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プロローグ
騎士団長の猛攻
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マーニ大陸は、ソール大陸からずっと離れた海の向こうにある。殺し屋たちの巣窟になっていると言われている。
少年は殺し屋たちの仲間のようだ。
マリアは深呼吸をして自らを落ち着けた。感情を乱してもいい事はない。
「……マルドゥクの殺し屋たちのせいでひどい目に遭ったわね」
溜め息を吐いて記憶を辿っていた。
炎に包まれた王国、命がけで戦った騎士団、神に召された両親……。
悲惨な出来事であった。
そんな中で、一人の赤髪の少年の事も思い出していた。
「マルドゥクの手下にはいい子もいたわね。彼のお友達だといいのだけど」
「いいえ! その少年も恐るべき殺し屋に間違いありません」
突然、朗々とした声が響いた。
銀色の鎧の男が槍を構えている。精悍な顔立ちの青年で、両目をぎらつかせていた。
「怪我をしていますが致命傷を避けています。かなりの手練れです。騎士団長として申し上げます。今すぐに殺さなければなりません。グローリア王国の、いいえソール大陸全体の脅威となります」
「待って、ミカエル! この子は私を助けてくれたの!」
「情けを掛けるべきではありません。近衛兵たちは、そのままそいつを押さえていろ!」
「待って!」
マリアは慌てて走ろうとする。少年をかばおうとしていた。
しかし、疲れきった身体は思うように動かず、足を滑らせて転んだ。
少年の胸に刃が迫る。
「やめてぇぇえええ!」
マリアの悲鳴がこだまする。
槍が突き刺さる。
少年が押さえつけられていたはずの床へと。
「なに!?」
ミカエルは辺りをせわしなく見渡した。
少年は最初に入れ墨を発見した近衛兵の後ろにいた。
ミカエルの両目がカッと見開く。
「押さえていろと言っただろ!」
「押さえていましたが、すんでのところで脱出されました!」
「おのれ! 入口をふさげ、絶対に逃がすな!」
ミカエルは再び槍を構える。
少年は片膝をついて荒い息をしていた。
「もう少し寝ていたかったのに」
「永遠に眠るがいい!」
ミカエルが突進する。疾風のごとき一閃は、目にも止まらない。
しかし、少年は首を曲げてなんなくかわしていた。
「おのれおのれおのれ!」
ミカエルが槍を振りまわす。切っ先は少年にかすりもしない。
「なぜだ、なぜそこまで弱っているのに倒せない!?」
「俺に聞かれても困る」
「おのれぇええ!」
ミカエルは顔を真っ赤にして憤慨した。
「何としてでも貴様は倒す! マリア王女、そしてグローリア王国を守るために!」
「やめんかミカエル! もう勝負はついておる!」
窓がドンドンと叩かれた。
月明りにきらりと頭が光る老人がいた。
「その子がマリア王女を殺すつもりでいたのなら、とっくに目的は達成できたはずじゃ! 恩人に牙をむくでない!」
「しかしスター殿、この少年がマルドゥクの手下なのは間違いないんだ」
「そんなのが何故こんなところで単独行動をしておる!? 少しは冷静になれ!」
スターの鼻息は荒かった。
ミカエルは舌打ちをして少年に向き直った。
「貴様の目的はなんだ?」
「マルドゥクたちから逃げている。それだけだ」
少年は息を整えて立ち上がった。
「俺はオネット。お察しのとおりマルドゥクの手下だった。今はただの裏切り者だが」
「余計たちが悪そうだな」
ミカエルがオネットを睨む。
しかし、オネットは平然としていた。
「そんなことより、王女が転んでいた。大丈夫か?」
「私なら大丈夫よ。怪我はないから」
ちょっと痛いけど、という言葉は呑み込んだ。
「そうそう、あなたオネットというの!?」
マリアは両目を輝かせた。
「もしかしてフレイという男の子を知っているの!?」
「知っている」
オネットは天井をあおいでいた。どこか遠い目をしている。
「あいつはマルドゥクの手下の中でも一、二を争っていたからな」
「そのフレイがあなたの事を褒めていたわ!」
マリアはゆっくりと立ち上がって両手を広げた。
「天然だけど根はいい奴って」
「……あいつにしては立派な誉め言葉だな」
オネットは苦笑した。
マリアも思わずふふっと笑う。
「ゆっくりとお話したいわ。お城でお茶しましょう」
「今からですか!?」
ミカエルが両目を吊り上げる。
「部外者を軽々と王城に入れないでください!」
「俺もどうかと思う。マルドゥクたちから逃げているからゆっくりする事もできない」
オネットの言葉にマリアはふふんと鼻を鳴らした。
「マルドゥクに追われていなかったらゆっくりできるのね」
「見ず知らずの人間を王城に入れるのは不用心だろう」
「大丈夫よ! あなたが悪い事をしたらなんとかするわ」
得意げに胸を張る。
オネットは困惑していた。ミカエルに視線を送る。
「仮に俺が暴れた時に、この国に俺を止める戦力はあるのか?」
ミカエルは眉をひそめた。
「僕に不満があるのか?」
「こんな悪条件で傷一つ付けられなかったのは初めてだ」
「やはり殺す、絶対に殺す!」
ミカエルは槍をぶんぶんと振り回す。
「刺し違えてでも殺す!」
「俺と心中する気か?」
「ころすぅぅううう!」
「やめて、ミカエル! 貴重な戦力を減らさないで」
マリアが口を挟んだ。
「オネットと一緒にマルドゥクを倒しましょう」
「……何を考えている?」
オネットが両目を見開いた。
ミカエルが溜め息を吐く。
「敵かもしれない見ず知らずの少年のために騎士団に命を捧げろとおっしゃるのですか?」
「ミカエル、それは違うぞ」
スターが口を開いた。
「マルドゥクがマーニ大陸の支配で満足するとは思えぬ。おそらく、ソール大陸にも侵略してくるじゃろう。近隣諸国も危ういかもしれない。この時に手勢は多い方がよいじゃろう」
「手勢になるのか? 肝心なところで裏切ると思うが」
「それは今後のオネットの気持ち次第じゃ」
スターはカッカッカッと豪快に笑った。
オネットは唖然としていた。
「……信じられない。あの方と戦うつもりか?」
「当たり前でしょう、あなたを放っておくことはできないわ」
マリアはきっぱりと頷いた。
少年は殺し屋たちの仲間のようだ。
マリアは深呼吸をして自らを落ち着けた。感情を乱してもいい事はない。
「……マルドゥクの殺し屋たちのせいでひどい目に遭ったわね」
溜め息を吐いて記憶を辿っていた。
炎に包まれた王国、命がけで戦った騎士団、神に召された両親……。
悲惨な出来事であった。
そんな中で、一人の赤髪の少年の事も思い出していた。
「マルドゥクの手下にはいい子もいたわね。彼のお友達だといいのだけど」
「いいえ! その少年も恐るべき殺し屋に間違いありません」
突然、朗々とした声が響いた。
銀色の鎧の男が槍を構えている。精悍な顔立ちの青年で、両目をぎらつかせていた。
「怪我をしていますが致命傷を避けています。かなりの手練れです。騎士団長として申し上げます。今すぐに殺さなければなりません。グローリア王国の、いいえソール大陸全体の脅威となります」
「待って、ミカエル! この子は私を助けてくれたの!」
「情けを掛けるべきではありません。近衛兵たちは、そのままそいつを押さえていろ!」
「待って!」
マリアは慌てて走ろうとする。少年をかばおうとしていた。
しかし、疲れきった身体は思うように動かず、足を滑らせて転んだ。
少年の胸に刃が迫る。
「やめてぇぇえええ!」
マリアの悲鳴がこだまする。
槍が突き刺さる。
少年が押さえつけられていたはずの床へと。
「なに!?」
ミカエルは辺りをせわしなく見渡した。
少年は最初に入れ墨を発見した近衛兵の後ろにいた。
ミカエルの両目がカッと見開く。
「押さえていろと言っただろ!」
「押さえていましたが、すんでのところで脱出されました!」
「おのれ! 入口をふさげ、絶対に逃がすな!」
ミカエルは再び槍を構える。
少年は片膝をついて荒い息をしていた。
「もう少し寝ていたかったのに」
「永遠に眠るがいい!」
ミカエルが突進する。疾風のごとき一閃は、目にも止まらない。
しかし、少年は首を曲げてなんなくかわしていた。
「おのれおのれおのれ!」
ミカエルが槍を振りまわす。切っ先は少年にかすりもしない。
「なぜだ、なぜそこまで弱っているのに倒せない!?」
「俺に聞かれても困る」
「おのれぇええ!」
ミカエルは顔を真っ赤にして憤慨した。
「何としてでも貴様は倒す! マリア王女、そしてグローリア王国を守るために!」
「やめんかミカエル! もう勝負はついておる!」
窓がドンドンと叩かれた。
月明りにきらりと頭が光る老人がいた。
「その子がマリア王女を殺すつもりでいたのなら、とっくに目的は達成できたはずじゃ! 恩人に牙をむくでない!」
「しかしスター殿、この少年がマルドゥクの手下なのは間違いないんだ」
「そんなのが何故こんなところで単独行動をしておる!? 少しは冷静になれ!」
スターの鼻息は荒かった。
ミカエルは舌打ちをして少年に向き直った。
「貴様の目的はなんだ?」
「マルドゥクたちから逃げている。それだけだ」
少年は息を整えて立ち上がった。
「俺はオネット。お察しのとおりマルドゥクの手下だった。今はただの裏切り者だが」
「余計たちが悪そうだな」
ミカエルがオネットを睨む。
しかし、オネットは平然としていた。
「そんなことより、王女が転んでいた。大丈夫か?」
「私なら大丈夫よ。怪我はないから」
ちょっと痛いけど、という言葉は呑み込んだ。
「そうそう、あなたオネットというの!?」
マリアは両目を輝かせた。
「もしかしてフレイという男の子を知っているの!?」
「知っている」
オネットは天井をあおいでいた。どこか遠い目をしている。
「あいつはマルドゥクの手下の中でも一、二を争っていたからな」
「そのフレイがあなたの事を褒めていたわ!」
マリアはゆっくりと立ち上がって両手を広げた。
「天然だけど根はいい奴って」
「……あいつにしては立派な誉め言葉だな」
オネットは苦笑した。
マリアも思わずふふっと笑う。
「ゆっくりとお話したいわ。お城でお茶しましょう」
「今からですか!?」
ミカエルが両目を吊り上げる。
「部外者を軽々と王城に入れないでください!」
「俺もどうかと思う。マルドゥクたちから逃げているからゆっくりする事もできない」
オネットの言葉にマリアはふふんと鼻を鳴らした。
「マルドゥクに追われていなかったらゆっくりできるのね」
「見ず知らずの人間を王城に入れるのは不用心だろう」
「大丈夫よ! あなたが悪い事をしたらなんとかするわ」
得意げに胸を張る。
オネットは困惑していた。ミカエルに視線を送る。
「仮に俺が暴れた時に、この国に俺を止める戦力はあるのか?」
ミカエルは眉をひそめた。
「僕に不満があるのか?」
「こんな悪条件で傷一つ付けられなかったのは初めてだ」
「やはり殺す、絶対に殺す!」
ミカエルは槍をぶんぶんと振り回す。
「刺し違えてでも殺す!」
「俺と心中する気か?」
「ころすぅぅううう!」
「やめて、ミカエル! 貴重な戦力を減らさないで」
マリアが口を挟んだ。
「オネットと一緒にマルドゥクを倒しましょう」
「……何を考えている?」
オネットが両目を見開いた。
ミカエルが溜め息を吐く。
「敵かもしれない見ず知らずの少年のために騎士団に命を捧げろとおっしゃるのですか?」
「ミカエル、それは違うぞ」
スターが口を開いた。
「マルドゥクがマーニ大陸の支配で満足するとは思えぬ。おそらく、ソール大陸にも侵略してくるじゃろう。近隣諸国も危ういかもしれない。この時に手勢は多い方がよいじゃろう」
「手勢になるのか? 肝心なところで裏切ると思うが」
「それは今後のオネットの気持ち次第じゃ」
スターはカッカッカッと豪快に笑った。
オネットは唖然としていた。
「……信じられない。あの方と戦うつもりか?」
「当たり前でしょう、あなたを放っておくことはできないわ」
マリアはきっぱりと頷いた。
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