マルドゥクの殺戮人形

今晩葉ミチル

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グローリア王国内にて

みんなで後片付け

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 広場から火源石の炎が消える。通りの活気も取り戻された。
 ミカエルはため息を吐いた。
「ジャック、おいジャック!」
「うるせぇ俺様は泣いてねぇ!」
 振り返るジャックの目からは滝のような涙が流れていた。
「こいつは心の汗だぜ」
「おまえが泣いているかなんてどうでもいい。広場をすぐに掃除しろ」
「騎士団長様は真面目すぎるからダメだぜ」
 ジャックは広場を一望した。
 たしかに大量の肉汁と脂にまみれていた。クゥガを調理した時のものだろう。

「ヒャッハー! お片付けも料理人の務めだぜぇ」

 ジャックのテンションは高い。

 ミカエルには理解できないほどだった。
「さっさと仕事しろ」
「おいおいシケた面はやめろよ。こっちのパトスがブラックホール行きだぜ」
「わけのわからない御託はいらない。つべこべ言わずにやれ」
「へいへい、騎士団長様のご命令には逆らいませんよーぅ。けどよ、一つだけ言わせてくれ」
 ミカエルはとっさに耳をふさいだ。叫ばれたらたまらないと思った。

「オネットの服装、ちょっと可哀そうじゃねぇか?」

 声のトーンは普通であった。

 ミカエルは耳から手を離した。
「そ、そうか」
「ちゃんと聞いていたか?」
「聞いていたに決まっているだろう」
 全く聞こえていなかったが、ジャックに謝るのは癪である。
 ミカエルは目線を泳がせながら、ふんぞっていた。
「とにかく掃除をしろ。オネットも手伝え。掃除用具の場所は侍従に聞け」
「分かった」
 オネットは素直に聞き入れた。目元はやや赤くはれていたが心配するほどではない。
 しかし、心配する人物もいた。
「どうしたの、泣いていたの!?」
 マリアだ。血相を変えている。
「教えて。ジャックも言っていたけど、服を着替えられないのが辛かったの?」
「そんな事を言っていたのか。どうでもいいだろう」
「ミカエル、あなたやっぱり聞いていなかったのね!」
 マリアのジト目は、ミカエルを萎縮させる。
「……正当防衛でした」
「わけのわからない事を言わないで。侍従たちに服を選んでもらいましょう」
「俺はこのままでいい。王城に出入りする人間の服は動きづらくて苦手だ。侍従たちの服装よりも、今のままがいい」
 オネットは遠慮でなく、素直な気持ちで言っていた。
 マリアは残念がるが、ジャックが怪しい笑いを浮かべている。
「そういう事なら俺様に任せろ。とびっきりのイケメン服を選んでやるぜ!」
「動きやすい服装の方がいいのだが」
「安心しろ。俺様の私服は超絶動きやすいぜ」
「それより掃除をした方がいいのでは」
 ジャックは得意げに胸を張った。
「細けぇ事は気にするな! オネットをちょっと借りるぜ。俺の仕事は騎士団長様にお任せだ」
「なぜ!? 僕は他に仕事がある」
「掃除のあとでいいだろうよ。頑張れ!」
 あまりに一方的な言い分に、ミカエルは露骨に舌打ちをした。
 ジャックがオネットを連れて行ったあとで、マリアが両手をポンッと合わせる。
「そうね、たまにはみんなでお掃除をしてみましょう」
「あの、マリア王女。ガルーダの事を調べるべきですし、やる事は山程あるかと」
「ミカエル、あなたはこれね!」
 マリアからモップを手渡される。
 ミカエルは反論の余地なく掃除をやらされる事になった。
「なんで僕が……」
「聞き取りなら調査員に任せてあるから、心配しないで」
「そういう問題ではありませんが……」
 ミカエルは、広間の石畳をモップで履きながらぶつくさ言っていた。
「まったく。この頃の僕の役回りはひどくないか?」
「暗い顔しないで。私も手伝うから」
「マリア王女まで!?」
 ミカエルは仰天して、モップを握る手を強めた。一国の主に雑用をさせるわけにはいかない。そう考えていた。
「すぐに終わらせます。マリア王女は何もしないでください!」
「あら、頼もしいわ」
 料理人たちや侍従たちはもちろん、騎士たちも掃除を手伝った。
 集団でやれば早かった。
 マリアは満足げに頷く。

「素晴らしいわ! みんなありがとう」

 天使のような微笑みは、その場にいる全員に癒やしを与えた。

「こっちもできたぜ!」
 ジャックが意気揚々と歩いている。
 その後ろにはオネットがいた。
 服装はガラリと変わっていた。
 ズボンは銀色の鎖のついたベルトで閉められ、上半身は派手な赤い花がでかく描かれたシャツを羽織っている。肌着は普通の白い布のようだ。
 目立つ事このうえない。
 ジャックはひゃーはっはっはっはっと広場に響き渡るほど豪快に笑った。
「シャツの下は裸がいいって言ったが嫌がられたんだ。無防備すぎるってな。まあいい出来だろ!」
「どこで手に入れたか知らないが、国に請求はこないようにしたのだろうな?」
「おいおい、マリア王女から頼まれたも同然の事だぜ。こいつは公務だ」
「屁理屈をこねるな! どう考えてもおまえの趣味だろう」
「うむうむよいよい」
 どこからともなくスターが割って入った。
「オネットも悪い事はできなくなったのぅ、目立ちすぎる」
「……この服装は戒めなのか?」
「似合っておるから良かろう。これからは殺人はご法度じゃよ。お主はしばらくグローリア王国で暮らすが良い。マルドゥクさえ来なければなんとかなるじゃろう。住民となるからにはルールには従ってもらうぞ」
「俺から殺人を取ったら何も残らないな」
 オネットは自虐的に笑った。
 スターがオネットの肩を軽く叩く。
「何もないならこれから得れば良い」
「僕は反対だ。危険極まりない」
 ミカエルが口を挟むが、スターが首を横に振った。
「マリア王女が決定した事じゃ。何かあれば対処するのが騎士団の仕事じゃろう」
 ミカエルのこめかみに青筋が浮かぶ。
「僕の頭痛がひどくなりそうだ」
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