マルドゥクの殺戮人形

今晩葉ミチル

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グローリア王国内にて

残酷な事実

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「嘘でしょう? オネット、何か言ってほしいわ」
 マリアの笑顔が引きつった。
 しばらく沈黙が続いたが、オネットは深呼吸をしたあとで、ゆっくりと話し出す。

「フレイは、マルドゥクとその手下に殺された」

 暗い口調だった。

 あまりにも残酷な言葉だ。
 マリアは両手で口元を押さえる。顔からみるみる血の気が引いている。
「嘘でしょう!? そんなはずはないわ。フレイは、お父様とお母様が守ろうとした子よ。死ぬなんて考えられないわ!」
 多くの騎士や貴族が視線をそらした。
 いまにも泣き叫びそうなマリアの表情が見るに堪えないのだろう。

「天国に行くのは早すぎるわ! もっとお話したかったし、お友達になるはずだったのよ」

 マリアに追い打ちをかけるようにオネットが口を開く。
「地獄に行ったと思う」
「変な事を言わないで!」
「マリア王女、落ち着いてください。オネットはかなり重大な情報を持っています。引き出して利用しましょう」
 今度はミカエルが口を挟んだ。
「マルドゥクと手下に殺されたと言ったな。仲間割れをしたのか?」
「フレイがマルドゥクの逆鱗に触れた」
「何故?」
「……マリア王女がいない所で話したい」
 オネットは席を立とうとした。
 それを止めたのは、他でもないマリアだった。
「何を言われても泣かないと約束するから、話して」
「……怒るのもなしにしてくれ」
「いいわ」
 オネットは記憶をたどりながら、平静を保ちながら、語る。
「一国の王女と友達になるという言葉がマルドゥクの逆鱗に触れた。マルドゥクは『マーニ大陸の覇者』であり、いずれ全ての世界を支配すると言われている。グローリア王国も支配下にすぎないから、自分の部下が、被支配者と平等な関係となるのは屈辱的だという理屈だ」
「……だからって、殺したの?」
 マリアは両目をぬぐう。泣かないという約束を守るためだろう。
 オネットは気まずそうに頷いた。
「フレイはマルドゥクの攻撃をかわしきれなくて、ひどい怪我をした。できるだけ運んでやったが、追いつかれてイアンに切られた」
「あなたはフレイを助けようとしたのね」
「俺も晴れて裏切り者だ」
「……辛かったわね」
 オネットは首を横に振った。
「俺は暗殺者だ。仲間の死はいつも覚悟している。だが、おまえは違うだろう。いつも人は救えるものだと信じている」
「そうよ。今もフレイは生きていると思っているわ」
 マリアは天井をあおいだ。
 両目を閉じて、ほぅっと小さなため息を吐く。
「なんか、疲れたわ。ちょっと休んでくるわね」
 マリアが立ち上がると、近衛兵と侍従たちが一緒に歩く。
「辛気臭い話になったなぁ」
 ジャックがやれやれと首を振る。
「これだから世の中ってぇもんわ」
「うむ、ひどい話じゃ」
 スターもやれやれと首を振る。
「グローリア王国を支配下にするなど、呆れた連中じゃ」
「彼らにはそれだけの力がある。特に、ルドという男には気をつけてほしい。マルドゥクの懐刀と言ってもいい」
 オネットの忠告に、スターは深々と頷いた。
「うむうむ。気をつけよう。悪い質問をしたな」
「構わない。いつかは話すべきだった」

「話は変わるが、お主はマリア王女は好きか?」

 急激な話題の変化に対応しきれず、オネットは両目を白黒させた。

「……その質問には何の意図がある?」
「ただのじじいの気まぐれじゃ」
 スターは健康的な歯を見せて笑った。
「色恋沙汰はいつの世も皆の関心事じゃ」
「気にしているのはおまえだけだ。マルドゥクに関する情報をもっと引き出すべきだ」
 ミカエルは今回ばかりは言い負かされまいと決意していた。
 しかし、スターは屈しない。
「その表情で分かるぞ。幸せになれ」
「何を言っているのか分からない」
「照れおってかわいいのぅ」
 貴族たちや騎士たちは呆れていたが、ジャックだけは腹を抱えて爆笑していた。
「あんたは酒場のエロオヤジか!」
「失礼な。誇り高き元騎士団長じゃ!」
「現騎士団長は僕だ。勝手な言動は慎め」
 ミカエルは業を煮やすが、スターは笑って受け流した。
「必要な情報はだいたい手に入った。オネットは遊ぶといい」
「遊びか……」
 オネットは腕を組んで考え込む。
「どちらが死体をより多く増やせるか競う殺人ゲームくらいしか思いつかない」
「うむ、お主は本当の遊びを学んだ方がいいのぅ」
 貴族たちがこっそりと逃げ出し、騎士たちが臨戦態勢に入っているのを気づいていないのか、スターは豪快に笑っていた。
 ジャックが愉快そうに両手を叩く。
「面白い奴だぜ! 片付けたら遊びを教えてやるよ」
「まったくこいつらは」
 ミカエルはこめかみに四つ角を浮かべながらため息を吐くのだった。
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