リュウのケイトウ

きでひら弓

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63大会5重なる心

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二人が乗る起動兵器が
試合会場に姿を現した。

北側の位置に夏のカムイ
南側は雅美の乗るトキツヅル。

地面から重力制御により
2m浮き上がった位置、
お互いの距離は100mの
間隔を置いた所が
試合開始地点に設定されている。

二機のスラスターは既に
開始の合図が鳴らされても
瞬時に反応出来るよう
予備暖気は万全な状態だ。

雅美は試合開始合図の
タイマーカウントダウンを
視線の側に映し
スロットルレバーを
今一度、握り直すと
何時でも全開で行ける
体制に呼吸を同調させた。

夏はカウントダウンシグナルを
視界に捉えた時でも
自分が至極冷静で
精神が凪の状態、
その上研ぎ澄まされて
行く感覚が全身を
支配している事を覚るのだった。

シグナル赤

     ………赤

     ………赤

     ………黄

     ………青

二機が一斉に
スラスタースロットルを開けた。

雅美は夏のカムイに向かって
一直線に迫る。

夏は後方に旋回しながら
距離を取り牽制の70㎜機銃を
敵機、胸より少し下を
数発点射し最短を取らせない
様にする。

雅美は直線的な動きから
夏の機銃を回避しつつ 
それでも距離を開けられない為に
最小の軌道で修正をかける。

雅美の修正が完了しないうちに
夏は主兵装の90㎜長銃身型の
アサルトライフルを
トキツヅルの胸目掛けて発泡。

雅美はロックオンを直ぐ回避。
そのまま70㎜機銃掃射。

牽制の意味合いしか持たない
機銃掃射を夏は余裕を持って交わし
更に両機間の距離を稼ぐ。

『夏、
余裕だな。
しかし何時までも
ヒラヒラ逃げてばかりは
居られないぞ。』

試合開始直後から両機間の
通信回線は遮断される。
よって雅美の今の言葉は
独り言だ。

次に回線が繋がるのは
試合終了直後。
それまでは
通信による外からの
情報は一切無い。

夏はもう一度ライフルを放つ。
回避される事は織り込み済み。

夏の乗るカムイの今日の装備は
長距離、中距離用装備に
バインドブレイクと呼ばれる
肘と肩に装備可能な盾が
採用された。

これは相手の中距離装備を
無効にする効果と
もう一つの考えにより
選ばれた物だった。

ライフルを回避した後
直ぐに機銃で応戦。
これだけ距離を取られると
70㎜機銃では殆ど
意味の有る効果は期待出来ない。

しかし焦って雑にライフルを
回避してしまえは、
そこは夏の思う壺。

軌道を予測され
狙い撃たれてしまう。
雅美は冷静さを欠く事無く
夏の術中にハマるまいと
対処を続けるのだった。

『二人共辛抱強いな。

最早持久戦の様相だが、
このままでは時間切れに
なりはしないか。』

『何方かが
動きを見せるでしょう。

雅美は距離を詰めなけば
埒があきません。

恐らく…………。』
 
ミゥが腕組みしながら
二人の膠着状態を
睨み付けている。

慧人は事態の動きが
有る事を予感して
二機の軌道をモニターと
目視の両方で確認しながら
ほくそ笑んでいた。

雅美が70㎜機銃掃射を
放つ寸前、
夏の機体が同じ軌道から
少しだけ左右に揺するよう
変化を示した。

雅美はこの隙を見逃すまいと
機銃を点射に切り替え
一気に距離を詰めに掛かった。

しかし其処を狙う様
夏のライフルが雅美の軌道先に
一撃を放つ。 

間一髪直撃の所を
ギリギリで体制を捻り
肩部のアーマーで
凌ぐと予定軌道を外れ
二射目を警戒、
少し距離を置いた。

『夏、凄いぞ。
弓道にしても
こんなに上達しているとは。

でもな
私は夏にはもっと
剣術を続けて欲しかった。

私はお前が去った後も道場で
何時も、何時までも
帰って来てくれる物と信じ
待ち続けていたんだ。』

雅美の感情が
試合運びを通じて
徐々に溢れて来る。

その感情は言葉にはなるが
まだ夏の元には届く物では
なかった。

雅美が少し後退した位置から
距離を詰めようと
牽制銃撃で様子を
伺っていると、
夏は深追いをせずに
左右へ振ったあと機銃で
牽制して退がる気配を
感じさせた。

雅美は旋回し
左右へジグザグへ
少し振りライフルを
警戒した後、
夏がライフルを使わず
70㎜機銃に切り替えたのを
察知し一気にブーストして
距離を詰めようとペダルを
踏み込もうとする。

此処で踏み込まなければ
接近して叩くチャンスは
もう二度と来ない。

試合終了時間が
迫りつつあったのだ。

夏の脳裏に
慧人から伝えられた
ビジョンが
録画再生をするように
ハッキリ蘇る。

雅美がペダル操作すると
同時に夏は一瞬だけ
思考制御で後方へスラスター
移動すると
直ぐ前方へフルブーストして
雅美に迫った。

雅美はカムイが
ふわっと退がったのに気付き
一気に前方へフルブーストし
得意の上段に長刀を構えた。

カムイの装備した
バインドブレイクは
横薙ぎの攻撃をさせない為の物
だったが、
それが無くても雅美は
上段からの一閃で勝負を
決めるつもりだった。

『夏ーーーっ!
私の渾身の思い
  その身を持って
      受け取れーーっ!。


    …………なにっ!。』

夏のカムイが突進して来るのを
雅美の目が捉えた瞬間
激突寸前でカムイが視線から消える。

夏は激突寸前に慣性制御と
重力制御を思考制御にて
トキツヅルの懐に飛び込むと
腰一つ落とす位置から
右掌のスタンポイントを
トキツヅルの左肘に接触
同時に右腕、袖口より
ダガー繰り出し
ナイフアタックが決まる瞬間
時間切れのブザー音が
会場と両機体内に
鳴り響いたのだった。

直ぐ様ダガー接触とブザー音の
同時による試合審議に突入した。


『夏…………。

君はやっぱり強かった。

あの時だって
強かったんだ。

私は自分が考える
強さだけが本当の強さだと
錯覚していたんだ。

君の優しさが羨ましいかった
自分には無い物だったから余計に。

私は君の優しさに
甘えていたのかもしれない。

甘えていたかったのかもしれない。

本当にすまない事を
      言ってしまった……。

どうか許して欲しい。

出来る事ならば
      あの時みたいに
もう一度一緒に君と
武道の高みを目指して行きたい。』


『雅美ちゃん。

わたしね
   あの時なんで
逃げ出してしまったんだろうって
ずーっと後悔してた。

でも自分の考え方が
間違いだったのかもと
思うと怖くて
道場に戻れなかったんだ。

私は雅美ちゃんの強さ
真っ直ぐな精神が
羨ましいかった。

でも私が居ると
雅美ちゃんが揺らいで
しまうかもしれないと
思ったら余計に
悲しくなってしまって。

ごめんね。
私が弱かったから。

私の心が脆弱だったから。

でもね
今日はそんな
弱かった私が
此処まで頑張れる様に
なったんだよって
雅美ちゃんに伝えたかったんだ。

私からもお願いします。
また昔みたいに
一緒に稽古して下さい。』

『ありがとう夏。』

『ううん。
     それは私の言葉。

   雅美ちゃん 
       ありがとう。』

夏は慧人の試合前の言葉を
思い出していた。

『『元々夏と雅美は
      お互い同じ場所を
      目指していたんだ。

      それが表現の仕方の違いから
      少しだけすれ違ってしまって
      いただけなんだ。

      だから自分を信じて
      真っ直ぐに進んで欲しい。』』

 
『お兄ちゃん
        私、ちゃんと届けられたよ。』
             
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