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追放と新天地
山の守護獣
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王都を出た私は特に行く当てもなかったので故郷の村に帰ることにしました。
幸い聖女時代にもらったお金が結構あったのでそれで馬車を借ります。
馬車に乗って数日、王都周辺の栄えている地域を過ぎ、のどかな農村地帯に入りその中でも特に田舎の地帯に入ったところでした。
突然、右手側にそびえたつ山の奥から「きゃーっ」という悲鳴や大きな動物が動き回るような音が聞こえてきます。思わず馬車の窓から身を乗り出すと、山肌の上の方で動く白くて大きな獣のようなものの姿が見えました。悲鳴が聞こえたということは襲われている人がいるということでしょう。それが分かってしまうと、途端に私の鼓動が速くなりました。
聖女時代は王宮にこもりきりだったのでこのようなことはあまりありませんでしたが、危険な目に遭っている人がいるということが分かれば放置することは出来ません。
「すみません、私はここで降ります!」
「え、こんなところで?」
私の言葉に御者や他の客は困惑します。近くにある村は満足な宿があるのかどうかも怪しい小村ですし、この後都合よく馬車が通るかも分かりません。
ですがそんなことは些細なことです。
「はい、大丈夫です」
「まあ、お代をいただけるのであれば」
そう言って御者は馬車を止めます。私は金貨を渡すと馬車を折り、山へ向かいました。
山の上へと走っていくと、だんだんと獣が暴れ回る音や悲鳴が大きくなっていきます。とはいえ、悲鳴が聞こえてくるということはまだ被害者が生きていること。私はポジティブに考えることにして懸命に走ります。普段はあまり運動することがないのですぐに息切れし、足が痛くなってきた上に、山道は傾斜がありしかも歩きにくいです。
それでも走り続けていると、ようやく私は木々が開けた空間に出ました。そこにいたのは白い毛に包まれた数メートルもの体調がある大きな熊のような生き物でした。そこら辺にいる野生の熊とは違って体毛は美しく、どことなく品格を感じます。
しかし今は何か気が立っているのか、血走った目で周囲にいる動く者を手あたり次第襲っているようです。少なくとも、好んで周囲に襲い掛かっているという雰囲気ではありません。
熊の視線の先には腰がすくんでいるのか動けなくなっている女性の姿があります。彼女が悲鳴の人でしょうか。私と目が合うと助けを求める視線を送ってきます。
「分かりました!」
私が叫ぶと熊はぎろりとこちらを睨みつけてきます。もしやターゲットがこちらに向いたのかもしれません。
「バリア!」
私は初歩的な防御魔法を唱えます。聖女の仕事をしている時は直接魔法を使う機会はないのですが、魔力自体はたくさん持っているため、初級魔法でも十分な力を発揮するでしょう。
「ぐあああああああああああああ!」
苦し気な咆哮とともに熊の腕がこちらに伸びてきます。体の大きさを考慮をすれば、ぶつかるだけで私は吹き飛ばされそうな一撃でしたが、私の前に展開された魔法の盾にぶつかると、ずしり、という鈍い音と共に熊の攻撃は防がれました。
それを見て先ほどの女性から声がかけられます
「ありがとうございます!」
「私は大丈夫なので逃げてください!」
私が叫ぶと、彼女は申し訳なさそうにしながらもこの場を離れます。こちらとしてはこの方が心置きなく戦えます。
改めてみてみるとこの熊、今は暴れていますが大きさやきれいな毛並みから考えるに、ただの野生の熊とも思えません。
そう思った時でした。
不意に熊と目が合ったと思うと、なぜか熊の考えることが分かってしまったのでした。
とはいえ言葉が伝わって来たというよりは、熊が考えていることが状況として私の脳裏に浮かんだというところでしょうか。
それによると熊は山の中に入って来た邪悪な存在を倒そうとしたところ、それに寄生されて苦しんでいるようです。
何で突然熊の気持ちが分かってしまったのか戸惑いましたが、その間にも熊は暴れ、周囲の木を倒しながらガシガシとバリアを殴ってきます。
「ホーリー・ライト」
私は聖なる光を放ちます。
すると熊は光に包まれ、背中から邪悪な気配をまとった昆虫の群れが飛んでいくのが見えました。
それらがいなくなると、熊はまるで憑き物が落ちたように落ち着きを取り戻します。そして私にまるで感謝をするように一礼するとのそのそと山奥に帰っていくのでした。
それを見て私はほっと一息をつきます。
「旅のお方ですか、ありがとうございます」
「このままでは我が村が滅びるところでした」
気が付くと私から少し離れたところにはたくさんの村人がいて、固唾を飲んで戦いを見守っていました。
彼らは私が振り返ると、一斉に頭を下げます。
「いえ、たまたま通りかかったもので」
「あの熊は山神様で、これまでこの村を魔物からお守りくださっていたのです。ですから被害が出ても討伐する訳にもいかず、我らしばらく村を離れることも覚悟しておりました」
村長らしき白髭の老人が進み出て言います。
私はそれを聞いて納得しました。やはり由緒ある熊だったようです。
「しかしあんなことはよくあることなのでしょうか?」
「いや……これまではどんな魔物にも負けることはなかったのですが」
そう言って老人は首を捻りました。
それを聞いて私はふと今回の聖女交代が原因ではないかという思いが脳裏をよぎります。強引な聖女交代に神様が怒って悪いことが起きているのではないか、と。
が、その時でした。急に背後から嫌な気配がしたかと思って振り向くと、先ほど飛び去った虫の群れが私に向かって凄い勢いで飛んできたのです。
「きゃあああ!」
不意のことに魔法も間に合わず、いきなり避けられるほど運動神経も良くないです。
その時でした。
突然、目の前を暴風が通り過ぎていったかと思うと、虫の群れは風に巻き込まれて飛んでいきました。
そして代わりに、一頭の若竜と、それに乗った男性が目の前に降り立ったのです。
幸い聖女時代にもらったお金が結構あったのでそれで馬車を借ります。
馬車に乗って数日、王都周辺の栄えている地域を過ぎ、のどかな農村地帯に入りその中でも特に田舎の地帯に入ったところでした。
突然、右手側にそびえたつ山の奥から「きゃーっ」という悲鳴や大きな動物が動き回るような音が聞こえてきます。思わず馬車の窓から身を乗り出すと、山肌の上の方で動く白くて大きな獣のようなものの姿が見えました。悲鳴が聞こえたということは襲われている人がいるということでしょう。それが分かってしまうと、途端に私の鼓動が速くなりました。
聖女時代は王宮にこもりきりだったのでこのようなことはあまりありませんでしたが、危険な目に遭っている人がいるということが分かれば放置することは出来ません。
「すみません、私はここで降ります!」
「え、こんなところで?」
私の言葉に御者や他の客は困惑します。近くにある村は満足な宿があるのかどうかも怪しい小村ですし、この後都合よく馬車が通るかも分かりません。
ですがそんなことは些細なことです。
「はい、大丈夫です」
「まあ、お代をいただけるのであれば」
そう言って御者は馬車を止めます。私は金貨を渡すと馬車を折り、山へ向かいました。
山の上へと走っていくと、だんだんと獣が暴れ回る音や悲鳴が大きくなっていきます。とはいえ、悲鳴が聞こえてくるということはまだ被害者が生きていること。私はポジティブに考えることにして懸命に走ります。普段はあまり運動することがないのですぐに息切れし、足が痛くなってきた上に、山道は傾斜がありしかも歩きにくいです。
それでも走り続けていると、ようやく私は木々が開けた空間に出ました。そこにいたのは白い毛に包まれた数メートルもの体調がある大きな熊のような生き物でした。そこら辺にいる野生の熊とは違って体毛は美しく、どことなく品格を感じます。
しかし今は何か気が立っているのか、血走った目で周囲にいる動く者を手あたり次第襲っているようです。少なくとも、好んで周囲に襲い掛かっているという雰囲気ではありません。
熊の視線の先には腰がすくんでいるのか動けなくなっている女性の姿があります。彼女が悲鳴の人でしょうか。私と目が合うと助けを求める視線を送ってきます。
「分かりました!」
私が叫ぶと熊はぎろりとこちらを睨みつけてきます。もしやターゲットがこちらに向いたのかもしれません。
「バリア!」
私は初歩的な防御魔法を唱えます。聖女の仕事をしている時は直接魔法を使う機会はないのですが、魔力自体はたくさん持っているため、初級魔法でも十分な力を発揮するでしょう。
「ぐあああああああああああああ!」
苦し気な咆哮とともに熊の腕がこちらに伸びてきます。体の大きさを考慮をすれば、ぶつかるだけで私は吹き飛ばされそうな一撃でしたが、私の前に展開された魔法の盾にぶつかると、ずしり、という鈍い音と共に熊の攻撃は防がれました。
それを見て先ほどの女性から声がかけられます
「ありがとうございます!」
「私は大丈夫なので逃げてください!」
私が叫ぶと、彼女は申し訳なさそうにしながらもこの場を離れます。こちらとしてはこの方が心置きなく戦えます。
改めてみてみるとこの熊、今は暴れていますが大きさやきれいな毛並みから考えるに、ただの野生の熊とも思えません。
そう思った時でした。
不意に熊と目が合ったと思うと、なぜか熊の考えることが分かってしまったのでした。
とはいえ言葉が伝わって来たというよりは、熊が考えていることが状況として私の脳裏に浮かんだというところでしょうか。
それによると熊は山の中に入って来た邪悪な存在を倒そうとしたところ、それに寄生されて苦しんでいるようです。
何で突然熊の気持ちが分かってしまったのか戸惑いましたが、その間にも熊は暴れ、周囲の木を倒しながらガシガシとバリアを殴ってきます。
「ホーリー・ライト」
私は聖なる光を放ちます。
すると熊は光に包まれ、背中から邪悪な気配をまとった昆虫の群れが飛んでいくのが見えました。
それらがいなくなると、熊はまるで憑き物が落ちたように落ち着きを取り戻します。そして私にまるで感謝をするように一礼するとのそのそと山奥に帰っていくのでした。
それを見て私はほっと一息をつきます。
「旅のお方ですか、ありがとうございます」
「このままでは我が村が滅びるところでした」
気が付くと私から少し離れたところにはたくさんの村人がいて、固唾を飲んで戦いを見守っていました。
彼らは私が振り返ると、一斉に頭を下げます。
「いえ、たまたま通りかかったもので」
「あの熊は山神様で、これまでこの村を魔物からお守りくださっていたのです。ですから被害が出ても討伐する訳にもいかず、我らしばらく村を離れることも覚悟しておりました」
村長らしき白髭の老人が進み出て言います。
私はそれを聞いて納得しました。やはり由緒ある熊だったようです。
「しかしあんなことはよくあることなのでしょうか?」
「いや……これまではどんな魔物にも負けることはなかったのですが」
そう言って老人は首を捻りました。
それを聞いて私はふと今回の聖女交代が原因ではないかという思いが脳裏をよぎります。強引な聖女交代に神様が怒って悪いことが起きているのではないか、と。
が、その時でした。急に背後から嫌な気配がしたかと思って振り向くと、先ほど飛び去った虫の群れが私に向かって凄い勢いで飛んできたのです。
「きゃあああ!」
不意のことに魔法も間に合わず、いきなり避けられるほど運動神経も良くないです。
その時でした。
突然、目の前を暴風が通り過ぎていったかと思うと、虫の群れは風に巻き込まれて飛んでいきました。
そして代わりに、一頭の若竜と、それに乗った男性が目の前に降り立ったのです。
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