リュウのケイトウ

きでひら弓

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86ディソナンス7カムイ強奪作戦2

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コクピット内のステップで
不安に泣き濡れる
千陽へ慧人は手を差し伸べると 
ハッチの外へとゆっくり
導き出す。

『慧人君、お願いっ!。

千輝(ちあき)を………
千輝を………助けて…お願い…
…………お願いします。 

…………………お願いよ………
………………………』

泣き崩れ
慧人に抱き縋る(だきすがる)と
形振り構わず(なりふりかまわず)
妹を助けてと懇願する。

何時もの気丈な性格が窺い知れない程
動揺している様を見るに
そのあまりの崩れ方に
憐れに映り痛々しささえ感じさせた。

慧人はそんな千陽の肩を
両手でしっかり支えると
子供に言い聞かせる様に
柔らかい口調で言葉を発したのだ。

『千陽、
俺はこれから千輝を病院から
連れ出して来る。

お前がカムイを持ち出せなければ
組織が動く事も知っている。』

『………………どうして………。』

慧人の言葉を聞き
少し落ち着きを取り戻した
千陽だが、
その口からは、どうしての
一言だけしか発する事が出来かった。

『俺達もに諜報する部署が在るんだ。

そのくらいの調べはついている。』

『ちがうの………

何でそんなに…………
私達を助けるって……。』

『前にも言ったじゃないか。

千輝の病気を治す手助けをしたいって。

其れに、お前を敵とは思って
いないと。』

『…………………
        ありがとう。
ありがとうございます。

お願い。
千輝をどうかよろしくお願いします。』

『ああ。

千陽はこれから先生と
車で合流ポイントへ向かってくれ。

俺は千輝を連れて合流する。』

『待って、
慧人君は一度此処を出たら
ハンガーには入れなくなる細工が
仕込まれてる。

夜間巡回してる二人も助けるんでしょ?。
カムイに乗れないと………。』

『大丈夫だ。
それも心配しなくていい。』

『新しいI.D.を用意したの?。』

『いや、それは後回しだ。

別の策を用意してある。

とにかく、俺はこれから
急いで病院へ向かう。

先生っ!。』

既に慧人の3m後方まで
近付いていたミゥが
呼び掛けに答える。

『聞こえている。

千陽、一緒に妹と合流する
ポイントへ向かうぞ。』

『はい。

お願いします。』

慧人は第三ハンガーを
出るとジャケットの内ポケットから
シータ ユニットを取り出し
クローゼットに登録してある
あるスーツへと瞬時に着替える。

『龍真装』

暗闇では黒く見える
濃く深い緋色のスーツ。
頭部を覆うパーツは
ヘルメットではなく
部分分解が可能な複数の
シールドからなる物。

その形状は龍を思わせる
シルエット。

まるで変身ヒーローのように
姿を変えると病院の方角へと
飛び去って行くのだった。

『先生、
こんな事を仕出かした私が
貴方がたを裏切るとは思わないんですか?。』

千陽は自分の裏切り行為の後
こんなに簡単に助けの手を
差し伸べてくれる二人に
あまりの甘さ故に 
警告にも似た忠告を発せずには
いられなかったのだ。

それは、せめてもの罪滅ぼしの
つもりだったのか。
或いは、奥の手を隠し持つ事を
悟らせない為だったのか。

『あはははは………

千陽、お前のその言葉を聞いて
安心したよ。

もし、本当に更なる仕掛けを
発動するならば
そんな物言いに至るはずは
ないだろう。

其れに、お前が次を
用意しているとして
本気で妹を救おうとする者に 
手を出したりはしない。

そうだろう?。』

『………………
      そうですね。

先生のおっしゃる通りです。

敵いませんね。

勿論、易いサスペンスドラマの
様な展開にはなりません。

恐れ入りました。』

『私はな
千陽、お前も貴重な
うちの、C組の一員だと
考えているんだ。

其れを失う様な選択肢は
極力、排除して行かねばならない。

少し廻り道になってしまったが
お前たち姉妹を救える様に
事が運んで、良かったと
巡り合わせに感謝しているんだ。』

優しい眼差しで
自分の想いを伝えると
その肩を包む様に支え
まだ歩みのおぼつかない千陽を
合流ポイントへ向かう為に 
自分の車まで連れて行った。

千陽は両親が亡くなってからは
妹の治療の事もあり
幼い頃から修得させられていた
父親の稼業を継ぐように
幾つもの修羅場を経験して来た。

そんな中
その心の拠り所は全て
妹への想いだった。

自分の失敗で最悪の事態に陥り
取り返しのつかない事が起こる前に
収拾出来て
まだ身体に力が入らない程の 
動揺から抜け切らないままに。

そんな所に久しぶりの
温情を受け余計にホッとして
気が抜けてしまっていたのだ。  

実を言えばミゥに縋り着いて
泣き出したい所だったのだが
そんな弱い部分をグッと堪え
集合場所での妹との再会へ
心を逸らせるのだった。
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