒。
迩椰も夏の事、大好きだよ。
慧人もきっと夏の事は 
守備範囲。』
迩椰が親指を立てるポーズで
ニカッと無邪気な笑顔を作る。
夏の容姿は、
ティタや迩椰の様な
超美少女とは言え無いが、
たまご形の面に、
少し愛嬌のある下がり気味の
クリッとした茶色の瞳、
肩まであるサラッとした
ダークブラウンの髪、
誰が見ても可愛いと思わせる
親しみやすい顔立ちなのだ。
慧人は迩椰の言葉に
やれやれとした半笑。
夏は、迩椰の言葉に
『迩椰ちゃん
         ありがとう。』
と少し潤んだ瞳で答えている。
ティタはスッと夏に半身を寄せて
イタズラっぽくウインクすると
耳元で小さく
『良かったわね。
     でも、私も負けはしませんよ。』
とニッコリ笑顔で、
囁いたのだった。

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