マルドゥクの殺戮人形

今晩葉ミチル

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少年のスキル

ハイヒールはどこ!?

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「やめろ、あの方に勝てる人間はいない」
 青ざめて震えるオネットに対して、マリアは微笑む。
「大丈夫よ。みんなで頑張れば何とかなるわ」
「どうにもならない!」
 オネットの口調が強くなる。
「あの方は神だ。人間にはどうしようもない。俺から忠告を受けた事を幸運だと思って、狙われたら逃げてくれ」
「それはできないわ。国民がいるもの」
 マリアは毅然と言い放った。
「できるだけ戦争は避けるつもりだけど、この土地を捨てて逃げても生き残るのはごくわずかよ。人の住めない土地が多すぎるの」
「マーニ大陸よりは気候に恵まれている。生活基盤を整えれば暮らせるはずだ」
「でも、猛獣がいるのよ」
「猛獣か……」
 オネットは顎に片手を当ててうなる。
「駆除を試みるしかないか」
「猛獣の駆除ですって!?」
 マリアは驚きのあまり、のけぞった。
「あんなに強力な生き物、一体を倒すのに何十人の腕自慢が必要だと思っているの!?」
「やってみるとしか言いようがない」
 オネットが諭すように言うと、マリアは両目を丸くした。
「そんな事ができるの?」
「マルドゥクと戦うよりは遥かにマシだ」
「本当に? すごいわ!」
 マリアは両目を輝かせた。
「日が昇ったらお願いするわ。今日はお話しながらゆっくり休みましょう」
「俺は夜の方が行動を取りやすい」
「みんなは朝か昼の方がいいの。一人で猛獣退治は無理よ」
「たしかに戦力は多い方がいいが、長居はできない」
「大丈夫よ、ミカエルだって強力な騎士だから!」
 マリアはふんぞった。
「少しなら持つわ」
「少しだけで申し訳ございませんね!」
 ミカエルが不機嫌になっているが、マリアは構っていなかった。
「そうと決まれば今日は休まないといけないわ」
 そう言って水場から出るマリアだったが、すぐに足を止めた。

「ハイヒールはどこに行ったのかしら?」

 自分の裸足を見つめる。だんだんとマリアの顔色が悪くなる。

「もしかして、おぼれた時に落としたのかしら?」
「脱ぎ捨てたわけではなかったのか」
 オネットが両目を見開いた。
「海底に沈んでいったのに見向きもしないから、それほど大事にしていないのかと思った」
「そんなはずないでしょう!? お気に入りだったわ!」
 マリアは地団駄踏んだ。口調は荒くなっていた。
「もう二度と同じものは手に入らないのに……」
 片手を額に当てて、その場にへたり込む。

「……しばらく立ち直れそうにないわ」

「見つければいいのか?」

 オネットがしゃがんで、心配そうにマリアの顔を覗き込む。
 マリアは力なく頷いた。
「見つかったら嬉しいけど、海は広いわ。波で流されてしまうし、見つかったら奇跡よ」
「たしかに泳いで見つけられるものではないだろう。スキルを使ってみる」
「スキル?」
「超自然的な出来事を引き起こす特殊な能力だと思ってくれていい。俺のスキルが通じるかは分からないが、やってみる」
 オネットは立ち上がる。
「ハイヒールを見つけたらここに持ってくればいいか?」
「ここよりお城がいいわ。着替えてお風呂に入りたいから」
「待て、僕か近衛兵に預けろ!」
 ミカエルが二人の間に割って入った。
「殺し屋がこれ以上マリア王女に近づくのは我慢ならない」
「殺し屋とは呼んでほしくない」
 オネットはむっとしていた。
「暗殺者と言ってほしい」
「どっちでもいいだろう!?」
「全く違う。いわゆる殺し屋のような粗暴なマネはしていないつもりだ。ターゲットだけを静かに確実に殺してきたつもりだ。多くの人間は俺に殺された自覚さえないはずだ」
「やめろ、もう黙れ!」
 ミカエルは両膝を震わせながらオネットを指さした。
「貴様のスキルとやらは見せてもらう。くれぐれも人間を相手に使わないようにしろ」
「おまえに命令されるいわれはないが、しばらくは言われたとおりにできると思う。スキル抜きで殺せる人間は多いから」
「もういいから、さっさとマリア王女の履き物を探しに行け!」
 ミカエルは入り口をふさぐ近衛兵に目配せをした。
 マリアが頷くと、近衛兵たちは入り口を開けた。
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