【完結】婚約破棄された彼女は領地を離れて王都で生きていこうとしていたが、止める事にしました。

まりぃべる

文字の大きさ
11 / 23

〈11. 新しい住処へ行くと〉

しおりを挟む
 その後もミエス校長と明日からの出勤時間の事などを少し話し、エステルは再び仕事案内所へと戻った。



 先ほどのカウンターへ行くと、先ほどの受付の人が向こうから声を掛けてきた。

「さっきの!採用されたって?まぁけど良かったねぇ!
では労働アパートメントへ案内するから。ちょっとそこで待ってておくれ。あ、ちゃんと荷物は持って行きなさいよ。」


 そう言うと、受付の人は傍に置いてあるベルを鳴らした。

 カランカランと、よく通る音がそこに響くと奥から十歳前後の女の子が出て来た。

「こちらの方に、労働アパートメントへご案内しておくれ。そうだねぇ…六番街の三番がいいかな。職場にも近いからね。」

「はい分かりました。では、こちらへ。」

 その女の子はエステルへとペコリと頭を下げ、前へと進み始める。




☆★

 仕事案内所を出て、学校がある道とは逆の方向へと歩いてすぐの路地を入った所へ案内された。
 そこは三階建ての建物で、ここが労働者向けのアパートだった。


「こちらは、仕事案内所から仕事を紹介した方達が無料で住む事の出来る素晴らしい場所です。」

 そう女の子は言って、一階の玄関を入って行く。

 玄関は、少しだけ広く取ってあり、正面には階段があり、その階段の下側には小窓がついていて、女の子はそこへ話しかけた。

「お連れしました。お願いします。」

「はい、ただ今!」

 すぐに声がして、奥の扉から人が出てくる。

「ありがとうございます。承ります。」

 そう言われると、今まで案内してくれた女の子はペコリとお辞儀をしてすぐに帰っていった。

(なんだか、淡々としているのね。)

 エステルはお礼も言う間もなかったのでそう思った。


「では、今日からこちらに住まわれるという事で宜しいですか?」

 そう聞いた子は、先ほどのように十歳前後の女の子だった。

(この辺りでは、小さな子も仕事をするのね。家の手伝いとかではなくて、もう勤めているのかしら。しかも、言葉遣いもしっかりしているわ。)

 エステルは、感心しながらもその問いに答える。

「はい。勝手が全く分からないのだけれど、住めるならありがたいわ。」

「分かりました。ではご説明します。仕事案内所から来られたので、仕事は見つかったという事で宜しいですか?」

 そう言いながら、その女の子は階段を上って行くのでエステルもそれについていく。

「ええ。庶民学校に。」

「あぁ、だからこちらなのですね。そこへはわりと近いですから。
ここはそのような働き口がある人達が住んでいます。料金は無料です。食事も三食ついています。必要があれば、お弁当をお作りする事も出来ますが、学校でしたらそちらで摂れますから必要ありませんね。使いたい時はいつでも食堂で摂れます。もちろんこちらも料金は無料です。
一階に食堂と、談話室と、浴場があります。では、こちらへ。」


 と、三階の一室へと案内されたエステルは、部屋に入るとずいぶんとすっきりした部屋だと思った。
 それに、部屋の横の壁だけ明らかに色が違う。まるで、広い部屋を板で仕切りを付けたようだ。
 自分が今まで過ごしてきた部屋と比べると、こんなに小さな部屋は初めてだと驚いたのだ。

 それでも、生活するには充分だ。

 人一人寝られるほどのベッド、正面には小窓、そこに小さな机と椅子があり、ベッドの向かいの壁際には腰の高さほどのチェストがあるので生活には特に困らないだろうと納得する。

(今まで使っていたシストネン家の部屋よりかなり…でも、寝泊まり出来る場所があるだけマシだと思わないといけないわね。だって私は、もうシストネン家には帰れないもの。不本意ではあるけれど、あんな思考のお父様の元へは帰りたくないわ。あ、でも…レーヴィとはお別れになっちゃったな。)


「服は支給品です。洗濯も、階下の洗濯室へ出して頂ければ我々が洗います。洗濯室には洗った服が棚にサイズ毎に分けて置いてあるので、それをご自分で持って行って下さいね。
以上です。
何かあれば階下の私達がいる部屋にお申し付け下さい。それでは。」


 考えていたエステルは、そう女の子に言われた声で意識を浮上させたが、もう出て行ったあとだった。




☆★

 次の日。
 エステルは、初出勤。


 朝食も、昨日夕食で一緒になったヘルミという明るい茶色の髪を三つ編みにした同じ年齢の子と摂る。

 ヘルミは、近くの雑貨店で雇われているらしく、朝昼夕と食事はここですると言った。

「私、出稼ぎに来たのよ。大変だけどでも、お給金もらえると『働いていてよかった!』と思うのよね!」

「小さなアパートメントだし、なかなか時間が合わない人達がほとんどなの。でも、エステルは同じ十八歳だと聞いて嬉しい!あ、エステルって呼んでよかった?」

 ヘルミは快活で、エステルを見かけると初めて見る顔だと話しかけてくれたのだ。
エステルも、心細かったのもあり、またよく話題をふってくれる為ヘルミとはすぐに打ち解けた。


 そんなヘルミと別れ、エステルは早速学校へと向かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

「お前を愛する事は無い」ですか、やっぱり

あんど もあ
ファンタジー
貧乏子爵家の令嬢が「持参金不要」の訳アリ縁談に飛び付いたら、「お前を愛する事は無い」と言われたよ〜、というよくある話。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた

せいめ
恋愛
 伯爵令嬢のフローラは、夜会で婚約者のレイモンドと義妹のリリアンが抱き合う姿を見てしまった。  大好きだったレイモンドの裏切りを知りショックを受けるフローラ。  三ヶ月後には結婚式なのに、このままあの方と結婚していいの?  深く傷付いたフローラは散々悩んだ挙句、その場に偶然居合わせた公爵令息や親友の力を借り、ざまぁして逃げ出すことにしたのであった。  ご都合主義です。  誤字脱字、申し訳ありません。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

処理中です...