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8. 結婚とは

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「次の授業は、刺繍ね。ねぇクラーラ。貴女は刺繍好き?」

 と、そうクラーラへ話し掛けたシャーロテ。


 学院に通い始めて一ヶ月。


 授業も始まり、学院にも慣れてきた。一年生のクラスは、二クラスで、婚約者のヘンリクとは離れてしまったが、友人となったシャーロテと同じクラスになれたので、クラーラはそこまで淋しいとは思わなかった。しかし、彼は毎日、朝と帰りに挨拶に来る。昼も一緒に食べるかと聞かれたが、友人と交流するのもここだけでしか味わえない為に、遠慮する事とした。彼にもそのように告げると不承不承、了承した。

 次は男女で分かれての、一年生の合同授業。一年生女子は刺繍室で刺繍、一年生男子は広場で剣術だ。


 クラーラの住んでいる領地は自然豊かな土地だ。その為クラーラもよく景色の良い外に出掛けては近くの湖や池で遊んでいた。なので、家の中で淑女の嗜みと言われる刺繍をするよりも外に出て風を感じている方が好きであった。


「うーん、普通かしら?でも、家では刺繍をしていなかったから…上手ではないわ。シャーロテは好きそう…ではないの?」

 クラーラが話していると眉間に皺を寄せて険しい顔をしだしたから、否定してみた。

「ええ。私、こう見えてガサツなのですって。いとこにもよく言われるの。自分でも思うわ。でも、クラーラも家でやらなかったの?私も自由時間が出来れば、外へ出掛けてしまっていたわ。」

「あら、じゃあやっぱり似たもの同士かもしれないわね。」

「うふふ。そうね、嬉しいわ。」

 見た目は可憐で刺繍が似合いそうな二人であるが、その実、外に出掛ける方が好きだと分かり、では今度休みの日に一緒に出掛けましょうという話を交わしながら刺繍室へと向かう。


「あら?あちらは…。」


 刺繍室へと向かう途中、広場が見える渡り廊下で、女子生徒が数人、固まって広場を見ながらキャーキャー声を上げていた。広場を見ると、一年生の男子生徒がハンドボールをしていた。まだ授業が始まってはいないから、遊んでいるのだ。

「うまいですわね!あの、明るい茶髪の方。」

「本当に。彼、走るのも早いわ。パスもシュートもお上手ね!」

 シャーロテとクラーラも、その場面を見て感想を述べた。明るいオレンジに近い茶色の髪で背も回りの子より少し高い彼はラグンフリズ=フォントリアー侯爵家の長男。固まっていた女子生徒も、他の男子生徒を見ていたが、彼が飛び抜けて上手いのでキャーキャー言っていたのだ。

 他の男子生徒の間をすり抜けて颯爽とジャンプしながらシュートをする彼を見ると、少しだけ胸が高鳴ったクラーラだったが、婚約者がいる身で他の人を格好よく思うなんてよくないと、シャーロテを促した。

「シャーロテ、行きましょう?」

「あら、彼、格好良かったんではなくて?クラーラは見なくてよかったの?」

「…思ったとしても、私は婚約者がいるのだもの。口に出せないわ。」

「それもそうね。貴族の結婚って本当に面倒!私もきっと、学院を卒業したらお国の為にどこか異国へ嫁がされるのよ。」

「シャーロテ…。」

「だからある意味私達は同じよ?クラーラだって、家の為に結婚が決まったのでしょう?面倒よね。でも、貴族として生まれてきてしまったのだもの、割り切るしかないわよね。」

 シャーロテのその言葉を聞いて、クラーラは公爵家とは家の為と言うより国の為に結婚だなんて自分よりも過酷だと感じた。
 クラーラの住む領地を更に西へ行き、険しい山を越えた先に海が見える。その海を渡ると幾つも国があるのだ。もちろん、逆の東側や南側にも別の国がある。 北側は雪や氷の世界だと言われている。

 回りには友人もおらず、文化も違うとしたら、さぞかし心細いだろう。でも、シャーロテはそれを割り切ると言った。
 クラーラも家の為に結婚するのだ。自分達の意思は関係なく、親同士で勝手に決められた。貴族の結婚とはそんなものだ。契約の元に結婚が決まる。

 マグヌッセン家とベントナー家の契約は何なのか知らされてはいないが、きっと知った所で自分の結婚は無くなりもしないのだから関係ないとクラーラは思った。
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