悪役令嬢は推しカプのために婚約破棄されたい 〜好感度モニターが壊れて全人類から溺愛されてます〜

りい

文字の大きさ
3 / 6
第一章 転生先は推しカプの隣だが断罪イベントに進めない

第三話 冷酷の王子とは反対に、

しおりを挟む
「……あの、ギルバート様」

私は、震える声をなんとか絞り出した。 私の両手をがっしりと握りしめ、獲物を見つめる獣のような目でこちらを見つめる王子の圧に、心臓がバクバクと音を立てている。 だが、ここで引いてはいけない。私は「嫌われるための努力」をしに来たのだ。

「そんなに私に触れて……殿下は、私のことがお嫌いではありませんの?」

どうだ。これ以上ない直球だ。 公式設定資料集のギルバート様なら、ここで鼻で笑い、「政略結婚の相手に好きも嫌いもないだろう」と冷たく突き放すはずだ。そうなれば、私の勝利。好感度モニターの数値も、すとんと一桁まで落ちてくれるはず。

私は期待を込めて、彼の頭上のメーターを見つめた。

【ギルバート → リリアーナ:100(カンスト中)】

……動かない。むしろ、周囲に飛び散る火花のエフェクトが激しさを増している。 ギルバート様は一瞬、きょとんとした顔をした後、くすりと妖艶に微笑んだ。

「嫌い? ふふ、面白い冗談を言うのだな、リリアーナ」

「冗談ではございませんわ! 私は、わがままで高慢な、救いようのない女ですのよ!? あなた様の政治の邪魔だってするかもしれませんし、ヒロイン……いえ、他の女性に意地悪だってするかもしれませんわ!」

そうだ、もっと言ってやれ。私は最低の女なんだぞ。

「わがまま? それは自分をしっかり持っているということだろう。高慢? 公爵家の令嬢として誇り高いのは素晴らしいことだ。邪魔をする? 構わない、君が望むならこの国ごと君の遊び場にしてあげよう。……ああ、嫉妬までしてくれるのか? 私のために心を痛めてくれるなんて、これ以上の喜びはない」

「会話が……会話が成り立ちませんわ……っ!」

私は天を仰いだ。 言葉のキャッチボールをしていたはずが、投げたボールがすべて特大のホームラン(誤解)で返されてくる。 この男、ポジティブすぎる。それとも私の言葉が自動的に「甘い囁き」に変換される翻訳機でも耳についているのだろうか。

このままでは押し切られる。そう本能が告げていた。 推しを間近で見られるのは至福だが、このままでは私が「断罪する側」ではなく「溺愛される側」として、物語のエンディングに直行させられてしまう。

「離れてくださいまし!」

私は思い切り、彼の胸元を突き飛ばすようにして距離を取った。 公爵令嬢としてはしたない振る舞いだが、背に腹は代えられない。

「っ……!」

ギルバート様は、不意を突かれたように数歩後ずさった。 私はその隙を逃さず、スカートを翻して凛と立ち上がる。これぞ、悪役令嬢リリアーナの真骨頂である氷の冷徹さ。

「あまり馴れ馴れしくされるのは不快ですわ。殿下との婚約は、あくまで家同士の契約。私をその辺の安い女と同じように扱わないでくださる?」

よし、言った! これなら……これなら絶対に嫌われるはず! 私は心の中でガッツポーズをしながら、恐る恐るメーターを確認した。

【ギルバート → リリアーナ:100(COUNTER STOP)】 <NEW! 状態:恍惚の熱狂>

「…………え?」

モニターの隅に、見たこともない新しいステータスが表示された。 ギルバート様を見ると、彼は突き飛ばされた胸元を愛おしそうに手で押さえ、頬を微かに染めて震えていた。

「……素晴らしい」

「はい?」

「その拒絶……その冷たい眼差し……。やはり君は、他の誰にも手懐けられない高貴な花だ。私だけが、いつかその棘を一本ずつ抜いて、君を完全に我がものにする……。その日が来るのが、待ち遠しくてたまらないよ、リリアーナ」

「ひっ……!」

恐怖。初めて、推しに対して「恐怖」を感じた。 執着。そう、これは執着だ。 ゲームの中のギルバート様は、もっとこう、透明感のある涼しげな王子様だったはず。 こんな、ヤンデレ一歩手前の重圧感を放つようなキャラではなかった。

「失礼いたしますわ!」

私は逃げるように食堂を飛び出した。 背後から「リリアーナ! また後で、中庭の散歩に誘いに行くよ!」という楽しげな声が追いかけてくる。勘弁してほしい。

自室の鍵を閉め、私はベッドに倒れ込んだ。

「なんなの……なんなのよ、もう……!」

状況は最悪だ。 嫌われるためにしたことが、すべて相手の性癖(?)に突き刺さっている気がする。 そして、さっきから視界をちらつかせているこの「好感度モニター」。

「そもそも、好感度って……何?」

普通、好感度というのは「どれだけ相手を好ましく思っているか」という好意の指標のはずだ。 でも、今のギルバート様のあれは、明らかに「好意」の枠を超えている。 執着、独占欲、支配欲……。そんな、もっとどろどろとした何かが、すべて「好感度100」の中に凝縮されているような、そんな不穏な気配。

「……設定がバグってるのか、それとも私が何か地雷を踏んだのか」

私は前世で読んだ設定資料集の内容を必死に思い返した。 リリアーナとギルバートの幼少期。 たしか、顔合わせの時にリリアーナがギルバートを鼻であしらった、という記述があったはず。 ゲームではそれが「不仲の原因」とされていたが、まさか……。

「まさか、あの時から彼は……『自分に媚びない女、面白い』的な、アレだったの……?」

もしそうなら、私の今の行動は火に油を注いでいるに過ぎない。 私が突き放せば突き放すほど、彼の「攻略欲」を刺激していることになる。

「……ダメだわ。作戦を変更しないと」

私はふらふらと立ち上がり、机の上のカレンダーを見た。 数日後には、王立アカデミーの入学式がある。 そこには、物語の真のヒロイン、アリスちゃんが現れるはずだ。

「そうよ。王子が私に執着するのは、まだアリスちゃんという『本物の光』を知らないからだわ。彼女さえ現れれば、王子の目は覚める。私へのバグった好感度も、彼女の聖女パワーで浄化されるはず!」

私は、まだ見ぬヒロインに最後の希望を託した。 自分への好感度が100なら、王子とヒロインの好感度を強引に200にまで引き上げてやる。 それが、私に残された唯一の勝利の道。

「待ってなさいよ入学式……! 私は、絶対にあなたの隣にヒロイン(本命)を座らせてみせるんだから!」

……しかし。 この時の私は、まだ知らない。 数日後に会うことになるアリスちゃんもまた、何かが決定的に「バグって」いるということを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したので推しの悪役王子を救おうと思います!

かな
恋愛
大好きな乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生!? しかもこのままだと最推しが死んじゃうんですけど!? そんなの絶対ダメ!! そう思って推しの死亡ルートを回避しようと奮闘していると、何故か溺愛が始まって……。 「私に構っている暇があったら、(自分の命の為に)ヒロインを攻略して下さい!」 距離を取ろうとしたのに、推しから甘やかされて……? 推しを救うために頑張ってたら、溺愛ルートに突入しました!? 他サイト様にも掲載中です

魔法学園の悪役令嬢、破局の未来を知って推し変したら捨てた王子が溺愛に目覚めたようで!?

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
『完璧な王太子』アトレインの婚約者パメラは、自分が小説の悪役令嬢に転生していると気づく。 このままでは破滅まっしぐら。アトレインとは破局する。でも最推しは別にいる! それは、悪役教授ネクロセフ。 顔が良くて、知性紳士で、献身的で愛情深い人物だ。 「アトレイン殿下とは円満に別れて、推し活して幸せになります!」 ……のはずが。 「夢小説とは何だ?」 「殿下、私の夢小説を読まないでください!」 完璧を演じ続けてきた王太子×悪役を押し付けられた推し活令嬢。 破滅回避から始まる、魔法学園・溺愛・逆転ラブコメディ! 小説家になろうでも同時更新しています(https://ncode.syosetu.com/n5963lh/)。

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

婚約破棄、その後の話を誰も知らない

あめとおと
恋愛
奇跡によって病を癒す存在――聖女。 王国は長年、その力にすべてを委ねてきた。 だがある日、 誰の目にも明らかな「失敗」が起きる。 奇跡は、止まった。 城は動揺し、事実を隠し、 責任を聖女ひとりに押しつけようとする。 民は疑い、祈りは静かに現実へと向かっていった。 一方、かつて「悪役」として追放された令嬢は、 奇跡が失われる“その日”に備え、 治癒に頼らない世界を着々と整えていた。 聖女は象徴となり、城は主導権を失う。 奇跡に縋った者たちは、 何も奪われず、ただ立場を失った。 選ばれなかった者が、世界を救っただけの話。 ――これは、 聖女でも、英雄でもない 「悪役令嬢」が勝ち残る物語。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

処理中です...