マルドゥクの殺戮人形

今晩葉ミチル

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ソール大陸の動乱

情報戦

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 早朝になると、グローリア王城の裏門に騎士団が集められた。
 騎士団は海岸を見つめていた。
 海岸に面するこの場所は、様々なものが流れてくる。大小まちまちな魚、朽ちた大木、鳥の死骸、そして人。遥か彼方のマーニ大陸から流れてくる者もいた。
 ミカエルは騎士団の先頭に立って、海岸線を指差す。
「美しい朝日だ。僕たちの未来を照らし出しているようだ」
 騎士団に向き直る。精悍な顔立ちで整列している。
「頼もしい限りだ」
 ミカエルは咳払いをする。
「今回集まってもらったのは他でもない。既に話を聞いているかもしれないが、改めて言おう。ソール大陸はかつてないほどの危機に瀕している。マーニ大陸の覇者マルドゥクが侵略してくる日が近い」
 騎士団がどよめいた。困惑と動揺が広がっている。
 ミカエルは続ける。
「”マリオネット”の使い手であるオネットがマーニ大陸に帰った。クゥガをあっさり倒した彼の力量は知っているだろう。マルドゥクの手下として相対する事になるかもしれない」
 一迅の風が吹く。
 ミカエルは拳を握って振り上げた。
「おまえたちは覚悟を決めて、より一層訓練に励んでほしい」
「はい!」
 騎士団の返事がそろった。全員が決意を固めていた。
 ミカエルの語調が強まる。
「マルドゥクの手下たちはどんなに奇抜で卑劣な襲撃をしてくるか分からない。しかし、屈してはならない。グローリア王国を、ひいてはソール大陸を守り抜くのは僕たちだ!」
 歓声に包まれる。
 グローリア王国万歳! ミカエル様万歳!
 ミカエルは鷹揚に頷き、号令を掛ける。
「訓練開始!」
 騎士団の動きはいつもより熱が込もっていた。
 しかし懸念がある。
 
 マルドゥクたちは、グローリア王国の戦力だけで勝てる相手ではないだろう。
 
 ソール大陸は互いに干渉しない事を鉄則としていた。しかし、今はそんな事を言っていられない。
 一つにまとまらなければ、マルドゥクに各個撃破され、ソール大陸は支配される。
「……マリアの風評被害はネックだな。ガルーダめ」
 ミカエルはグローリア王国を襲った農民から聞いた話を思い出し、苦々しく呟いた。
 アンカサでの評判は最悪だろう。
「農民たちの誤解は解けただろうが、他の国はどうしたものか……」


 とある小さな村に、かつて作物の不作に悩まされた農民たちがいた。
 不作の間に、グローリア王国からクゥガを分けてもらって生きながらえた人間たちがいた。
「雨が適度に降ったら、実るようなったなぁ」
「あの時は何だったんだ」
「マリア王女の魔力のせいだと言われていたが……」
「とんでもないな。あんなに優しい王女様が作物を枯らせるわけがない」
「ガルーダ様もデマを掴まされたのかもなぁ」
 農民たちがため息を吐く。
「悪い事をしたなぁ」
「巷ではマリア王女は魔女として有名みたいだし……」
 農民たちは沈黙した。
 畑仕事をする手が止まる。
 互いに顔を見合わせる。
「せめて魔女という噂を取り除いてやりたい」
「そうだそうだ!」
 農民たちは大騒ぎになった。
 それぞれがどこへ行くか相談して、分担して、マリアの誹謗中傷を取り除くために日夜走る。
 命の恩人が誹謗中傷に晒されるのが耐えられなかったのだ。
 農民たちは知らない。
 彼らの行いがソール大陸がまとまる大きな一歩となる事を。
 農民たちは、マリアの良からぬ噂を払拭して回った。そのおかげで、いくつもの村から始まり、いつしかソール大陸の国々がマリアの言葉に真剣に耳を傾けるようになった。
 しかし、それを不服とするものもいた。
 アンカサの領主であるガルーダだ。

「マリアめ、ついに人民の心を操るのか」

 城で報告を聞くたびに、怒りで身を震わせていた。
「ルド様がいないからといって、好き放題やりおって。戦争の準備をしろ!」
 報告者たちは顔を見合わせた。
 戦争に大義がない。
 誰が味方してくれるのだろう?
「ぐ、ぐずぐずするな!」
 ガルーダは恫喝しているが、声が震えている。本当は怯えているのが丸分かりだ。
「私が主権を握れるように計らえ! あんな小娘に任せていられるか!」
 それが本音か。
 報告者たちは頷いた。
 近隣諸国には、様々な考えの国がある。
 ソール大陸は一つになるべきだという考えと、マルドゥクに逆らうべきではないという考えだ。このうち、マルドゥクに逆らうべきでないと考える国が増えれば、ガルーダの味方が増えるだろう。マルドゥクという強大な支配者の脅威を知らしめれば良い。
 報告者たちは散り散りに噂を流し始めた。
 マルドゥクは多くの強力な暗殺者を従えていて、逆らえば国民の命がない事を。それは国を守る王であるならあってはならないという事を。
 各国の王たちは真剣に考えていた。マルドゥクを倒すべきか、敵にしないようにするべきか。関わりを持たないようにするにはどうするべきか考える国王も現れた。
 ソール大陸は再び二分されるのだった。
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