マルドゥクの殺戮人形

今晩葉ミチル

文字の大きさ
11 / 52
グローリア王国内にて

ジャックの遊び

しおりを挟む
「よっしゃー遊ぶぜー!」
 城下町にて、ジャックが雄叫びをあげる。
「数少ない暇な時間にパトスを注ぐぜぇええ!」
「いちいち大声を出すな。うっとうしい」
「ヘイヘイ、騎士団長様! 耳をかっぽじってよく聞きな」
 ミカエルは眉を潜めながら耳をそばだてる。
 ジャックは思いっきり息を吸う。オネットとスターは嫌な予感がして耳を塞いでいた。

「引かぬが男の吟じだぜぇぇえええ!」

 太陽に向かってあらん限りの声で叫んでいた。

 突然の騒音に、小鳥が逃げ出し、通りで寝ていた犬猫が飛び起きる。
 行き交う人々が何事かと振り向くが、驚きのあまり言葉が出なかった。
 ジャックのそばで耳をそばだてていたミカエルはたまったものではない。フラフラしているが、殺気を隠さずに槍を握りしめている。
「貴様……!」
「おおっとマリア王女の命令がないと殺人はご法度だぜ。マリア王女が人殺しを命令する事はないと思うけどな!」
 ジャックはひゃーっはっはっはっと城下町中に響く声で笑った。
 ミカエルは両目を吊り上げて全身をワナワナと震わせた。
 そんな騎士団長の肩を、スターがぽんっと軽く叩く。
「気にするな。人智を越えた珍獣というものじゃ」
「ああんジジィ? 誰が獣だって?」
 ジャックはスターに詰め寄る。
「俺様は偉大なる料理長ジャックだぜ!」
「うむ、料理ができる珍獣じゃ」
「珍獣うるせぇ!」
「ところでお主、オネットに遊びを教えるんじゃなかったのか?」
 スターが話題転換をはかる。
「おおっと忘れる所だったぜ」
 あっさり転換されたらしい。
「よーっしオネット。俺が手本をやるからよぅく見てろよ」
 ジャックはオネットの様子を確認する前に、通りでオレンジを売っている店に近づいた。
「へーぃ姉ちゃん、俺様と遊ぼうぜー」
「えっと……何のつもりですか?」
 若い女性店員は戸惑っているようだ。
 ジャックは下卑た笑いを浮かべる。
「げっへっへ、俺様といい事しようぜぇ」
「あの、困ります!」
「おいおい、あっちにイケメンがいるんだ。ちょっとくらいいいだろ?」
 ジャックは視線で方向を示す。
 女性店員はつられて見る。ジャックの視線の先にはオネットがいた。
「こ、困ります!」
 拒絶の言葉を発しているが、頬を赤らめている。
 ジャックは女性店員の表情の変化を見逃さなかった。
「あいつとちょっと遊べると思ったらいい感じだろぉ?」
「や、やめてください! 不潔です」
「おいおい、何言ってんだ。まだ昼間だぜ。そんな怪しい事はしねぇよ」
 女性店員は耳まで顔を赤くした。
 ジャックはここぞとばかりに畳み掛ける。
「せっかくの機会だ。あいつとちょっと遊ぼうぜ。ちょっと抜けたくらいじゃバレねぇって」
「そ、それはちょっと……」
「盗もうなんて考える奴はいねぇだろ? いたいけな少年の心の充実をはかる方が大事だと思うぜ」
「えっと……」
 女性店員はうつむいて、両手をモジモジしている。
「やっぱり店を離れる事はできません。あの、その……あの子をこっちに連れてきてもらえますか?」
「連れてきたら、俺様とも遊んでくれるか?」
 ウィンクするジャックを、女性店員は困り果てた顔で見ていた。
「そこまでじゃ。お主の負けじゃ」
 スターが割って入って、ジャックの耳を引っ張った。
「他人を使うなど卑怯にもほどがある。反則負けじゃ」
「細けぇ事をうだうだ言うんじゃねぇ! もうちょっとで落とせたのに」
「オネットは自力で頑張るのじゃぞ」
 スターがウィンクをするが、オネットは両目を白黒させた。
「どんなルールだ?」
「女をナンパするのじゃ。デートの約束を取り付けたら勝ちじゃ」
「そんな遊びがあるのか……」
「おい、オネットに変な事を教えるな!」
 ミカエルが激高した。
「人の心を掌握する術を身に着けたら手がつけられない」
「いやいやミカエル、これはオネットから暗殺技術を奪う訓練となるぞ。女ができる事で愛を学ぶ。愛を学べば命を学ぶ。人の命を奪う事がいかに重い罪か自覚するようになるじゃろう。ほれ、やれ。それ、やれ」
「本当はおまえたちが楽しいだけだろ!」
 ミカエルは憤慨してオネットに向き直る。
「罪のない女性の心を弄ぶようなマネをしたら、この槍の餌食にする」
「ねぇねぇ、どこのこ?」
 通りがかった女がオネットに興味津々な眼差しを向ける。
「ねぇ名前は?」
「オネット」
「そう! かわいいわね。うちんところでお茶しようよ!」
「ナンパというものは成功でいいのか?」
 ジャックは両腕でバツ印を作った。
「ただの営業トークだぜ。ちゃんとナンパしろ!」
「えと……おいくつですか?」
「やん、女の子に年齢を聞くの? 特別に教えてあげるけど」
 女は口元に手をあてて、うふふと笑う。
「彼氏募集中のピッチピチギャルでーす!」
「あうとー! 典型的なおばちゃんじゃねぇか!」
 ジャックが女の襟元をつかんで引きずる。
「いたいけな少年に変な事を言うんじゃねぇ!」
「おまえが言うのか!?」
 ミカエルは両目を見開くが、ジャックは気にせず女を連れて行く。
「俺と同じくらいのくせによく言えたな」
「やだん若いもん!」
「うるせぇ!」
 二人を見送りながら、オネットは呟く。
「ナンパゲームは難しいな」
「一生クリアしなくていい」
 ミカエルの頭痛は一段とひどくなった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

《完結》雪の女王を追って消えた、あんたは私と婚約してない!

さんけい
ファンタジー
「雪の女王」を追って村から消えたエイナル。 「君は僕の足かせだ?」ふざけんな、私はあんたの婚約者じゃない!

王子様とずっと一緒にいる方法

秋月真鳥
恋愛
五歳のわたくし、フィーネは姉と共に王宮へ。 そこで出会ったのは、襲われていた六歳の王太子殿下。 「フィーネ・エルネスト、助太刀します! お覚悟ー!」 身長を超える大剣で暗殺者を一掃したら、王子様の学友になっちゃった! 「フィーネ嬢、わたしと過ごしませんか?」 「王子様と一緒にいられるの!?」 毎日お茶して、一緒にお勉強して。 姉の恋の応援もして。 王子様は優しくて賢くて、まるで絵本の王子様みたい。 でも、王子様はいつか誰かと結婚してしまう。 そうしたら、わたくしは王子様のそばにいられなくなっちゃうの……? 「ずっとわたしと一緒にいる方法があると言ったら、フィーネ嬢はどうしますか?」 え? ずっと一緒にいられる方法があるの!? ――これは、五歳で出会った二人が、時間をかけて育む初恋の物語。 彼女はまだ「恋」を知らない。けれど、彼はもう決めている――。 ※貧乏子爵家の天真爛漫少女×策略王子の、ほのぼのラブコメです。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

【完結】あなたは、知らなくていいのです

楽歩
恋愛
無知は不幸なのか、全てを知っていたら幸せなのか  セレナ・ホフマン伯爵令嬢は3人いた王太子の婚約者候補の一人だった。しかし王太子が選んだのは、ミレーナ・アヴリル伯爵令嬢。婚約者候補ではなくなったセレナは、王太子の従弟である公爵令息の婚約者になる。誰にも関心を持たないこの令息はある日階段から落ち… え?転生者?私を非難している者たちに『ざまぁ』をする?この目がキラキラの人はいったい… でも、婚約者様。ふふ、少し『ざまぁ』とやらが、甘いのではなくて?きっと私の方が上手ですわ。 知らないからー幸せか、不幸かーそれは、セレナ・ホフマン伯爵令嬢のみぞ知る ※誤字脱字、勉強不足、名前間違いなどなど、どうか温かい目でm(_ _"m)

処理中です...