マルドゥクの殺戮人形

今晩葉ミチル

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マーニ大陸にて

いざ、マーニ大陸へ!

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 マリアたちはアンカサから船に乗る。
 軍艦ほど立派ではないが、四人で乗るには充分であった。
 マリアたちが船出をする前に、ガルーダは様々な情報を口にしていた。
「独り言ですが、滅んだはずのレーベン王国は独自の政策で復興しつつあるらしいですねぇ。表向きはマルドゥクたちに従っていますが、マルドゥクたちを恨んでいる人は多いのではないでしょうか」
「かくまってもらうにはもってこいという事ね」
「服装も気をつけた方が良いでしょうねぇ。マーニ大陸にない素材の服を着ていたら、すぐに処分されてしまうでしょう」
「気をつけるわ。ありがとう!」
 ガルーダは片手を振って、港を立ち去った。

 アンカサの船員を貸してくれた。航海歴が長く、頼りになる船員たちだ。安心して海を渡れる。

 船内で、マリアが作戦の概要を説明する。
「まず、私たちはマーニ大陸に行く。ガルーダの情報を信じて、レーベン王国付近で降ろしてもらいましょう」
「レーベン王国に行くなら、儂は行かない方が良かったかもしれないのぅ。祖国を捨てた将軍を恨んでおるかもしれん」
「とてもひどい事があったのだから、仕方ないわ。じっくりとお話して理解を求めましょう」
「いきなり石を投げられるかもしれないのぅ」
 スターの声は沈んでいた。
 一方でジャックは腹を抱えて笑っていた。
「年寄りは心配事が多くて大変だな! 俺様なんか殺されるかもしれないぜ」
「いったい何をやったんじゃ」
「バイトだぜ。楽して儲かるという文句に騙された可哀そうな俺様はいろいろやったもんだ。詳しい事は二人きりの時に話そうぜ!」
「自慢げに語るでない。まったく最近の若者は」
「ヒャッハー! クソじじいに褒められたぜ」
 ジャックは心底嬉しそうであった。
 ミカエルも言葉を添える。
「レーベン語が分かるのはスターだけだろう。意思疎通をはかるうえで大事だ。簡単に自分の命を捨てないように」
「たまには良い事を言うのぅ」
「しょっちゅう言っている! 聞き流されているだけだ」
 いつもの雰囲気に、マリアが思わず吹き出す。
「もぅ、みんな普段どおりすぎて頼もしいわ」
「マリア王女も相変わらずかわいいのぅ」
「さすがスーパーアイドルだぜ!」
 テンションの高い二人に対して、ミカエルは呆れていた。
「まったくおまえたちは……」
「皆様、お楽しみの所申し訳ありませんが、まもなくチェンジラインです。決してその場を動かないようにしてください」
 船員が声を掛けてきた。
 ミカエルは驚いた。
「グローリア語を話せるのか」
「船員として、精鋭中の精鋭なので」
「お、おぅ。すごいな」
 いきなり自画自賛されて、ミカエルは戸惑っていた。
 しかし、船員たちから確かな自信が満ち溢れている。信頼して良いだろう。
 波が高くなり、船が上下に大きく揺れる。
 次の瞬間、ドォンという巨大な音と共に、激しい振動に見舞われた。

「海の猛獣ブッブーにぶつかりました!」

 船員が声を張り上げた。

「ブッブーだと!?」
 ミカエルの両目が丸くなった。
 小さな船なら丸呑みできそうな、巨大な怪魚である。凶暴で、海のギャングとも呼ばれる。
 ブッブーに出くわしたら、その時が天寿であると言われている。
 そんな猛獣がいるのを知ってか知らずか。
 ミカエルは船員たちの制止を振り切って、甲板に出た。
「ブッブーよ。天国に行く前によく聞け。昔の僕なら食われただろう」
 ブッブーはミカエルの口上にお構いなく、巨大な口を開けて船に襲いかかる。
 船は大きく傾く。
 しかし、ミカエルは動じない。
 槍を構えて弧を描く。

「今の僕に恐れるものは何もない! 喰らえ! ミカエルスペシャルぅぅうううう!」

 描かれた弧が、赤い光を帯びて、いくつもの螺旋を作り上げる。
 火源石を何個かくっつけてぶん回しているにすぎないが、槍は重くなっており、持ち上げるだけで体力と筋力が必要だった。
 力任せに振り回された槍から炎の螺旋が放たれ、ブッブー目掛けて飛んでいく。
 効果は絶大だった。
 ヒレが、鱗が焼けていく。
 ブッブーは船を飲み込む気力が失せたようで、轟音じみた悲鳴を響かせて、深海に潜っていた。
 ミカエルは髪をかきあげた。
 マリアが見ていない所で訓練を積んできた。その甲斐あって、海のギャングを退治したのだ。
 マリアがなんといって褒めてくれるのか楽しみである。
 優雅な足取りで船内へ歩き出す。

 この時、大量の波がミカエルを飲み込んだ。

「ミカエル、何をやってるの!?」

 マリアが驚愕していた。
 あっさり飲み込まれたミカエルを、船員たちが救助に向かう。自分たちも溺れる危険があるのに、勇敢にミカエルを拾い上げた。
 船員たちは手際よくミカエルを介抱した。
 スターとジャックは爆笑していたが、マリアは申し訳ない気持ちだった。
「ミカエルったら相変わらずなんだから!」
 ミカエルがマリアから褒められる日は遠そうである。
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