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19. 俺の想い アンセルム視点
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ロニーから手紙が来たので、何事かと読んでみると俺の妻となった伯爵令嬢がどうやら領地改革したいらしい。
令嬢の気まぐれなのか気になったし、経営は遊びでは出来ない為、どういう事か確認しに一度あの小さな公爵領の邸へ行ってみる事にした。
丁度、明日からまた東の国境の森付近で悪獣討伐軍を派遣しなければならなくなり、その前に時間が空いたからだ。
軍の調整は、各軍の隊長がやる。俺は総司令官だから最後の確認と調整はしっかりしないといけないが、それまでは時間が空くからな。
邸へ行ってみれば、あの令嬢は庭いじりをしていた。
使用人のような汚れた服を着ているはずなのに、恥ずかしそうに後ろを向いた令嬢は不覚にも少しだけ初々しいと思ってしまった。可愛らしいと思うなんて。
いや…それにしても。
結婚式の日は苛立っていた事もあり、令嬢をじっくりと見る事もしていなかったから気づかなかったが、こんな髪色や顔つきだったか?
あの日の少女の髪色にそっくりだ。
雰囲気も柔らかく、温かい感じで何だか癒される。風呂から上がりさっぱりとした彼女は、服を着替えたからか余計に可愛く、そう見えてしまった。
…いや、そんな事はない。気のせいだろうと疲れた体に鞭を打ちつつ話をしていると、彼女も魔力が使えるらしい。
それも、水の魔力。
あまり使えないと言っていたのも似ている。だが…まぁ俺みたいに魔力の特訓でもしなければ、使いこなせるようにはならないだろうから、そんなの良くある事だな。
水を飲んでも、味はスッキリとした感じがしたが無味無臭で、変わり無かったから、本当に気休めだったのかもな。
………そう思っていたのだが。
その後、椅子に座ったまま仮眠を取り目覚めるととても頭がスッキリとして、体も羽根が生えたように軽くて驚いたんだ。
いや、あの体制で寝て、目覚めがスッキリ、なんてあるか!?自分であの体勢で寝たのも何だけれども。
なんだかおかしな感覚に陥りながらも王宮に帰り、遠征の最終準備をしなければと思った。
王宮の正門の所で、なんと王太子のヴァイセル殿下が、クリスタ様と話をされていたんだ。
クリスタ様の服は、ピッタリと体のラインがくっきりと分かるもので、思わず目を逸らした。
いつかの夜会よりも更に二人の距離は近く、なんだか見てはいけないものを見た気がして門をくぐるのを戸惑ってしまった。
「あぁ、アンセルム。君も、妻の所へ行って来たのかい?」
「はい。」
逢い引きされているのに声を掛けるのか…と思ったが、クリスタ様はヴァイセル殿下に肩を抱かれたまま妖艶に笑って、
「アンセルム様。スティナを大切にして下さいね。」
と言った。
言葉を交わしたのはこれで二度目だが、一度目は単なる自己紹介程度であったからそんなもんかとも思ったが、話すとあの時の少女とはやはり雰囲気が違う。
それになんだか、俺が思い描いていた人物はこんな誰が来るかも分からない正門でいちゃつくような人だったのかと嫌悪感にも似た思いが沸いてきたが、明日から遠征してしまうが為に、少々大胆な行動に出る輩も少なくないから、ヴァイセル殿下が命令したのかもしれないと思った。…本当はそんな事、無理矢理する奴ではないと分かってはいるのだが。
それよりも、なぜだかスティナと呼び捨てにした事が引っ掛かり、聞いてみた。
「はい。あの、クリスタ嬢は、私のつ、妻をご存じで?」
「ええ。私とスティナは従姉妹よ。幼少の頃は、毎年冬の時期にうちに来て一緒に過ごした時期もあってね、可愛い妹みたいな感じよ。最近はずっと会えていないけれどね。」
「そうだったのですか?」
「あら。ご存じかと思っておりましたのに。」
フフフフ。とまた妖艶に笑って、ヴァイセル殿下の腕にしがみついた。
ヴァイセル殿下は、『明日から離れ離れだ。必ず帰ってくるけれど、やっぱりもう少し一緒にいよう。』とクリスタ様に言い、クリスタ様も『嬉しい!』と言っていた。
そうか…そういう仲だったのか。俺は、軍があるからと社交の場には行かなかったから知らなかった。
だが、思ったよりも胸にきた衝撃はなぜか少なかった。
それに従姉妹だから顔の感じが似ていたのかと納得した。
なぜだが唐突にスティナを思い出し、また話をしたいと思ってしまった。
「じゃあまたあとでな、アンセルム。」
そう言われたから、従兄弟であるから気安い仲ではあるが一応頭を下げ、俺は正門をくぐった。
後ろから、
「あーあ!私も魔力があれば、討伐軍に入隊したのになー。」
と言うクリスタ様の声が聞こえた。
(え!?)
と思って振り向いたが、もはや二人の世界に入っていたので踏み込んで聞く気にもなれず、〝あれば〟では無く〝多ければ〟の間違いではないのか?と思いながら俺は歩み出した。
遠征に行けば、なぜだかいつも感じる疲れがあまりなかったんだ。
おかげで、俺の魔力もいつもより使えたし、指示もいつもより冴えていると一緒に行ったヴァイセル殿下に『やっぱり、新妻に会いに行ったからいつもより体調が良かったのか?新婚なんだし王宮に泊まりこむのは止めて家に帰れ』なんて揶揄われ、いつもより早く帰って来る事が出来たんだ。
その帰り道、なぜだか、またあの気休めと言っていた魔力入りの水が飲みたくなったんだ。…いや、彼女の顔が見たくなった、のか俺は…?
報告は、ヴァイセル殿下が『適当にやっておくよ』と言ったが、一応俺が総司令官なわけだし、国王陛下に直接報告した方がいいだろうと思った。『真面目だなぁ、じゃあ今日中に来ればいいよ。』と笑いながら言ってくれたからそれに甘える事として、邸へと向かった。
彼女は、快くお帰りなさいと言ってくれた。なんだか、そう言われると擽ったいような、今まで感じた事のない変な気持ちになった。
彼女の想いがこもった魔力入りの水を期待したが、残念ながらオーヴェに使ってしまった後だった。
なら話も出来たしすぐに王宮へ報告に行こうとしたが、彼女が疲労回復にいい薬草を浮かべた風呂はどうだと提案してくれたからせっかくだからそれに倣ってみる。
まぁ、効いてるんだと思うんだが…やはりあの魔力入りの水がいい。
ん?なぜ、俺はそれを所望したんだ……?
それにしても…やはり似ている。
明日は休暇だ。
休暇の過ごし方は普段だったら、いつもより長く寝て、そこから少し鍛錬をする位で王宮の外へ出歩いたりはしないのだが、明日は、そうだな。邸へ帰って、領地改革の進捗状況でも確認してみよう。
令嬢の気まぐれなのか気になったし、経営は遊びでは出来ない為、どういう事か確認しに一度あの小さな公爵領の邸へ行ってみる事にした。
丁度、明日からまた東の国境の森付近で悪獣討伐軍を派遣しなければならなくなり、その前に時間が空いたからだ。
軍の調整は、各軍の隊長がやる。俺は総司令官だから最後の確認と調整はしっかりしないといけないが、それまでは時間が空くからな。
邸へ行ってみれば、あの令嬢は庭いじりをしていた。
使用人のような汚れた服を着ているはずなのに、恥ずかしそうに後ろを向いた令嬢は不覚にも少しだけ初々しいと思ってしまった。可愛らしいと思うなんて。
いや…それにしても。
結婚式の日は苛立っていた事もあり、令嬢をじっくりと見る事もしていなかったから気づかなかったが、こんな髪色や顔つきだったか?
あの日の少女の髪色にそっくりだ。
雰囲気も柔らかく、温かい感じで何だか癒される。風呂から上がりさっぱりとした彼女は、服を着替えたからか余計に可愛く、そう見えてしまった。
…いや、そんな事はない。気のせいだろうと疲れた体に鞭を打ちつつ話をしていると、彼女も魔力が使えるらしい。
それも、水の魔力。
あまり使えないと言っていたのも似ている。だが…まぁ俺みたいに魔力の特訓でもしなければ、使いこなせるようにはならないだろうから、そんなの良くある事だな。
水を飲んでも、味はスッキリとした感じがしたが無味無臭で、変わり無かったから、本当に気休めだったのかもな。
………そう思っていたのだが。
その後、椅子に座ったまま仮眠を取り目覚めるととても頭がスッキリとして、体も羽根が生えたように軽くて驚いたんだ。
いや、あの体制で寝て、目覚めがスッキリ、なんてあるか!?自分であの体勢で寝たのも何だけれども。
なんだかおかしな感覚に陥りながらも王宮に帰り、遠征の最終準備をしなければと思った。
王宮の正門の所で、なんと王太子のヴァイセル殿下が、クリスタ様と話をされていたんだ。
クリスタ様の服は、ピッタリと体のラインがくっきりと分かるもので、思わず目を逸らした。
いつかの夜会よりも更に二人の距離は近く、なんだか見てはいけないものを見た気がして門をくぐるのを戸惑ってしまった。
「あぁ、アンセルム。君も、妻の所へ行って来たのかい?」
「はい。」
逢い引きされているのに声を掛けるのか…と思ったが、クリスタ様はヴァイセル殿下に肩を抱かれたまま妖艶に笑って、
「アンセルム様。スティナを大切にして下さいね。」
と言った。
言葉を交わしたのはこれで二度目だが、一度目は単なる自己紹介程度であったからそんなもんかとも思ったが、話すとあの時の少女とはやはり雰囲気が違う。
それになんだか、俺が思い描いていた人物はこんな誰が来るかも分からない正門でいちゃつくような人だったのかと嫌悪感にも似た思いが沸いてきたが、明日から遠征してしまうが為に、少々大胆な行動に出る輩も少なくないから、ヴァイセル殿下が命令したのかもしれないと思った。…本当はそんな事、無理矢理する奴ではないと分かってはいるのだが。
それよりも、なぜだかスティナと呼び捨てにした事が引っ掛かり、聞いてみた。
「はい。あの、クリスタ嬢は、私のつ、妻をご存じで?」
「ええ。私とスティナは従姉妹よ。幼少の頃は、毎年冬の時期にうちに来て一緒に過ごした時期もあってね、可愛い妹みたいな感じよ。最近はずっと会えていないけれどね。」
「そうだったのですか?」
「あら。ご存じかと思っておりましたのに。」
フフフフ。とまた妖艶に笑って、ヴァイセル殿下の腕にしがみついた。
ヴァイセル殿下は、『明日から離れ離れだ。必ず帰ってくるけれど、やっぱりもう少し一緒にいよう。』とクリスタ様に言い、クリスタ様も『嬉しい!』と言っていた。
そうか…そういう仲だったのか。俺は、軍があるからと社交の場には行かなかったから知らなかった。
だが、思ったよりも胸にきた衝撃はなぜか少なかった。
それに従姉妹だから顔の感じが似ていたのかと納得した。
なぜだが唐突にスティナを思い出し、また話をしたいと思ってしまった。
「じゃあまたあとでな、アンセルム。」
そう言われたから、従兄弟であるから気安い仲ではあるが一応頭を下げ、俺は正門をくぐった。
後ろから、
「あーあ!私も魔力があれば、討伐軍に入隊したのになー。」
と言うクリスタ様の声が聞こえた。
(え!?)
と思って振り向いたが、もはや二人の世界に入っていたので踏み込んで聞く気にもなれず、〝あれば〟では無く〝多ければ〟の間違いではないのか?と思いながら俺は歩み出した。
遠征に行けば、なぜだかいつも感じる疲れがあまりなかったんだ。
おかげで、俺の魔力もいつもより使えたし、指示もいつもより冴えていると一緒に行ったヴァイセル殿下に『やっぱり、新妻に会いに行ったからいつもより体調が良かったのか?新婚なんだし王宮に泊まりこむのは止めて家に帰れ』なんて揶揄われ、いつもより早く帰って来る事が出来たんだ。
その帰り道、なぜだか、またあの気休めと言っていた魔力入りの水が飲みたくなったんだ。…いや、彼女の顔が見たくなった、のか俺は…?
報告は、ヴァイセル殿下が『適当にやっておくよ』と言ったが、一応俺が総司令官なわけだし、国王陛下に直接報告した方がいいだろうと思った。『真面目だなぁ、じゃあ今日中に来ればいいよ。』と笑いながら言ってくれたからそれに甘える事として、邸へと向かった。
彼女は、快くお帰りなさいと言ってくれた。なんだか、そう言われると擽ったいような、今まで感じた事のない変な気持ちになった。
彼女の想いがこもった魔力入りの水を期待したが、残念ながらオーヴェに使ってしまった後だった。
なら話も出来たしすぐに王宮へ報告に行こうとしたが、彼女が疲労回復にいい薬草を浮かべた風呂はどうだと提案してくれたからせっかくだからそれに倣ってみる。
まぁ、効いてるんだと思うんだが…やはりあの魔力入りの水がいい。
ん?なぜ、俺はそれを所望したんだ……?
それにしても…やはり似ている。
明日は休暇だ。
休暇の過ごし方は普段だったら、いつもより長く寝て、そこから少し鍛錬をする位で王宮の外へ出歩いたりはしないのだが、明日は、そうだな。邸へ帰って、領地改革の進捗状況でも確認してみよう。
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