マルドゥクの殺戮人形

今晩葉ミチル

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グローリア王国内にて

クゥガはうまい

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「マリア王女、何故よりにもよって僕の隣なのでしょうか?」
「仲良くしてあげてね」
 ミカエルの疑問にマリアが笑顔で応えた。
「信用できない相手と本気で仲良くできると思いますか?」
「これから信用すればいいわ」
 微妙にかみ合わない会話を聞きながら、スターがクックっと笑った。
 ミカエルは両目を吊り上げて憤慨する。
「何がおかしい! そもそもあなたが本来の席である僕の隣にいないから、妙な事になったんだ」
「本来の席とはなんじゃ? たまには席を変えてもいじゃろう。それに、万が一オネットがマリア王女に手を出した時に、お主が真っ先に動けるじゃろう。何か問題があるのか?」
「それは……」
 ミカエルが言葉を詰まらせると、スターが畳みかける。
「いついかなる時も、感情ではなく国家の利益を優先するべきじゃ。ましてや騎士団長として王女を、引いては国家を守るべきお主は冷静に状況を判断しなければならん。危険と判断される人物を身近に置いておくのも手段の一つじゃよ」
「……分かった。オネットを隣に座らせる」
 ミカエルは言い返す事ができなかった。
 マリアが口を開く。
「それじゃあみんな、食前の祈りよ。両手を合わせて。オネットはそのままでもいいわ」
 談笑をしていた場が静かになる。
 マリアが厳かに祈りを口ずさむ。
「天の恵み、地の恵み、あらゆる恵みに感謝をし、与えられた尊き命を食します。それでは、いただきましょう」
 肉はナイフを通した感覚がないほどに、柔らかい。口にした人間がみんなしばらく言葉を失うほどだった。
 うまみが口の中で広がり、とろける。
 マリアが歓声をあげた。
「すごく、すごく美味しいわ!」
 マリアの歓声を皮切りに、他の貴族や騎士たちも声をあげる。
「うまい!」
「最高の食事だ!」
 賞賛を口にしたり、ガツガツと食べている人間だらけになった。
 ジャックが胸を張った。
「当然だぜ。俺様が本気で料理したんだからな」
 おかわりが連呼される。
 その様子をミカエルは溜め息まじりに見ていた。
「情けない。腹がいっぱいになって動けなくなったらどうするつもりだ。美味しいが」
 オネットにジト目を送りながら呟いていた。
 オネットは気にした様子もなく付け合わせを黙々と食べている。
 スターは席を立って、カッカッカッと豪快に笑った。
「なるようになる!」
「引退して仕事のない騎士様は気楽でいいよな」
「うむ! 責務は現役に押し付けているからのぅ」
 スターはミカエルからの嫌味を全く気に留めていなかった。
「さて、オネット。聞きたい事がある」
「答えられる事なら答える」
 答えられない事は答えない。そういう意思表示でもあるのだろう。
 スターは深々と頷いた。
「結構だ。単刀直入に聞くが、お主はマリア王女をどう思っておる?」
「一国の主としては優しすぎる。このままでは国を滅ぼすかもしれない」
 貴族たちや騎士たちがざわつく。
「なんという事を!」
「マリア王女の前で無礼な輩だ」
 オネットは動じなかった。
「もしも俺がマルドゥクを裏切っていなくて暗殺を命令されていたら、マリア王女は海でどうなっていたと思う?」
「殺されていたわね。でも、後悔しなかったと思うわ」
 マリアは微笑む。
「助けられる人を見捨てるのは、グローリア王家に代々伝わる教えに対する反逆よ。すべての命に幸あれ! 何かあったらその時に対処すればいいわ」
「人を救うという大義の元で、必要以上に仕事が増えているだろう。人手は限られている。いつ破綻してもおかしくはない」
「そうかしら? 救われる人が増えるのなら、それだけ人手は増えると思うのだけど」
 マリアは現在の方針を変えるつもりはないらしい。
「人を救うのは崇高なる使命であるとお父様もお母様も言っていたわ。あなたを助けたから、クゥガを食べれたし」
「見ず知らずの人間を王城に入れるのはどうかと思う。クゥガの調理を見学できたのはありがたかったが」
「それなら良かったわ!」
 マリアは花がほころぶような笑顔を浮かべた。
「フレイにもいつか見せてあげたいわ」
「……あいつは……」
 オネットは口ごもった。うつむき、身体を震わせている。
「何かあったの?」
 マリアが問いかけるが、オネットは黙ってしまった。
 その様子を見て、スターが口を開く。
「死んだのか?」
 オネットは歯を食いしばった。心なしか、瞳が揺れている。
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