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帝国の影
アリエラ Ⅱ
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さて、その後綿密な計画を練った私たちは小うるさい大司教グレゴリオが病で倒れた隙を狙って計画を起こした。この時バルクだけでなく父である国王陛下も神殿に嫌気が差していたというのは少し意外だった。
ネクスタ王国は神の加護で栄えている国だから神殿が大きな顔をしているのが、国王にとってもおもしろくなかったのかもしれない。
何にせよ、憎きシンシアの追放劇は意外なほどとんとん拍子に進んだ。こうして私は晴れて聖女になった訳である。
聖女になった私は早速神殿の改革に着手した。神殿に聖女にされかけて捨てられたことを恨んだ私は神殿に徹底的に厳しく当たった。私に逆らう人たちを次々と追放もしくは左遷し、神殿が貯めていたお金は全て王宮改装のために使わせた。この点はバルクとも非常に気が合った。
神殿に入った時、頭上の神像が落ちてくるという事件があったが、私が神を恨むことはあっても全く尊敬していないことが伝わってしまったからではないかと思う。
何でもお見通しなところはさすが神様、と思ったが人間の世界のことにいちいちしゃしゃり出てこないで欲しい、とも思ったものだ。
そして私たちはこれまで自分たちを見下してきた人たちに対する当てつけのように王国を変え、そして気づかぬうちに王国の柱は朽ちていっていた。
もちろん私もその自覚がなかった訳ではないが、それでも王国は私の予想をはるかに上回る速度で傾いていたのである。
意気投合した殿下と私だが、一つだけ大きな違いがあるとすれば、私は王国がどうなろうと大して気にならなかったことだろう。
「え、殿下が帝国に敗れた?」
最初にその報告を聞いた時の私はにわかにその報告を信じられなかった。
殿下が将軍と揉めた話は聞いていたが、だからといって一万以上いる軍勢があっさりと敗れてしまうなんて。
が、すでにその知らせは複数の筋から届いており、神殿内はざわついている。
中には、
「やはり聖女様が交代したからではないか」
「神罰ではないか」
と噂する者もいた。
そんな訳がない。なぜシンシアではなく私ではだめなのか。
いなくなった後でも皆は私よりもシンシアを選ぶのか。
そう思うと無性に腹が立った。
「ベント、彼らを静めて」
「承知いたしました」
不愉快なことを言う奴らは全員黙らせなければ。幸い、バルクに借りたこのベントという騎士は私の命令に忠実であった。
そして私は国王の元に向かうと、すぐに隣国のエルドラン王国に援軍要請をするよう頼む。いくら王国を奪っても、その王国があっさりと帝国に倒されては意味がない。
が、戻って来た使者が伝えた竜国の返答は非情なものだった。
そして、その時私が聞いた話はよりショッキングなものだった。なんと、あのシンシアが竜の巫女になったというのだ。
その時私は神を呪った。彼女は私より聖女にふさわしいのではなかったのか。それなら聖女以外にはなれないべきではないか。何であいつは聖女にも竜の巫女にもなれるのか。そして私は聖女にも竜の巫女にもなれなかったのか。
そう考えると、さらにシンシアが憎くなってきた。
何で彼女は何にでもなれるのに私は何にもなれないんだ、と。
「た、助けてくれアリエラ」
そこへ無残に敗走したバルクが帰ってくる。
出陣したときの意気揚々とした態度はどこへやら、見るも無残に焦燥していた。おそらくは帝国軍が現れた時、道中、王都と皆が彼の無能さを指摘したのだろう。真っ先に逃げ帰ったので傷はなさそうだったが、彼の心はすでに折れてしまっているようだった。
本来なら私も心が折れてさっさと逃走に移っていたかもしれないが、シンシアへの怒りがそれを押しとどめた。私が破滅するのは仕方ないが、せめてあいつを道連れにしなければ気が済まない。
帰って来たバルクに私は問いかける。
「殿下。殿下はこの国に愛着はありますか?」
「な、何を言ってるんだアリエラ。あるに決まってるだろ!?」
私の問いにバルクは驚きながら答える。
「本当ですか? この国の人たちは皆殿下を馬鹿にするばかり。彼らは私たちよりも今頃竜国で呑気に巫女をしているシンシアの方がいいのです」
「な、何だと」
それを聞いてバルクの顔色が変わる。シンシアの名前はバルクの心を固くするのに充分であった。
「それでアリエラは一体何が言いたいんだ」
「私たちは帝国に降伏しましょう。こんな国はどうなっても構いません」
「だが、それでは俺たちは……」
「降伏の条件として、王都の城門を開ける代わりに帝国に多少なりとも領地をもらいましょう。そして」
そこで私は言葉をきる。バルクはごくりと唾をのみ込んだ。
「帝国軍とともに竜国に攻め込んで憎きシンシアを殺すのです」
「なるほど。確かにあいつを殺さなければ俺たちは永遠に無能王子と無能聖女のままだ」
バルクは自嘲気味に笑った。確かにその通りだ、と私は思った。
その数日後、王都を包囲した帝国軍に私たちがその条件を持ちかけると、彼らはあっさり飲んだ。王都の城壁は堅固であり、何か月も包囲して攻城するのは骨が折れると思ったのだろう。
私たちはベントら、信頼できる家臣たちを率いて城門の警備兵を城内から倒し、城門を開けた。こうして数百年の歴史を誇るネクスタ王国はあっさりと滅亡したのである。
ネクスタ王国は神の加護で栄えている国だから神殿が大きな顔をしているのが、国王にとってもおもしろくなかったのかもしれない。
何にせよ、憎きシンシアの追放劇は意外なほどとんとん拍子に進んだ。こうして私は晴れて聖女になった訳である。
聖女になった私は早速神殿の改革に着手した。神殿に聖女にされかけて捨てられたことを恨んだ私は神殿に徹底的に厳しく当たった。私に逆らう人たちを次々と追放もしくは左遷し、神殿が貯めていたお金は全て王宮改装のために使わせた。この点はバルクとも非常に気が合った。
神殿に入った時、頭上の神像が落ちてくるという事件があったが、私が神を恨むことはあっても全く尊敬していないことが伝わってしまったからではないかと思う。
何でもお見通しなところはさすが神様、と思ったが人間の世界のことにいちいちしゃしゃり出てこないで欲しい、とも思ったものだ。
そして私たちはこれまで自分たちを見下してきた人たちに対する当てつけのように王国を変え、そして気づかぬうちに王国の柱は朽ちていっていた。
もちろん私もその自覚がなかった訳ではないが、それでも王国は私の予想をはるかに上回る速度で傾いていたのである。
意気投合した殿下と私だが、一つだけ大きな違いがあるとすれば、私は王国がどうなろうと大して気にならなかったことだろう。
「え、殿下が帝国に敗れた?」
最初にその報告を聞いた時の私はにわかにその報告を信じられなかった。
殿下が将軍と揉めた話は聞いていたが、だからといって一万以上いる軍勢があっさりと敗れてしまうなんて。
が、すでにその知らせは複数の筋から届いており、神殿内はざわついている。
中には、
「やはり聖女様が交代したからではないか」
「神罰ではないか」
と噂する者もいた。
そんな訳がない。なぜシンシアではなく私ではだめなのか。
いなくなった後でも皆は私よりもシンシアを選ぶのか。
そう思うと無性に腹が立った。
「ベント、彼らを静めて」
「承知いたしました」
不愉快なことを言う奴らは全員黙らせなければ。幸い、バルクに借りたこのベントという騎士は私の命令に忠実であった。
そして私は国王の元に向かうと、すぐに隣国のエルドラン王国に援軍要請をするよう頼む。いくら王国を奪っても、その王国があっさりと帝国に倒されては意味がない。
が、戻って来た使者が伝えた竜国の返答は非情なものだった。
そして、その時私が聞いた話はよりショッキングなものだった。なんと、あのシンシアが竜の巫女になったというのだ。
その時私は神を呪った。彼女は私より聖女にふさわしいのではなかったのか。それなら聖女以外にはなれないべきではないか。何であいつは聖女にも竜の巫女にもなれるのか。そして私は聖女にも竜の巫女にもなれなかったのか。
そう考えると、さらにシンシアが憎くなってきた。
何で彼女は何にでもなれるのに私は何にもなれないんだ、と。
「た、助けてくれアリエラ」
そこへ無残に敗走したバルクが帰ってくる。
出陣したときの意気揚々とした態度はどこへやら、見るも無残に焦燥していた。おそらくは帝国軍が現れた時、道中、王都と皆が彼の無能さを指摘したのだろう。真っ先に逃げ帰ったので傷はなさそうだったが、彼の心はすでに折れてしまっているようだった。
本来なら私も心が折れてさっさと逃走に移っていたかもしれないが、シンシアへの怒りがそれを押しとどめた。私が破滅するのは仕方ないが、せめてあいつを道連れにしなければ気が済まない。
帰って来たバルクに私は問いかける。
「殿下。殿下はこの国に愛着はありますか?」
「な、何を言ってるんだアリエラ。あるに決まってるだろ!?」
私の問いにバルクは驚きながら答える。
「本当ですか? この国の人たちは皆殿下を馬鹿にするばかり。彼らは私たちよりも今頃竜国で呑気に巫女をしているシンシアの方がいいのです」
「な、何だと」
それを聞いてバルクの顔色が変わる。シンシアの名前はバルクの心を固くするのに充分であった。
「それでアリエラは一体何が言いたいんだ」
「私たちは帝国に降伏しましょう。こんな国はどうなっても構いません」
「だが、それでは俺たちは……」
「降伏の条件として、王都の城門を開ける代わりに帝国に多少なりとも領地をもらいましょう。そして」
そこで私は言葉をきる。バルクはごくりと唾をのみ込んだ。
「帝国軍とともに竜国に攻め込んで憎きシンシアを殺すのです」
「なるほど。確かにあいつを殺さなければ俺たちは永遠に無能王子と無能聖女のままだ」
バルクは自嘲気味に笑った。確かにその通りだ、と私は思った。
その数日後、王都を包囲した帝国軍に私たちがその条件を持ちかけると、彼らはあっさり飲んだ。王都の城壁は堅固であり、何か月も包囲して攻城するのは骨が折れると思ったのだろう。
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