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カミラ
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その日、公務で外出した後王宮に帰るのも憂鬱になり、お供を二人だけ連れて城下町をぶらついていた。王宮に戻れば自分より“優秀”なアシュリーがいて、またあれこれ言ってくるのだろう。
そしてそれを聞いて周りの者たちは「さすがアシュリー様」など僕そっちのけで褒め称えるのだろう。
僕は王子だから王宮は家のような場所であるはずだったが、そんなことを考えていると家に帰るのがいつの間にか億劫になっていた。
そんなことを思いつつ僕は、王国で一番と名高い花園に向かっていた。
そこで花壇に並んでいる花を見ていると、荒れていた心も少しだけ落ち着いて来る。
「あの、見間違えでなければ殿下ですよね?」
不意に背後から鈴のなるような透き通った声が掛けられる。
振り向くと、そこに立っていたのは一人の令嬢であった。恐らく僕より年下だろうか、体系は華奢で白い肌は今にも壊れそうなガラス細工の繊細さを思い起こさせる。
言ってはなんだが、元々顔が可愛いわけでもなく、堅苦しい服しか着ないアシュリーと違って、彼女を見ると可愛いと思ってしまった。
そんな彼女のこちらを見る視線は少し心配そうに思える。
「そうだが……君は?」
「私はカミラ・ヒュームです」
「ああ、ヒューム伯爵の娘か」
確かヒューム伯爵は王家への忠誠が厚い人物だった気がする。他の貴族は家が大きくても自家が大きくなることしか考えていないが、ヒューム伯爵だけはいつも王家、特に僕に忠義を示してくれていた。何かめでたいことがあれば真っ先にお祝いしてくれるし、誕生日にも伯爵位でありながら公爵位の貴族よりもいい物をくれた。
だからそのヒューム伯の娘と聞いて僕の印象はさらに良くなる。
「ヒューム伯にはいつもお世話になっている」
「それはいいのです。父も常日頃から王家のお役に立つのが我が家の使命と私に言い聞かせていました。しかし殿下は何か悩み事があるのでしょうか?」
見回すと、お互いのお供以外の人はいない。
おそらく花園の管理人が僕に気を利かせて他の者の入場を止めてくれているのだろう。それなら少しぐらいは弱音を吐いてもいいような気がした。
「そうなんだ、このようなこと、誰に話していいのか分からずに困っていたんだ」
「何でしょう、殿下ですらどうにもならないことですから私ごときに何が出来るとも思えませんが、聞くだけなら出来ます」
「いや、今は聞いてもらえればそれでいいんだ」
アシュリーが僕よりも優秀なのも、周りの者がそんなアシュリーばかりをちやほやするのもどうしようもないことだ。
だから解決策が欲しい訳ではなく、ただ話を聞いて欲しいだけだ。
「実は……」
そう思って僕はアシュリーに対しての愚痴を話す。
最初は初対面の年下の娘にあまり激しい愚痴をぶつけるのも良くない、と思ったが心の中で相当溜まっていたのだろう、気が付くと止まらなくなっていた。
「……ということがあったんだ。だから僕は王宮に帰りたくない!」
最後の方は外聞も何もなく、心からの叫びを口にしてしまっていた。
話し終えて僕は我に帰る。初対面の相手にこんなことを言ってしまうなんて。
「済まないな、いきなりこんなことを話してしまって。忘れてくれ」
「そのようなことをおっしゃらないでください!」
が、僕が話し終えるとカミラは真剣な表情で言い放った。
「殿下は何も悪くありません!」
「だが、元はと言えば僕がだめなのが原因で……」
「そうではありません。殿下に足りないところがあれば周囲にばれないように気遣いするのが妻や家臣の務めでしょう」
「そ、そうなのか!?」
これまでこんなことを僕に行ってくれる人はいなかったので僕はついつい驚いてしまう。
が、カミラはいたって真剣であった。
「例えば私の父は殿下に忠義を尽くしていますが、殿下より目立っていますか?」
「確かに目立ってないな」
僕は頷く。確かに僕のためにあれこれ奔走してくれるヒューム伯は王国内では平凡な貴族という評価しかない。
「そうです、殿下をお支えするというのは本来そういうことなのです。それなのに周囲に見せつけるかのように助言や手助けをするのは、殿下を助けたいのではなく、結局自分が目立ちたいからに違いありません!」
カミラはそう断言した。
僕はそれを聞いて目から鱗が落ちるような気分になった。
そうか、僕が今心の中に抱いていたもやもやはそういうことが原因だったのか。
「ありがとうカミラ、おかげで僕のもやもやが晴れたよ。良かったらこれからもまた相談に乗ってくれないか?」
「はい、それで殿下のお気持ちが晴れるのであれば喜んで」
彼女はそう言って笑顔を浮かべる。
そうだ、カミラはアシュリーと違って全く押しつけがましくない。こうして誰も見ていないところでひっそりと僕の心を癒してくれる。アシュリーや口うるさい家臣たちとは大違いだ。
僕は心からそう思った。
そしてそれを聞いて周りの者たちは「さすがアシュリー様」など僕そっちのけで褒め称えるのだろう。
僕は王子だから王宮は家のような場所であるはずだったが、そんなことを考えていると家に帰るのがいつの間にか億劫になっていた。
そんなことを思いつつ僕は、王国で一番と名高い花園に向かっていた。
そこで花壇に並んでいる花を見ていると、荒れていた心も少しだけ落ち着いて来る。
「あの、見間違えでなければ殿下ですよね?」
不意に背後から鈴のなるような透き通った声が掛けられる。
振り向くと、そこに立っていたのは一人の令嬢であった。恐らく僕より年下だろうか、体系は華奢で白い肌は今にも壊れそうなガラス細工の繊細さを思い起こさせる。
言ってはなんだが、元々顔が可愛いわけでもなく、堅苦しい服しか着ないアシュリーと違って、彼女を見ると可愛いと思ってしまった。
そんな彼女のこちらを見る視線は少し心配そうに思える。
「そうだが……君は?」
「私はカミラ・ヒュームです」
「ああ、ヒューム伯爵の娘か」
確かヒューム伯爵は王家への忠誠が厚い人物だった気がする。他の貴族は家が大きくても自家が大きくなることしか考えていないが、ヒューム伯爵だけはいつも王家、特に僕に忠義を示してくれていた。何かめでたいことがあれば真っ先にお祝いしてくれるし、誕生日にも伯爵位でありながら公爵位の貴族よりもいい物をくれた。
だからそのヒューム伯の娘と聞いて僕の印象はさらに良くなる。
「ヒューム伯にはいつもお世話になっている」
「それはいいのです。父も常日頃から王家のお役に立つのが我が家の使命と私に言い聞かせていました。しかし殿下は何か悩み事があるのでしょうか?」
見回すと、お互いのお供以外の人はいない。
おそらく花園の管理人が僕に気を利かせて他の者の入場を止めてくれているのだろう。それなら少しぐらいは弱音を吐いてもいいような気がした。
「そうなんだ、このようなこと、誰に話していいのか分からずに困っていたんだ」
「何でしょう、殿下ですらどうにもならないことですから私ごときに何が出来るとも思えませんが、聞くだけなら出来ます」
「いや、今は聞いてもらえればそれでいいんだ」
アシュリーが僕よりも優秀なのも、周りの者がそんなアシュリーばかりをちやほやするのもどうしようもないことだ。
だから解決策が欲しい訳ではなく、ただ話を聞いて欲しいだけだ。
「実は……」
そう思って僕はアシュリーに対しての愚痴を話す。
最初は初対面の年下の娘にあまり激しい愚痴をぶつけるのも良くない、と思ったが心の中で相当溜まっていたのだろう、気が付くと止まらなくなっていた。
「……ということがあったんだ。だから僕は王宮に帰りたくない!」
最後の方は外聞も何もなく、心からの叫びを口にしてしまっていた。
話し終えて僕は我に帰る。初対面の相手にこんなことを言ってしまうなんて。
「済まないな、いきなりこんなことを話してしまって。忘れてくれ」
「そのようなことをおっしゃらないでください!」
が、僕が話し終えるとカミラは真剣な表情で言い放った。
「殿下は何も悪くありません!」
「だが、元はと言えば僕がだめなのが原因で……」
「そうではありません。殿下に足りないところがあれば周囲にばれないように気遣いするのが妻や家臣の務めでしょう」
「そ、そうなのか!?」
これまでこんなことを僕に行ってくれる人はいなかったので僕はついつい驚いてしまう。
が、カミラはいたって真剣であった。
「例えば私の父は殿下に忠義を尽くしていますが、殿下より目立っていますか?」
「確かに目立ってないな」
僕は頷く。確かに僕のためにあれこれ奔走してくれるヒューム伯は王国内では平凡な貴族という評価しかない。
「そうです、殿下をお支えするというのは本来そういうことなのです。それなのに周囲に見せつけるかのように助言や手助けをするのは、殿下を助けたいのではなく、結局自分が目立ちたいからに違いありません!」
カミラはそう断言した。
僕はそれを聞いて目から鱗が落ちるような気分になった。
そうか、僕が今心の中に抱いていたもやもやはそういうことが原因だったのか。
「ありがとうカミラ、おかげで僕のもやもやが晴れたよ。良かったらこれからもまた相談に乗ってくれないか?」
「はい、それで殿下のお気持ちが晴れるのであれば喜んで」
彼女はそう言って笑顔を浮かべる。
そうだ、カミラはアシュリーと違って全く押しつけがましくない。こうして誰も見ていないところでひっそりと僕の心を癒してくれる。アシュリーや口うるさい家臣たちとは大違いだ。
僕は心からそう思った。
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