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〈12. 職場で、新王の話を聞くと〉
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職場へと着いたエステルは、まだ授業が始まるまでに時間はあるというのにすでに学校の広場で長い木の枝を振り回している子を見かける。
昨日いた子とはまた別の男の子や女の子達だった。
「えい、やー!」
「いててて…強いな!よし、もう一度!」
(熱心ね…怪我をしないのかしら?子供ってみんなそうなの?カブソンルンドでもそうだったのかしら?私、屋敷の外へあまり出なかったから知らないわ。)
エステルは、それを横目に見つつ、校舎へと入って行った。
一階の職員室へと行くと、ちらほらと人がいて、長机に座っていたり、立って話をしている人達がいた。
ミエスが気づき、
「やぁ、来てくれたね。早速、教室の掃除から始めてくれ。子供達はあと一時間もすれば教室に入ってくる。…そうだな、アーム先生!」
そう言って、ミエスはアームと呼ばれた女性を手招きする。
アームは、赤茶色の髪を顔の輪郭に沿って短く切った、エステルよりも十歳前後年上に見える女性だった。
「彼女はアーム先生だ。アーム先生、こちらの子は昨日採用した、エステル先生だよ。今日は一日、アーム先生に彼女の指導をお願いしていいかい?近い内に人数を分けて、エステル先生にも教えてもらえるようにして欲しいから。」
「はい、分かりました。では、エステル先生、着いてきてくれる?」
「はい!」
エステルは、ここでは当たり前のように〝先生〟と言われ、なんだかこそばゆい気持ちではあったが、頑張ろうと気合いを込めて返事をした。
職員室を出て廊下を進み、階段を上がった二階の一室へと案内される。
「この庶民学校は、基本的に来た子みんなに読み書きや足し引きなど簡単な事を教えるのよ。それが出来るようになれば、庶民の学力も上がり、将来勤めに出られるようになるからよ。」
(なるほど…。)
「子供達は、毎日来る子もいれば、そうでない子もいるの。家の手伝いをしている子は毎日来られない子もいるし。それでも、昼には炊き出しをするから、登校して来る子は多いわね。」
「炊き出し、ですか……?」
「そう。昼食は、登校した子供達と一緒に食べるのよ。もちろん作るのは私達教師の、手が空いた人が作るわ。エステル先生も、出来るようにね。」
「はい…。」
(みんなが食べる…私、作れるのかしら?)
エステルが心配しながらもそう思うと、
「この学校も、食事も、料金はかからないから庶民にはうってつけよね。」
「え!?」
「そうよぉ。時のアードルフ王がこの学校を造られた時に、そうお決めになったの!庶民にとっては、今までは生きていくのもやっとだったのに、王都で働き口を見つければ、アパートメントに入れるから無料で住めるでしょ?アードルフ様って、器の大きな偉大な方よね!」
(そうなのね…でも、そんなに無料にして、どうやって成り立っているのかしら?私は領地経営をしていたお父様を見ていたけれど、やりくりってとても大変そうだったわ。それとも、王様だから、無料にしても採算が合うのかしら……?)
エステルは、アームのその言葉を聞いて疑問に感じて口にする。
「アーム先生。そんなに無料にして、やっていけるのですか?」
「え?どういう意味?アードルフ様がやると決めたのだからやっていくのでしょう?」
「え?いえ、その……食材とかはどうするのですか?」
(やっていく?王様がやると言ったら、何がなんでもやらせるという事?でも資金が無ければ、運営出来ないでしょうに…。)
エステルは、自分が住んでいたカブソンルンド領では、領地を運営するにあたって庶民に特産品を作らせそれを父親が買い付け、それを他の領地へ販売する事でやりくりして領地を繁栄させていたのを見てきた。
主な特産品は、手工芸。
木製の道具を膝に挟んで模様を織っていくもので、腕に嵌めるものや、ヘッドバンド、靴ひも、ベルトなど様々なものに応用出来る優れたリボンだ。
エステルは女だからと経営の管理は任されていなかったが、父親が執事とよく話していたのを知っている。『今年の出来はどうだ』『なかなか売り上げがあがらないな。どうすれば上がる?』などと愚痴りながら。
なので、当然王都でもそのように生活するのだと思っていた。自分の住む場所の家賃を働いた賃金で支払い、食べ物は自分で稼いだお金で購入し、やりくりするのだと。
(支払わなくてもいいって…いい事なの?それとも、何か裏があるの?)
「あぁ、王宮から届けられるのよ。あとは、毎月国から資金を頂いているから、そこから足りなければ買いに行ったりするけど?でも、ある物で作れば、買わなくて済むわね。
…アードルフ様は、以前のガブリエル王とは違って革新的な改革をしてすごいわよね!
だから最近王都は住みやすいって、人がたくさん出稼ぎに来るのよ。人が昔よりも増えてるのですって!」
「そうなんですね……。」
エステルはアームの話を聞きながら、半年ほど前に代替わりした王様は、すごい人なのか良く分からないなと思いながら聞いていた。
(そういえば、アードルフ王と亡きガブリエル王の上に姉君がいたと思うけれど、その方は何も進言されなかったのかしら?)
エステルは、さらにいろいろと考えを巡らせた。
昨日いた子とはまた別の男の子や女の子達だった。
「えい、やー!」
「いててて…強いな!よし、もう一度!」
(熱心ね…怪我をしないのかしら?子供ってみんなそうなの?カブソンルンドでもそうだったのかしら?私、屋敷の外へあまり出なかったから知らないわ。)
エステルは、それを横目に見つつ、校舎へと入って行った。
一階の職員室へと行くと、ちらほらと人がいて、長机に座っていたり、立って話をしている人達がいた。
ミエスが気づき、
「やぁ、来てくれたね。早速、教室の掃除から始めてくれ。子供達はあと一時間もすれば教室に入ってくる。…そうだな、アーム先生!」
そう言って、ミエスはアームと呼ばれた女性を手招きする。
アームは、赤茶色の髪を顔の輪郭に沿って短く切った、エステルよりも十歳前後年上に見える女性だった。
「彼女はアーム先生だ。アーム先生、こちらの子は昨日採用した、エステル先生だよ。今日は一日、アーム先生に彼女の指導をお願いしていいかい?近い内に人数を分けて、エステル先生にも教えてもらえるようにして欲しいから。」
「はい、分かりました。では、エステル先生、着いてきてくれる?」
「はい!」
エステルは、ここでは当たり前のように〝先生〟と言われ、なんだかこそばゆい気持ちではあったが、頑張ろうと気合いを込めて返事をした。
職員室を出て廊下を進み、階段を上がった二階の一室へと案内される。
「この庶民学校は、基本的に来た子みんなに読み書きや足し引きなど簡単な事を教えるのよ。それが出来るようになれば、庶民の学力も上がり、将来勤めに出られるようになるからよ。」
(なるほど…。)
「子供達は、毎日来る子もいれば、そうでない子もいるの。家の手伝いをしている子は毎日来られない子もいるし。それでも、昼には炊き出しをするから、登校して来る子は多いわね。」
「炊き出し、ですか……?」
「そう。昼食は、登校した子供達と一緒に食べるのよ。もちろん作るのは私達教師の、手が空いた人が作るわ。エステル先生も、出来るようにね。」
「はい…。」
(みんなが食べる…私、作れるのかしら?)
エステルが心配しながらもそう思うと、
「この学校も、食事も、料金はかからないから庶民にはうってつけよね。」
「え!?」
「そうよぉ。時のアードルフ王がこの学校を造られた時に、そうお決めになったの!庶民にとっては、今までは生きていくのもやっとだったのに、王都で働き口を見つければ、アパートメントに入れるから無料で住めるでしょ?アードルフ様って、器の大きな偉大な方よね!」
(そうなのね…でも、そんなに無料にして、どうやって成り立っているのかしら?私は領地経営をしていたお父様を見ていたけれど、やりくりってとても大変そうだったわ。それとも、王様だから、無料にしても採算が合うのかしら……?)
エステルは、アームのその言葉を聞いて疑問に感じて口にする。
「アーム先生。そんなに無料にして、やっていけるのですか?」
「え?どういう意味?アードルフ様がやると決めたのだからやっていくのでしょう?」
「え?いえ、その……食材とかはどうするのですか?」
(やっていく?王様がやると言ったら、何がなんでもやらせるという事?でも資金が無ければ、運営出来ないでしょうに…。)
エステルは、自分が住んでいたカブソンルンド領では、領地を運営するにあたって庶民に特産品を作らせそれを父親が買い付け、それを他の領地へ販売する事でやりくりして領地を繁栄させていたのを見てきた。
主な特産品は、手工芸。
木製の道具を膝に挟んで模様を織っていくもので、腕に嵌めるものや、ヘッドバンド、靴ひも、ベルトなど様々なものに応用出来る優れたリボンだ。
エステルは女だからと経営の管理は任されていなかったが、父親が執事とよく話していたのを知っている。『今年の出来はどうだ』『なかなか売り上げがあがらないな。どうすれば上がる?』などと愚痴りながら。
なので、当然王都でもそのように生活するのだと思っていた。自分の住む場所の家賃を働いた賃金で支払い、食べ物は自分で稼いだお金で購入し、やりくりするのだと。
(支払わなくてもいいって…いい事なの?それとも、何か裏があるの?)
「あぁ、王宮から届けられるのよ。あとは、毎月国から資金を頂いているから、そこから足りなければ買いに行ったりするけど?でも、ある物で作れば、買わなくて済むわね。
…アードルフ様は、以前のガブリエル王とは違って革新的な改革をしてすごいわよね!
だから最近王都は住みやすいって、人がたくさん出稼ぎに来るのよ。人が昔よりも増えてるのですって!」
「そうなんですね……。」
エステルはアームの話を聞きながら、半年ほど前に代替わりした王様は、すごい人なのか良く分からないなと思いながら聞いていた。
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エステルは、さらにいろいろと考えを巡らせた。
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