悪役令嬢は推しカプのために婚約破棄されたい 〜好感度モニターが壊れて全人類から溺愛されてます〜

りい

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第一章 転生先は推しカプの隣だが断罪イベントに進めない

第二話 王子は冷酷のはずでは?

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自室の巨大な姿見の前で、私は腕組みをして仁王立ちしていた。 鏡の中の私――リリアーナ・ヴァン・アストレアは、今日も完璧な悪役顔だ。つり気味のアメジストの瞳も、意志の強そうな眉も、「ヒロインをいじめるために生まれてきました」と言わんばかりの完成度である。

「……よし。顔は合格。あとは中身を完璧な『嫌われ役』に仕上げるだけね」

私は努めて冷酷な声色を作って呟いた。 先ほどの衝撃的な目覚めから、少し時間が経った。侍女のモナの頭上に**【好感度:90(崇拝)】**という謎の数値が見えた件は、一旦脳内の「保留ボックス」に叩き込んだ。きっと機械の故障か何かに違いない。

今こそ状況を整理し、今後の完璧な「断罪ロード」への計画を立てる時だ。 これから私は、婚約者であるギルバート王子との朝食に向かう。これが、転生後初めての「推し」との対面となる。

「落ち着け、私。公式設定を思い出すのよ」

私は脳内にインプットされた『幻想のルミナス・完全設定資料集』のページをめくった。

ギルバート・フォン・ルミナス。この国の第二王子であり、メインヒーロー。 文武両道、眉目秀麗。完璧に見えて、実は王位継承争いに疲れて心を閉ざしているクールな王子様。 そんな彼の凍てついた心を溶かすのが、天真爛漫なヒロイン・アリスちゃんなのだ。

そして、私こと悪役令嬢リリアーナは、彼にとって「親が決めた鬱陶しい政略結婚相手」でしかない。 資料集によれば、この時期の二人の関係は「冷え切った仮面劇」。会話は必要最低限、視線すら合わせない徹底ぶり――のはずだ。

「完璧なシナリオだわ。私はこのまま『高慢で嫌な女』を演じ続ければいい。そうすれば、王子は自然とアリスちゃんに惹かれていく……!」

オタクの血が騒ぐ。推しの幸せな未来(と、その踏み台になる私の輝かしい破滅)のために、今日から私は氷の女王になる!

「待ってなさいギルバート様。あなたを最高の塩対応でお迎えしてあげるわ!」

気合十分で、私は食堂へと向かう扉を開けた。

2. 遭遇、そして崩壊する世界観

王族専用の食堂は、朝の陽光が差し込み、目が痛くなるほどキラキラしていた。 足を踏み入れた瞬間、部屋の中央にいた人物が、弾かれたようにこちらを振り返った。

「……リリアーナ」

息を呑んだ。 まばゆい金髪、宝石のような碧眼。すらりと伸びた長身に、仕立ての良い王子の軍服。 ゲーム画面の数億倍の解像度で迫る「生推し」の破壊力に、オタクの心臓が悲鳴をあげる。

(尊い……っ! いや、違う! 耐えろ私! ここでデレたら計画が台無しよ!)

私は奥歯を噛み締め、必死に能面のような無表情を作った。そして、彼と目を合わせず、完璧な角度で冷ややかなカーテシー(ご挨拶)を披露する。

「ごきげんよう、ギルバート殿下。お待たせして申し訳――」

「リリアーナ!」

私の氷の挨拶は、熱烈な叫びによって遮られた。 次の瞬間、私の目の前まで詰め寄ってきたギルバート様が、私の両手をガシッと掴み取っていた。

「え……?」

(近い! 近いです殿下! 公式設定と距離感が違います!)

あまりの至近距離に、思考がショートする。整いすぎた顔が目の前にある。吐息がかかる距離だ。オタクには刺激が強すぎて直視できない。

「顔色が悪いようだが、大丈夫か? ああ、すまない。君があまりに美しくて、つい駆け寄ってしまった。今朝も女神のように輝いているな、私のリリアーナ」

「は……?」

私のリリアーナ? 女神? 誰の話をしているの?

彼の瞳を見る。そこにあるはずの「冷徹な光」は微塵もない。代わりに宿っているのは、獲物を狙う肉食獣のような、あるいは狂信的な信者のような、熱っぽくねっとりとした光だった。

(解釈違いです! 私の知ってるギルバート様は、こんなこと言わない!)

脳内で盛大なツッコミを入れた瞬間。 私の視界に、あの現象が起きた。

バチバチッ、と青白いノイズが走り、彼の頭上にデジタルな文字が浮かび上がる。

【ギルバート → リリアーナ】

(くる……! きっと「好感度:10(無関心)」とか「20(鬱陶しい)」とかが出るはず……!)

私は身構えた。しかし、表示されたのは予想を遥かに超える文字列だった。

【 100(運命の伴侶/COUNTER STOP) 】

数字が真っ赤に発光している。「100」という数字の横で、メーターの針が振り切れ、ガタガタと震えながら火花のエフェクトを散らしている。

「…………はい?」

思考が停止した。 100? カンスト? え、これって、もうこれ以上上がらないってこと? つまり、好感度マックス?

「どうした、リリアーナ。そんなに私の顔を見つめて。ふふ、ようやく私に興味を持ってくれたのかい?」

ギルバート様が、握った私の手をさらに強く引き寄せ、頬を擦り寄せんばかりの勢いで顔を近づけてくる。

「ひゃっ……!?」

たまらず変な声が出た。

「離れ……離れてくださいまし! ギルバート様! このような、人目のある場所で、はしたない!」

私は必死に悪役令嬢らしい言葉を選んで、彼を突き放そうとした。 だが、彼は少しも怯まなかった。むしろ、恍惚とした表情で目を細める。

「ああ……その気高さ。安易に触れ合うことを良しとしない、君の高潔な精神こそが、私が君を愛してやまない理由だ」

(ポジティブすぎるでしょ、この王子!)

私が引いた分だけ、彼はずずいと距離を詰めてくる。 どうやら私の「拒絶」は、彼の中で「高潔さの現れ(=愛おしい)」と都合よく脳内変換されているらしい。

(なんで? どうしてこうなったの? 私の知ってる『幻想のルミナス』と違う! この好感度メーターって何なのよ!?)

推しを目の前で見られるのは、確かにご褒美だ。 でも、私が求めているのは「ヒロインに向けられる優しい眼差し」であって、私に向けられる「執着に満ちた眼差し」ではないのだ。

混乱と、恐怖と、少しの興奮(オタク心)で、私は目の前の完璧な王子――今はバグった愛情の塊にしか見えない彼を、呆然と見つめるしかなかった。
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