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アシュリー視点 婚約破棄

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 殿下が王宮から逃亡した日、私はずっと不安だった。
 今日の会談はまだ「殿下が急な体調不良だった」などと理由をつければどうにか私で乗り切ることは出来る。
しかしもしもこのまま殿下が戻ってこなければ。

 仮に戻ってきたとしても全く公務をしようとしなければ。
 そうなればこの先どうすればいいのだろうか。
 もしも殿下が帰ってこればまずは非礼を詫びて、今後はもし何か言うことがあっても出来るだけそれとなく伝えるように努力しよう、などと考える。

 そんな心配をしていたが、夕方ごろ、まるで憑き物が落ちたようにさっぱりした表情の殿下がどこからともなく王宮に戻ってくる。

「殿下、ご無事でしたか!?」
「ああ、急に飛び出して済まなかったな」

 私が声をかけると殿下は申し訳なさそうに答える。
 飛び出していった時とはえらい違いだ。

「いえ、それならいいのですが……私たちもこれまで殿下への対応に無礼なところがありました。すみません」
「いや、気にするな、もう済んだことだ。僕も今後は皆に心配をかけることがないように気を付けるよ」
「あ、ありがとうございます」

 その時の殿下はこう言っては失礼だが、まるで人が変わったような態度だった。
 そのため、飛び出していった後に何が起こったのかは分からないが、私も殿下がようやく大人になってくださったのだと思った。

 この時はまだ。



 それから数日後のことである。

「アシュリー様、殿下からパーティーの招待状でございます」
「招待状?」

 朝起きると、私の元にメイドが一通の手紙を持ってくる。
 特にパーティーを開くという話は聞いてないが、一体何なのだろうか。

「はい、日ごろ周りの者にお世話になっているのでその感謝を示すためだとか」
「珍しいわね」

 殿下はあまり格式ばったパーティーのようなことを好まず、どちらかというと親しい者だけを招いて酒宴を開く方が好きだった。
 そして残念ながら私はその「親しい者」には入っていなかった。

 そのため、招待状を出すような正式なパーティーを開くのも、そこに私を招待するのも今までになかったことであり、私は殿下の急な変化に驚いてしまう。

 とはいえ、殿下もようやく周りの者に支えられているということに気づいたのかもしれない。それならいいことだし、私も素直にお祝いしよう、と決める。

「分かったわ」

 こうして、その日の夕方、私はパーティー用のドレスを纏って殿下が指定した会場に向かう。
 周りの者への感謝を示すことが目的であるためか、会場は大広間ではなく、小ぶりなホールだった。

 が、私が歩いていくと時折周囲から何とも言えない視線を感じる。
 一体何なのだろうか、と思いつつ会場に入る。

 するとそこには殿下や殿下と親しい貴族たち、特にヒューム伯爵の一族たちがすでに到着して親しげに談笑していた。

 私が入ってくると、殿下はこちらを向いて言う。

「おお、ようやく今日の主役のアシュリーが来たようだな」
「はい、今日はお招きいただきありがとうございます」

 私は何となく違和感を覚えながらもそう言って挨拶する。
 が、そんな私に向かって殿下は唐突に宣言した。

「アシュリー・ヘイウッド! 本日を持ってこの僕、カール・ベルガルドとの婚約を破棄することを宣言する!」
「え?」

 それを聞いて私の全身は一気に凍りつくのだった。
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