マルドゥクの殺戮人形

今晩葉ミチル

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グローリア王国内にて

魂のダチ

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 男たちの腹が鳴る。
「パン一切れじゃ足りないでしょ」
 マリアが侍従たちに指示を出す。

「料理人を集めて。できればジャックも呼んで。クゥガを食べてもらいましょう」

「クゥガだと!? あの怪物を誰が倒したんだ!?」

 男たちは騒然とする。
「ヒャッハー! 誰でもいいだろう。呼ばれなくても俺様が料理するから、魂に焼き付けろ!」
 地面に倒れ伏す男たちの合間を、ジャックが走り抜ける。
「ぎゃぁ」
「いてぇ」
 時々踏まれた男もいるようだ。ジャックはお構いなしであったが。
「既に切り刻んだが、お楽しみはあるんだぜ」
 城門の前で怪しい笑いを浮かべながら、空を仰ぎ見る。

「うまいもん、作ってやらぁぁああ!」

「おおぉおおおおお!」

 ジャックの叫びに呼応するように料理人たちが雄叫びをあげる。
「火源石セーット! 太陽の力でいつも以上に燃えるぜぇぇええ!」
 広場の真ん中に火源石を放り投げる。
 鮮やかな炎が舞い上がり、火の粉を撒き散らす。
「近づくんじゃねぇぞぉ火傷するぜ!」
 言いながらジャックは一口大に切られて串に刺さった肉を、炎に向ける。
 焚き火に焼き芋を近づける光景を思わせた。
「ヒャッハー! 地味だが意外と勇気が必要だぜぇぇええ!」
 肉はみるみるうちに焼けてくる。余分な油が落とされ、肉汁が吹き出す。
 男たちはよだれを垂らしながら見ていた。
 ジャックは手招きする。
「できたぜ。最高の肉を味わいな!」
 先頭の男たちがおそるおそる串に手を伸ばす。そして、肉を口に含む。
 しばらく沈黙が走る。
 何も語らず、肉をむさぼるように平らげた。
「神だ」
 男の一人が呟く。
「この味は神からの贈り物だ」
「もう死んでもいい」
「ひゃーはっはっはっ! 愉快な事をしゃべってないで、どんどん食え! 後ろの連中もだ。怪我で歩けねぇ奴の分も持っていけ!」
 ジャックは肉を焼く手も、口も休めなかった。
「ついでにオネット、おめぇも食え! もったいないとか言わせねぇぜ」
「……いいのか?」
「悪いわけがねぇだろ。おら、料理人が食えと言ったもんは食え。グリル焼きを残された時には軽くヘコんだぜ」
「……そうか。悪い事をしたな」
 オネットがうつむくのを、ジャックは豪快に笑い飛ばした。
「辛気臭い顔をするな! 分かったら食え」
 オネットは串に手をのばす。そして、ゆっくりと肉を味わう。
 オネットは何も言わない。遠い空を見ながら、噛みしめていた。
 無言で食べ終わる。その様子をジャックは何も言わずに見ていた。
 オネットは深く一礼した。
「ありがとう」
「うまかったか?」
「……フレイにも食べさせたかったな」
 寂しさを紛らわすように、笑っていた。
「あいつが何て言うか、知りたかったな」
「ああ、俺様も知りてぇぜ。生きていたら連れて来いよ」
「生きていたらな」
 オネットは声を震わせた。
 ジャックが肩をぽんっと軽く叩く。
「死んでいてら、悔しいよなぁ」
「……胸が張り裂けそうだ。死んだ仲間はたくさんいるが、あいつの死だけはなかなか受け入れられない」
「魂のダチだったんだろ」
「魂のダチ?」
 オネットは不思議そうに首を傾げた。
 ジャックは空を仰ぐ。
「本物の仲間ってことだ。魂がつながっているから、そいつが死んだら魂の半分が持っていかれちまう」
「そうなのか……」
「魂のダチが死んだのに悲しくも痛くもないならそんなの強さじゃねぇ。覚悟を決めてどうにかなるもんじゃねぇんだ」
 ジャックはオネットに背中を見せる。

「男は背中で泣くもんだが、男になる前は精一杯泣きな。俺様は何も見てねぇぜ」

 オネットは答えない。
 静かにうつむき、誰にも表情を見せなかった。
 食べ物を得られた男たちは歓喜する。持ち帰りを考える者もいた。
「これでみんなが救われる!」
「生きていて良かった!」
 その喜びは、いつまでも彼らの心に残るだろう。
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