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18 ソンパーニャから、北の辺境の地へ

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お屋敷に帰って、思い切ってこの玄関ホールと応接室にある装飾品について意見を述べてしまった。もちろん、領主さんが気に入っていたら悪いからそれとなく聞く事から忘れずに。そうしたら【手入れも大変ですしね。売れるなら売りたいですな。それで儲かるのであれば、小麦を買いたいです。】って。早速、売った方がいいって勧めちゃったわ。そうしたら、ルークも、【ではそれも含めて、調査団に伝えておこう。】って。


今日は、ここに泊めてもらえる事になった。久し振りのフカフカのベッド!ルークとテントで、水魔法のクッションで寝るのも寝心地最高で良かったけど、たまにはベッドも恋しくなるのよね。

ルークが【マリアと出来れば同じ部屋がいいんだがどうだろうか?】と領主さんに伝えていたので、私達は一緒の部屋に通された。ベッドは、1人用を2つ隣同士でくっ付けてある。夫婦だから当たり前かもしれないけれど、照れるわ。
しかし客室だからか、ここも謎の金色の像とかもあった。これ、応接室にもあったわよね。ルークに聞いたら【何代か前の領主かもな。自分は偉いぞ、というアピールで作る人も居たらしいぞ。でもなんか、見られてるようでちょっと嫌だな。】と、苦笑気味に言った。


翌日、朝食をご馳走になって、出発する事になった。もう少し滞在しようか迷ったけれど、ルークと話して、お互いにあの部屋でゆっくりは出来ないかもと思ったから。

「本当にありがとうございます。またいらして下さいね。一同お待ちしております。」
と領主さんが言葉を掛けてくれた。
「困り事があれば、またいつでも言ってくれ。あ、くれぐれもマリアの事は他言しないように。」
「分かっております。説明もしづらいですし。」
「ありがとう。世話になったな。では。」
「はい。ありがとうございました。」
私も、ルークに倣って礼をした。

ウインドを見に行くとお屋敷の厩でお世話してくれたみたいで、ウインドもご機嫌だった。

「さぁ、行くか。」
「うん!」



街を抜けると、広く続く荒野だった。それを北東へ走るそうだ。ウインドは平坦な道を軽やかに走っている。私達も、ルークに水魔法のクッションを鞍に付けてもらったおかげで、お尻は痛くなく、顔をくすぐる風がひんやりとしてとても気持ちがいい。ルークにもたれるように密着しているのが相変わらず緊張するけれど。


荒野から、少し雪山が見え始めた頃、ルークが耳元で囁いた。
「あの山の頂上に、辺境伯の館がある。一気に行っても大丈夫か?」

耳元で囁かれると、なんだか恥ずかしいのよ…。それに、よくウインドの上で話せれるわね。
私、舌を噛み切りそうよ。だから、首を上下にコクコクと頷いた。

「そうか。偉いぞ。あと少し頑張れよ。」
そう言って、私の頭を2、3回撫でた。いやいや、手綱を持っているのに危ないよね!?嬉しいけども!



前方に建物が見えてきた。思ったよりも何というか、城塞みたい。壁が三階程の高さはあるだろうか。それが稜線に沿って建っているように見える。所々、窓なのか明かり取りなのか、柱が四角くくり抜かれている部分もある。

ウインドもやっとゆっくりになりやがて門の前で止まった。

「ウインド、よく頑張ったな。ゆっくりしようか。」
と、ルークはウインドの首元を数回撫で、それから降りた。その後に私を降ろしてくれた。
「マリアもお疲れ。よく頑張ったな。寒くなるまでにと思って飛ばしてしまった。何処か痛くないか?」
と声を掛けてくれた。

「ええ。足がちょっと震えるけれど、大丈夫よ。」
と言うと、ルークはいきなり私の膝裏に手を入れ、背中を支えていわゆるお姫さま抱っこをした。ウインドの手綱も器用にも一緒に持って。

「えっ!ちょっとルーク!大丈夫よ。歩けるわ!」
恥ずかしくて、少し大きな声で言ってしまう。すると、
「無理はするな。俺の首に手を回してくれ。楽に持てるから。」
ええー。でも、この体制でジタバタも出来ず、言われるままルークの首に手を回した。

すると、門の扉が少し開いて、1人出てきた。

「オッホン!どなたかな?」
50歳位かしら?門番さん?顎髭を文字通り逆三角形に伸ばした、おじ様だった。

「私達は、北の辺境伯となられた、ヤルドレン=ヴァン公爵に会いに来た。ルークウェスト=ヴァン=ケルンベルトと、マリア=サガワだ。取り次いでもらいたい。」
「なるほど。確認して参る。暫し待たれよ。」
と言って、扉を閉めてしまった。

「え。閉めちゃうの?」
「まぁ、ある意味要塞だからな。敵か分からぬ者を入れないのが、自分達を護る事に繋がるからな。」
「じゃあ降ろしてくれないかしら。ずっとこのままなんてルークが疲れちゃうわ。」
「そんなに俺、やわじゃないよ。マリアを護る位は出来るよ。」
って、言われちゃったわ。嬉しいけど、そういう事じゃないのにな。

扉が開く音がして、さっきの人が来た。
「ウォッホン!では、お許しが出たので入って参れ!」
と言って、チラッと私達を見て、それからウインドを見て言った。
「そちらの馬は、こちらの厩で預かります故、私に手綱を預けていただけますかな?」

「ウインド、良いか?」
と、ルークが聞くと、
「ブフフフー」
と、ウインドが鼻を鳴らした。
「ちょっと気難しいかもしれんが、お願いします。」
と、ルークが手綱を渡すと、案内人は、
「なんの。ここは最も過酷な環境故、気性の荒い性格の奴なんて数え切れん程おるわ。お前さんなんてかわいいもんよ。のう。」
と、言った。ウインドは、
「フーン」
と、少しだけ鼻を鳴らした。喜んだのかな?



私達は門扉の中に通され、ウインドは近くに居た別の衛兵に引き渡された。厩の方に連れて行ってくれるらしい。

私達は、すぐ近くの部屋に通された。木製の、背もたれが有る1人掛けの椅子が2脚ずつ向かい合わせに並んでいる。間には、長方形の木製の机があった。

「少し、ここで待たれよ。」
と言われた。ウインドに付けていた荷物も持って来たのでルークは私も抱えて大荷物だ。だから椅子に降ろしてもらった。
すると、ルークが水筒から水を出し、私に差し出してくれた。ルークも次に自分の分も準備し、喉を潤した。

「ルーク、ありがとう。だいぶ回復したわ。もう歩ける。助かったわ。」
「ん、そうか?なら良かった。」
と、ニッコリ笑ってくれる。

コンコンコン、と扉を叩く音がして人が来た。
なんと、王弟殿下と、カトリーヌ様が来てくれた。

「わざわざ来てくれたのか?2人だけで?」
「良く来てくれました!会いたかったわ!」

カトリーヌ様、何だか雰囲気が柔らかくなったような?しかも、こっちの世界の女性にしてはふんわりしたワンピースだわ。まぁ、私もドレスを着ていないし、この北は寒いからそういうふんわりしたのが普段着なのかしら?

「ああ。叔父上。会いに来た。食料を持って来たわけじゃなくて申し訳ない。」
「そんなのはいいさ!いや、正直言うと良くないんだが…またそれはあとで。とりあえず、奥に案内しよう。」
「叔父上自らですか?」
「はは。ここは人手が足りなくてな。出来る事は自分でしないといけないらしいぞ。カトリーも侍女も居なくて頑張っとるわ。」
へえーそうなんだ!

「カトリーヌ様、そう言ってくれて私も嬉しいです。私も、会いたくて来てしまいました。」
「私は、ここでヤルと一緒に暮らせているのは貴方達のおかげだと思っているのよ。」
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