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ソール大陸の動乱
とある国の昔話
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「ソール大陸全土の国王たちを、グローリア王国に集めて大規模な会議をしたいわ」
マリアは窓から外を眺めながら呟いた。夜空が美しかった。
普通に考えれば無茶な考えである。それはマリアも承知している。
おのおのの国に独自の言語があり、意思疎通をはかるだけで苦労する。ましてや互いの考えを理解するなど、夢の夢と思われた。
しかし、やるしかない。そうしないと、ソール大陸が蹂躙される。
マリアはそう確信していた。
マリアは知らないが、農民たちが流した噂のおかげで、マリアの呼びかけに応える国は多かった。多くの国の王たちが、ソール大陸の一大事だと理解し、スケジュールに融通を利かせた。
そのおかげで、会議当日には、マリアが思った以上に集まりが良かった。
応接間にて、会議が始まる。
議題はどうやってマルドゥクの侵略を食い止めるのか。
様々な案が出される。
まずは情報を集めるべきだ、手下たちを倒すべきだ、もっと各国の軍事力をあげるべきだ。
マリアはどの意見にも頷いて聞いていた。
どの意見もある一面では正しく、ある一面では間違っている。そういった意見の組み合わせで作戦を練る。
互いの情報交換により、今のところ軍事的に最強なのはグローリア王国という結論が出た。強力な騎士団を抱擁している。火源石を使いこなすなど、文明的な進歩も申し分ない。
アンカサも急速に軍事力をつけてきたが、今回の会議に参加していない。
参加国の結論としては、グローリア王国主導でマルドゥクに対抗する事となった。
しかし、マリアは気づいていた。
「ソール大陸のすべての国が一丸となるべきだわ」
マルドゥクの脅威は計り知れない。オネットから神と言われた『マーニ大陸の覇者』。
「今回は参加を見送った国々にも話をしにいきましょう」
「マリア王女、お身体は大丈夫ですか? 最近は寝てないように思うのですが」
ミカエルが声を掛けると、マリアは天使のような笑顔を見せた。
「ありがとう、ちょっと眠いけど大丈夫よ」
「もしよろしければ、不参加国との話し合いを僕とスターに任せてくれませんか? おそらくマリア王女がいない方が本音を聞けるでしょう」
マリアは逡巡した。
外交は自分の仕事だ。自分が行かないといけないと思っていた。
しかし、マリアに対して本音を告げられない人物がいるのも事実だろう。
「本当は行きたいけど、仕方ないわね」
「マリア王女は少しは休んでください。必ずや、不参加国の本音を引き出してきます!」
「ありがとう、頼もしいわ!」
ミカエルとスターがアンカサに向かう。
道中は盗賊は出なかった。ソール大陸の一大事であり、なりを潜めているのかもしれない。
アンカサは物々しい雰囲気だった。すぐにでも戦争が始まりそうであった。
「おやおや、マリア王女がいないのですか」
猛獣と共に出迎えたのは、ガルーダだった。ミカエルは木陰に隠れている。いざという時に対応するためだ。
ガルーダの目の前には、老いた騎士がいた。
「スターと申します。以後お見知りおきを」
スターがうやうやしく一礼をする。
ガルーダは怪しい笑いを浮かべていた。
「ふふふ、良いでしょう。ミカエル様もいらっしゃらないようですし、ゆっくりとお話しましょう」
「あいにく長居はできないものでして。単刀直入に伺います。あなたはマルドゥクを信用してますか?」
「もちろんですとも! あれほど偉大な人物はいないでしょう」
ガルーダは両手を広げて空を仰いだ。
「忠誠を誓えば、きっと輝かしい未来が待っている事でしょう」
「ふむ……とある王国の昔話を伝えても良いかのぅ」
「おや? 長居はできないのではないのですか?」
「年寄りは自分の言った事をすぐに忘れるものじゃ」
スターはケラケラと笑った。
「マーニ大陸のとある国の話じゃ。その国は豊かで、民は勤勉で、優秀な王子にも恵まれた。その国の未来はどうなったと思う?」
「きっと輝かしいものだったでしょうねぇ」
「ところが、そうはいかなかった。マルドゥクにいいようにされてのぅ。滅んでしまったのじゃ」
あまりにもあっけない結末に、ガルーダは拍子抜けした。
スターは声の調子を落とす。
「マルドゥクは、それはそれは調子の良い事を言っていた。すべての国に力を与える。すべての国に富を与える。おまえの国はその中でもっとも輝くだろう。守りようのない約束をして回っておった」
「そ、そんなバカな……」
ガルーダがうろたえる。同じ事を言われていたのだろう。
スターは毅然とした態度を見せる。
「事実じゃ。多くの国は騙された。互いに情報を交換しておけば、おかしいという事に気づいたじゃろうが。いくつもの国が無残に滅ぼされた。力や富を得たのは、マルドゥクだけじゃった」
ガルーダは言葉を失った。
呆然として、スターの言葉に耳を傾ける。
「お主も人の上に立つものなら、民の利益を考えてみるがよい。相手の言葉を鵜呑みにするのが最善とは限らぬ。薄々感じておるはずじゃ。マルドゥクと、その手下のうさんくささは」
ガルーダの脳内に、ルドの態度が蘇る。
アンカサのために尽くすと言いながら、軍事力ばかりに投資し、オネットが来たと思えばすぐにマーニ大陸に帰ってしまった。
アンカサを守ってくれる人物とは到底思えなかった。
スターはゆっくりと口を開く。
「守るべきものがあるなら勇気を持て」
「……今更、間に合うのですかねぇ」
ガルーダの声は暗い。自信がないのだろう。
スターはカッカッカッと愉快そうに笑っていた。
「安心せい。充分に間に合う。お主は誰も殺していない」
グローリア王国にて次に行われる会議には、ガルーダも参加する事が宣言された。これを受け、マルドゥクに逆らうべきでないという意見は急速にしぼんでいった。
マリアは窓から外を眺めながら呟いた。夜空が美しかった。
普通に考えれば無茶な考えである。それはマリアも承知している。
おのおのの国に独自の言語があり、意思疎通をはかるだけで苦労する。ましてや互いの考えを理解するなど、夢の夢と思われた。
しかし、やるしかない。そうしないと、ソール大陸が蹂躙される。
マリアはそう確信していた。
マリアは知らないが、農民たちが流した噂のおかげで、マリアの呼びかけに応える国は多かった。多くの国の王たちが、ソール大陸の一大事だと理解し、スケジュールに融通を利かせた。
そのおかげで、会議当日には、マリアが思った以上に集まりが良かった。
応接間にて、会議が始まる。
議題はどうやってマルドゥクの侵略を食い止めるのか。
様々な案が出される。
まずは情報を集めるべきだ、手下たちを倒すべきだ、もっと各国の軍事力をあげるべきだ。
マリアはどの意見にも頷いて聞いていた。
どの意見もある一面では正しく、ある一面では間違っている。そういった意見の組み合わせで作戦を練る。
互いの情報交換により、今のところ軍事的に最強なのはグローリア王国という結論が出た。強力な騎士団を抱擁している。火源石を使いこなすなど、文明的な進歩も申し分ない。
アンカサも急速に軍事力をつけてきたが、今回の会議に参加していない。
参加国の結論としては、グローリア王国主導でマルドゥクに対抗する事となった。
しかし、マリアは気づいていた。
「ソール大陸のすべての国が一丸となるべきだわ」
マルドゥクの脅威は計り知れない。オネットから神と言われた『マーニ大陸の覇者』。
「今回は参加を見送った国々にも話をしにいきましょう」
「マリア王女、お身体は大丈夫ですか? 最近は寝てないように思うのですが」
ミカエルが声を掛けると、マリアは天使のような笑顔を見せた。
「ありがとう、ちょっと眠いけど大丈夫よ」
「もしよろしければ、不参加国との話し合いを僕とスターに任せてくれませんか? おそらくマリア王女がいない方が本音を聞けるでしょう」
マリアは逡巡した。
外交は自分の仕事だ。自分が行かないといけないと思っていた。
しかし、マリアに対して本音を告げられない人物がいるのも事実だろう。
「本当は行きたいけど、仕方ないわね」
「マリア王女は少しは休んでください。必ずや、不参加国の本音を引き出してきます!」
「ありがとう、頼もしいわ!」
ミカエルとスターがアンカサに向かう。
道中は盗賊は出なかった。ソール大陸の一大事であり、なりを潜めているのかもしれない。
アンカサは物々しい雰囲気だった。すぐにでも戦争が始まりそうであった。
「おやおや、マリア王女がいないのですか」
猛獣と共に出迎えたのは、ガルーダだった。ミカエルは木陰に隠れている。いざという時に対応するためだ。
ガルーダの目の前には、老いた騎士がいた。
「スターと申します。以後お見知りおきを」
スターがうやうやしく一礼をする。
ガルーダは怪しい笑いを浮かべていた。
「ふふふ、良いでしょう。ミカエル様もいらっしゃらないようですし、ゆっくりとお話しましょう」
「あいにく長居はできないものでして。単刀直入に伺います。あなたはマルドゥクを信用してますか?」
「もちろんですとも! あれほど偉大な人物はいないでしょう」
ガルーダは両手を広げて空を仰いだ。
「忠誠を誓えば、きっと輝かしい未来が待っている事でしょう」
「ふむ……とある王国の昔話を伝えても良いかのぅ」
「おや? 長居はできないのではないのですか?」
「年寄りは自分の言った事をすぐに忘れるものじゃ」
スターはケラケラと笑った。
「マーニ大陸のとある国の話じゃ。その国は豊かで、民は勤勉で、優秀な王子にも恵まれた。その国の未来はどうなったと思う?」
「きっと輝かしいものだったでしょうねぇ」
「ところが、そうはいかなかった。マルドゥクにいいようにされてのぅ。滅んでしまったのじゃ」
あまりにもあっけない結末に、ガルーダは拍子抜けした。
スターは声の調子を落とす。
「マルドゥクは、それはそれは調子の良い事を言っていた。すべての国に力を与える。すべての国に富を与える。おまえの国はその中でもっとも輝くだろう。守りようのない約束をして回っておった」
「そ、そんなバカな……」
ガルーダがうろたえる。同じ事を言われていたのだろう。
スターは毅然とした態度を見せる。
「事実じゃ。多くの国は騙された。互いに情報を交換しておけば、おかしいという事に気づいたじゃろうが。いくつもの国が無残に滅ぼされた。力や富を得たのは、マルドゥクだけじゃった」
ガルーダは言葉を失った。
呆然として、スターの言葉に耳を傾ける。
「お主も人の上に立つものなら、民の利益を考えてみるがよい。相手の言葉を鵜呑みにするのが最善とは限らぬ。薄々感じておるはずじゃ。マルドゥクと、その手下のうさんくささは」
ガルーダの脳内に、ルドの態度が蘇る。
アンカサのために尽くすと言いながら、軍事力ばかりに投資し、オネットが来たと思えばすぐにマーニ大陸に帰ってしまった。
アンカサを守ってくれる人物とは到底思えなかった。
スターはゆっくりと口を開く。
「守るべきものがあるなら勇気を持て」
「……今更、間に合うのですかねぇ」
ガルーダの声は暗い。自信がないのだろう。
スターはカッカッカッと愉快そうに笑っていた。
「安心せい。充分に間に合う。お主は誰も殺していない」
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