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エレノーラ編
エレノーラ編後日談
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それから数日後
「イリスさん……本当にありがとうございましたわ」
突然家にやってきたと思ったら、エレノーラが深々と私に頭を下げたので私は困惑した。
「えっと……何の話?」
「実はあの小説を読んでから色々考えましたの。どうするのが一番いいかって。やっぱり執事に事情を探らせるのは良くないと思いまして、直接聞いてみることにしましたわ」
「まあそうだよね、あはは」
私は苦笑する。そもそも現実の執事ってそんな何でも屋みたいな存在じゃないし。本筋ではない箇所であったが、ちょっとご都合主義で話を進めてしまったところではあった。
「そしたらサムエル殿から返ってきた答えは驚くべきものでしたわ。本当はこれは言いふらさないように言われたのですが……イリスさんだけ特別ですわ」
「え、いいの?」
私は勝手に小説を書いただけで、二人の関係からすると部外者だと思うんだけど。
「はい、今回はイリスさんの小説のおかげで一歩を踏み出せたようなものですし」
そう言ってエレノーラはサムエルから聞いた話を私に教えてくれた。
何でも、領内に出没した邪教徒を討伐した際に自ら出陣したところ敵の呪いを受け、サムエルは解呪中とのことだった。貴族の跡取りとしてこのことは無闇に他人に話す訳にはいかないし、かといって呪われている身で下手にエレノーラに触れればどのような悪影響があるか分からない。そのためサムエルはエレノーラに事実を伏せたまま接触だけを避けていたという。
「えぇ!? まさかそんなことがあるなんて」
さすがの私も驚いた。まさに事実は小説よりも奇なり、という感想だ。
ある意味女性恐怖症よりも珍しいのではないか。
しかしそれなら本当のことを言えない苦しみとエレノーラを傷つけているという苦しみに挟まれて、きっと小説の中のサムエルよりも苦しんでいたのだろう。
そこまで葛藤していた悩みを私が聞いてしまったのは申し訳ない限りだが。
「でもこれで私に触れずにいたのは愛ゆえにだったということが分かりましたわ。疑ってしまって申し訳ないのは小説の中の私と同じでしたわ」
そう言うエレノーラは嬉しそうな表情を浮かべている。
私はそれを見て一安心する。これで「実は本当に浮気していた」とかいう事実が発覚したらどうしようかという心配は杞憂に終わったようだ。
「という訳で小説の続きもお願いしますわ」
「……え?」
今すごいハッピーエンドみたいな空気だったのに。続きいるの?
「サムエル殿と仲直り出来たのならもう小説はいらないんじゃ……」
元々現実のサムエルが自分によそよそしいのが悲しいからせめて小説の中では愛されたい、という話だったはずなのだが。
が、エレノーラは大きく首を横に振る。
「それとこれとは別ですわ。小説は小説として素晴らしかったので是非続きを読ませて欲しいですの。あ、続きがないならもはや別作品でも構いませんわ。もはや主人公が私である必要はありませんし」
「わ、分かった」
そうは言われても現実のモチーフがないのは一から話を考えないといけないので逆に難しいような気もする。エレノーラの勢いに押されて頷いてしまったが大丈夫だろうか。
とはいえ、エレノーラの喜ぶ顔を見ているうちに、だんだん作品を求められて嫌な気はしないようになってきている自分に気づくのだった。
「イリスさん……本当にありがとうございましたわ」
突然家にやってきたと思ったら、エレノーラが深々と私に頭を下げたので私は困惑した。
「えっと……何の話?」
「実はあの小説を読んでから色々考えましたの。どうするのが一番いいかって。やっぱり執事に事情を探らせるのは良くないと思いまして、直接聞いてみることにしましたわ」
「まあそうだよね、あはは」
私は苦笑する。そもそも現実の執事ってそんな何でも屋みたいな存在じゃないし。本筋ではない箇所であったが、ちょっとご都合主義で話を進めてしまったところではあった。
「そしたらサムエル殿から返ってきた答えは驚くべきものでしたわ。本当はこれは言いふらさないように言われたのですが……イリスさんだけ特別ですわ」
「え、いいの?」
私は勝手に小説を書いただけで、二人の関係からすると部外者だと思うんだけど。
「はい、今回はイリスさんの小説のおかげで一歩を踏み出せたようなものですし」
そう言ってエレノーラはサムエルから聞いた話を私に教えてくれた。
何でも、領内に出没した邪教徒を討伐した際に自ら出陣したところ敵の呪いを受け、サムエルは解呪中とのことだった。貴族の跡取りとしてこのことは無闇に他人に話す訳にはいかないし、かといって呪われている身で下手にエレノーラに触れればどのような悪影響があるか分からない。そのためサムエルはエレノーラに事実を伏せたまま接触だけを避けていたという。
「えぇ!? まさかそんなことがあるなんて」
さすがの私も驚いた。まさに事実は小説よりも奇なり、という感想だ。
ある意味女性恐怖症よりも珍しいのではないか。
しかしそれなら本当のことを言えない苦しみとエレノーラを傷つけているという苦しみに挟まれて、きっと小説の中のサムエルよりも苦しんでいたのだろう。
そこまで葛藤していた悩みを私が聞いてしまったのは申し訳ない限りだが。
「でもこれで私に触れずにいたのは愛ゆえにだったということが分かりましたわ。疑ってしまって申し訳ないのは小説の中の私と同じでしたわ」
そう言うエレノーラは嬉しそうな表情を浮かべている。
私はそれを見て一安心する。これで「実は本当に浮気していた」とかいう事実が発覚したらどうしようかという心配は杞憂に終わったようだ。
「という訳で小説の続きもお願いしますわ」
「……え?」
今すごいハッピーエンドみたいな空気だったのに。続きいるの?
「サムエル殿と仲直り出来たのならもう小説はいらないんじゃ……」
元々現実のサムエルが自分によそよそしいのが悲しいからせめて小説の中では愛されたい、という話だったはずなのだが。
が、エレノーラは大きく首を横に振る。
「それとこれとは別ですわ。小説は小説として素晴らしかったので是非続きを読ませて欲しいですの。あ、続きがないならもはや別作品でも構いませんわ。もはや主人公が私である必要はありませんし」
「わ、分かった」
そうは言われても現実のモチーフがないのは一から話を考えないといけないので逆に難しいような気もする。エレノーラの勢いに押されて頷いてしまったが大丈夫だろうか。
とはいえ、エレノーラの喜ぶ顔を見ているうちに、だんだん作品を求められて嫌な気はしないようになってきている自分に気づくのだった。
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