マルドゥクの殺戮人形

今晩葉ミチル

文字の大きさ
3 / 52
プロローグ

騎士団長の猛攻

しおりを挟む
 マーニ大陸は、ソール大陸からずっと離れた海の向こうにある。殺し屋たちの巣窟になっていると言われている。
 少年は殺し屋たちの仲間のようだ。
 マリアは深呼吸をして自らを落ち着けた。感情を乱してもいい事はない。

「……マルドゥクの殺し屋たちのせいでひどい目に遭ったわね」

 溜め息を吐いて記憶を辿っていた。
 炎に包まれた王国、命がけで戦った騎士団、神に召された両親……。
 悲惨な出来事であった。
 そんな中で、一人の赤髪の少年の事も思い出していた。

「マルドゥクの手下にはいい子もいたわね。彼のお友達だといいのだけど」

「いいえ! その少年も恐るべき殺し屋に間違いありません」

 突然、朗々とした声が響いた。
 銀色の鎧の男が槍を構えている。精悍な顔立ちの青年で、両目をぎらつかせていた。
「怪我をしていますが致命傷を避けています。かなりの手練れです。騎士団長として申し上げます。今すぐに殺さなければなりません。グローリア王国の、いいえソール大陸全体の脅威となります」
「待って、ミカエル! この子は私を助けてくれたの!」
「情けを掛けるべきではありません。近衛兵たちは、そのままそいつを押さえていろ!」
「待って!」
 マリアは慌てて走ろうとする。少年をかばおうとしていた。
 しかし、疲れきった身体は思うように動かず、足を滑らせて転んだ。
 少年の胸に刃が迫る。
「やめてぇぇえええ!」
 マリアの悲鳴がこだまする。

 槍が突き刺さる。

 少年が押さえつけられていたはずの床へと。

「なに!?」
 ミカエルは辺りをせわしなく見渡した。
 少年は最初に入れ墨を発見した近衛兵の後ろにいた。
 ミカエルの両目がカッと見開く。
「押さえていろと言っただろ!」
「押さえていましたが、すんでのところで脱出されました!」
「おのれ! 入口をふさげ、絶対に逃がすな!」
 ミカエルは再び槍を構える。
 少年は片膝をついて荒い息をしていた。
「もう少し寝ていたかったのに」
「永遠に眠るがいい!」
 ミカエルが突進する。疾風のごとき一閃は、目にも止まらない。
 しかし、少年は首を曲げてなんなくかわしていた。
「おのれおのれおのれ!」
 ミカエルが槍を振りまわす。切っ先は少年にかすりもしない。

「なぜだ、なぜそこまで弱っているのに倒せない!?」

「俺に聞かれても困る」

「おのれぇええ!」

 ミカエルは顔を真っ赤にして憤慨した。
「何としてでも貴様は倒す! マリア王女、そしてグローリア王国を守るために!」
「やめんかミカエル! もう勝負はついておる!」
 窓がドンドンと叩かれた。
 月明りにきらりと頭が光る老人がいた。
「その子がマリア王女を殺すつもりでいたのなら、とっくに目的は達成できたはずじゃ! 恩人に牙をむくでない!」
「しかしスター殿、この少年がマルドゥクの手下なのは間違いないんだ」
「そんなのが何故こんなところで単独行動をしておる!? 少しは冷静になれ!」
 スターの鼻息は荒かった。
 ミカエルは舌打ちをして少年に向き直った。
「貴様の目的はなんだ?」
「マルドゥクたちから逃げている。それだけだ」
 少年は息を整えて立ち上がった。

「俺はオネット。お察しのとおりマルドゥクの手下だった。今はただの裏切り者だが」

「余計たちが悪そうだな」

 ミカエルがオネットを睨む。
 しかし、オネットは平然としていた。
「そんなことより、王女が転んでいた。大丈夫か?」
「私なら大丈夫よ。怪我はないから」
 ちょっと痛いけど、という言葉は呑み込んだ。
「そうそう、あなたオネットというの!?」
 マリアは両目を輝かせた。
「もしかしてフレイという男の子を知っているの!?」
「知っている」
 オネットは天井をあおいでいた。どこか遠い目をしている。
「あいつはマルドゥクの手下の中でも一、二を争っていたからな」
「そのフレイがあなたの事を褒めていたわ!」
 マリアはゆっくりと立ち上がって両手を広げた。
「天然だけど根はいい奴って」
「……あいつにしては立派な誉め言葉だな」
 オネットは苦笑した。
 マリアも思わずふふっと笑う。
「ゆっくりとお話したいわ。お城でお茶しましょう」
「今からですか!?」
 ミカエルが両目を吊り上げる。
「部外者を軽々と王城に入れないでください!」
「俺もどうかと思う。マルドゥクたちから逃げているからゆっくりする事もできない」
 オネットの言葉にマリアはふふんと鼻を鳴らした。
「マルドゥクに追われていなかったらゆっくりできるのね」
「見ず知らずの人間を王城に入れるのは不用心だろう」
「大丈夫よ! あなたが悪い事をしたらなんとかするわ」
 得意げに胸を張る。
 オネットは困惑していた。ミカエルに視線を送る。
「仮に俺が暴れた時に、この国に俺を止める戦力はあるのか?」
 ミカエルは眉をひそめた。
「僕に不満があるのか?」
「こんな悪条件で傷一つ付けられなかったのは初めてだ」
「やはり殺す、絶対に殺す!」
 ミカエルは槍をぶんぶんと振り回す。
「刺し違えてでも殺す!」
「俺と心中する気か?」
「ころすぅぅううう!」
「やめて、ミカエル! 貴重な戦力を減らさないで」
 マリアが口を挟んだ。
「オネットと一緒にマルドゥクを倒しましょう」
「……何を考えている?」
 オネットが両目を見開いた。
 ミカエルが溜め息を吐く。
「敵かもしれない見ず知らずの少年のために騎士団に命を捧げろとおっしゃるのですか?」
「ミカエル、それは違うぞ」
 スターが口を開いた。
「マルドゥクがマーニ大陸の支配で満足するとは思えぬ。おそらく、ソール大陸にも侵略してくるじゃろう。近隣諸国も危ういかもしれない。この時に手勢は多い方がよいじゃろう」
「手勢になるのか? 肝心なところで裏切ると思うが」
「それは今後のオネットの気持ち次第じゃ」
 スターはカッカッカッと豪快に笑った。 
 オネットは唖然としていた。
「……信じられない。あの方と戦うつもりか?」
「当たり前でしょう、あなたを放っておくことはできないわ」
 マリアはきっぱりと頷いた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

《完結》雪の女王を追って消えた、あんたは私と婚約してない!

さんけい
ファンタジー
「雪の女王」を追って村から消えたエイナル。 「君は僕の足かせだ?」ふざけんな、私はあんたの婚約者じゃない!

王子様とずっと一緒にいる方法

秋月真鳥
恋愛
五歳のわたくし、フィーネは姉と共に王宮へ。 そこで出会ったのは、襲われていた六歳の王太子殿下。 「フィーネ・エルネスト、助太刀します! お覚悟ー!」 身長を超える大剣で暗殺者を一掃したら、王子様の学友になっちゃった! 「フィーネ嬢、わたしと過ごしませんか?」 「王子様と一緒にいられるの!?」 毎日お茶して、一緒にお勉強して。 姉の恋の応援もして。 王子様は優しくて賢くて、まるで絵本の王子様みたい。 でも、王子様はいつか誰かと結婚してしまう。 そうしたら、わたくしは王子様のそばにいられなくなっちゃうの……? 「ずっとわたしと一緒にいる方法があると言ったら、フィーネ嬢はどうしますか?」 え? ずっと一緒にいられる方法があるの!? ――これは、五歳で出会った二人が、時間をかけて育む初恋の物語。 彼女はまだ「恋」を知らない。けれど、彼はもう決めている――。 ※貧乏子爵家の天真爛漫少女×策略王子の、ほのぼのラブコメです。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

【完結】あなたは、知らなくていいのです

楽歩
恋愛
無知は不幸なのか、全てを知っていたら幸せなのか  セレナ・ホフマン伯爵令嬢は3人いた王太子の婚約者候補の一人だった。しかし王太子が選んだのは、ミレーナ・アヴリル伯爵令嬢。婚約者候補ではなくなったセレナは、王太子の従弟である公爵令息の婚約者になる。誰にも関心を持たないこの令息はある日階段から落ち… え?転生者?私を非難している者たちに『ざまぁ』をする?この目がキラキラの人はいったい… でも、婚約者様。ふふ、少し『ざまぁ』とやらが、甘いのではなくて?きっと私の方が上手ですわ。 知らないからー幸せか、不幸かーそれは、セレナ・ホフマン伯爵令嬢のみぞ知る ※誤字脱字、勉強不足、名前間違いなどなど、どうか温かい目でm(_ _"m)

処理中です...