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マーニ大陸にて
行きたい者、引き留める者
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小さな喫茶店が開いていた。本来なら始まっていない時間だが、特別に開けているのだ。
その小さな喫茶店に人だかりできていた。彼らの視線の先には、一つの丸いテーブルを囲む五人がいた。
グローリア組ことマリアたちと、オネットがいた。グローリア組はチーズケーキと紅茶のセットを堪能していた。
マーニ大陸随一と言われるレーベン王国のチーズケーキだ。しっとりとした食感は天に登る気分にさせる。
「おいしい~」
幸せそうにチーズケーキを頬張るマリアたちを見ながら、オネットは微笑んだ。
「良かったな」
「うん! オネットは食べないの?」
「俺はいい。腹はいっぱいだ」
「チーズケーキは別腹よ。分ける?」
マリアの何気ない言葉に、ミカエルの両目がぎらついた。
「間接キスはいけません! 良からぬ者につけこまれたらどうするのですか。マリア王女はもっと最高権力者として慎重に振る舞ってください!」
「らいじょぅぶよ、おねっほなら」
「チーズケーキを頬張りながら言っても説得力がありません!」
ミカエルは立ち上がってオネットを指差す。
「今度不埒なマネをしてみろ。ミカエルスペシャルの餌食にするからな」
「俺は何もしていない」
「存在が罪だ。マリア王女をたぶらかすのはやめろ!」
「死ねと言いたいのか?」
オネットは口元を引くつかせた。
「言いがかりの質が低すぎないか?」
「言いがかりに質を求めるな!」
ミカエルはドカッと音を立てて椅子に座った。
その様子をスターとジャックは紅茶を飲んで見守っていた。
「若いのぅ。あー茶がうまい」
「ひゃはは! オネットも大変だな。苦労ばかりしてないで、食え! チーズケーキうまいぜ」
ジャックが勧めるが、オネットは首を横に振って立ち上がった。
「俺はもう行く。これ以上は長居できない。マルドゥクを止めなければいけない」
そう言って喫茶店の入り口に向かう。
リヒトを始めとした人だかりが、オネットの前で両手を広げた。
「行かせませぬ。国王と王妃が亡くなられて、あなたがさらわれてから十二年も経ちました。マルドゥクたちに虐げられ、彼らに服従するフリをしながら多くの辛酸をなめてきました。レーベン王国はあなたによる立て直しが必要なのです!」
「どけ」
オネットはけんもほろろに言い放った。
レーベン王国の立て直しに関心を持っていないようだ。
「ぐぬぬ……ここで儂が倒れようとも、第二第三の騎士か大臣が放たれます。意地でもあなたに立て直しをやらせるでしょう。諦めてレーベン王国に残ってくださいってどこに行きましたか!?」
リヒトの口上を無視して、オネットは人だかりをすり抜けていた。
しかし、その先にはまた人だかりができていた。
「我こそはレーベン王国の大臣たちだ。ここは絶対に通さぬ!」
「失せろ」
「ぐはぁ冷酷すぎる」
戦闘経験のない大臣たちは、オネットにすごまれただけで涙目になった。
しかし、そんなすごみが効かない相手がいる。
「あ、よく分からないけどすごいお兄ちゃんだ!」
幼い女の子が、母親と共に手を振っている。一人や二人ではない。おそらく、レーベン王国中の親子が勢揃いしている。
「ああ、素敵な王子様ね」
「わーいわーいおにちゃんだー!」
オネットは歩みを止めた。
オネットの後ろでリヒトと大臣たちが勝ち誇ったように笑っている。
「わーははは! いたいけな子供たちに手は出せまい。諦めてレーベン王国に残るが良い!」
オネットは後ろを指差した。
「美味しいチーズケーキ屋が開いている」
マリアたちがいる喫茶店の事だろう。
「本当!? 行く行くー!」
子供たちは一斉に走り出した。訓練されていない子供たちは、自分の欲望に忠実だ。
「待ちなさい!」
親たちは我が子を追いかける。通りはがら空きになった。
リヒトと大臣たちの笑顔は固まった。
オネットは歩き出す。
朝焼けが妙にまぶしい。
「ソール大陸でマリアたちと別れた日の朝も、こんな感じだったな」
呟いた後で、小鳥の鳴き声に気づいた。
ピピピと可愛らしい声を発していた。屋根の裏に巣を作っているようだ。
オネットの表情がほころぶ。
その表情のまま、身体をひねる。
地面に矢が刺さっていた。
矢が飛んできた方向に向き直る。
「狙撃手ならもっとうまく気配を隠した方がいい」
「……畜生」
建物の陰から矢を放ったのは、少年であった。
その場でドッカとあぐらをかいて座りこむ。
「もう一回放つ時間は与えないだろ? 父さんみたいに殺せよ!」
「おまえの父さんは騎士団だったのか?」
オネットは穏やかな口調で尋ねた。
少年は涙を浮かべた。
「父さんはおまえに殺された。おまえを殺す事だけが僕の生きがいだった。でも、もうそんなチャンスがないなら死んだ方がマシだ!」
「あいにく、今の俺は人を殺す気分ではない。死にたいなら他を当たってくれ」
「何を言ってんだ。『マルドゥクの殺戮人形』から殺人を取ったら何が残るんだ!?」
「そうだな。何も残らない」
オネットは肯定した。
リヒトをはじめ、自分を引き留めようとする国民はいる。しかし、過去の罪は消えない。その罪を咎めるものがいるのは不思議な事ではない。
マルドゥクの手下の中で、最も人を殺している。罪悪感がない事も多かった。
「俺は今も昔もマルドゥクの手下だ。言い訳をするつもりはない」
「じゃあ、なんで僕を殺さない!?」
「気が乗らないと言っただろう。俺は他にやりたい事がある」
オネットは歩くのを再開した。
「待て! 逃げるのか!?」
少年は追いかける。
しかし、朝霧が立ち込めると、すぐに見失ってしまう。
少年は地面に両膝をついて、何度も自分の右腕を殴った。
矢を放った腕だった。
「畜生、畜生、畜生!」
少年の目からとめどなく涙が流れ落ちる。やり場のない悔しさを右腕にぶつけていた。
しかし、その動きは急に止められた。
右腕を打ち付ける左腕を、何者かが掴んでいた。
掴んでいるのは、スターだった。
「おまえの父は素晴らしい騎士じゃった」
少年は老齢の騎士の顔を見る。老いぼれのはずなのに、精悍な顔立ちに見えた。
「あの方の罪を許せとは言わぬ。償うつもりもないじゃろうし」
「スターン将軍……」
少年はほうけていた。
レーベン王国で伝説の騎士と謳われた騎士がそこにいる。
「あの方の罪は儂が償わせる。その日を見届けてほしい。決して自分で自分を傷つけるでないぞ」
スターは力強く言い放ち、少年の左腕から手を離した。
少年は片膝をついて、十字を切った。
「スターン将軍の未来に幸あれ」
スターは鷹揚に頷いて、走っていった。
彼が走る先には、鉄道のそばでマリアとオネットが向き合っていた。
「一人でなんとかしようとしないでと言ったでしょ。マルドゥクを止めたいのはみんな一緒なんだから」
マリアは腕を組んで、頬を膨らませた。怒っているのだ。
「……今はマルドゥクが動かないようにするべきだ。『マルドゥクの殺戮人形』の異名が効くうちに、マルドゥクが虐殺する芽を摘んでおきたい」
オネットは気まずそうに視線をそらしているが、言うことは言っている。
しかし、マリアは納得しなかった。
「一人でやる事はないでしょう!?」
「マリア王女、オネットの事情をもう少し聞きましょう。何かしら良い作戦が思い浮かぶかもしれません」
口を挟んだのはミカエルだった。
オネットが呟く。
「敵か味方か分からない奴だな」
「敵だ。僕は騎士団長、おまえは倒すべき暗殺者だと思っている。だが、おまえの情報は貴重だ。聞く価値があると思っている」
「単純な話だ。俺はマルドゥクを倒すつもりはない。マルドゥクの権力を利用したい。それだけだ」
オネットは淡々と言っていた。
マリアが身震いする。
「権力を利用して何がしたいの?」
「話す義務はない」
「人が戦おうとしている時に、マルドゥクの権力を振りかざしたいとか思っていない!?」
マリアの口調は荒かった。
「あなたはどこまで一人で薄汚れるつもりなの!?」
「暗殺者だからな。どこまでも汚れる事はできる」
オネットの両目から光が消える。うつろな目でマリアを覗き込んでいた。
感情の読めない表情を浮かべていた。
「消えようのない罪を犯した。だが、俺しかできない事もある」
「マルドゥクを陰で操って被害を最小限に抑える事? バカみたい!」
「マルドゥクを利用したい人間は多いからな。簡単ではない」
オネットはそっとマリアから距離を取る。放っておけばどこかへ行ってしまいそうな、儚い雰囲気をまとっていた。
「さようなら。二度と会う事はないだろうが、たまには思い出してほしい」
「待って、お願い!」
マリアが抱きつこうと距離を詰める。
しかし、彼女がオネットに触れる事はなかった。
「目ぇ覚ませよボケェ!」
その代わり、派手な殴打音が辺りに響いた。
オネットの左頬に赤い跡がついていた。
「わりぃ。当たっちまった!」
ジャックの右拳も、赤い跡がついていた。
ふらつくオネットの肩を、ジャックが抱きとめる。
「言いたい事は分かるが、友達を傷つけちゃいけないぜ!」
「殴ったくせに」
「おうよ! 俺も一緒に傷ついてやる!」
ジャックは自分の左頬を殴りつけた。派手な音と共に赤い跡がつく。
「これでおあいこだぜ。さぁ、腹を割って話し合おうぜ!」
「言いたい事は言った」
「よーっし話は終わりだ。飯食うぜ!」
「さっきチーズケーキを食べていただろう」
ジャックはチッチッチッと口ずさみながら指を振った。
「てめぇは何も食べていない!」
「列車で食べる」
「来い、てめぇの居場所はこっちだ!」
ジャックはオネットの右腕を強引に引っ張る。
「そうよ、行きなさい!」
マリアが背中を押す。
オネットは戸惑っていた。
「何故ここまで引き止める?」
ミカエルはため息を吐いた。
「……友達を危険にさらして喜ぶ輩がどこにいると思っているんだ」
その小さな喫茶店に人だかりできていた。彼らの視線の先には、一つの丸いテーブルを囲む五人がいた。
グローリア組ことマリアたちと、オネットがいた。グローリア組はチーズケーキと紅茶のセットを堪能していた。
マーニ大陸随一と言われるレーベン王国のチーズケーキだ。しっとりとした食感は天に登る気分にさせる。
「おいしい~」
幸せそうにチーズケーキを頬張るマリアたちを見ながら、オネットは微笑んだ。
「良かったな」
「うん! オネットは食べないの?」
「俺はいい。腹はいっぱいだ」
「チーズケーキは別腹よ。分ける?」
マリアの何気ない言葉に、ミカエルの両目がぎらついた。
「間接キスはいけません! 良からぬ者につけこまれたらどうするのですか。マリア王女はもっと最高権力者として慎重に振る舞ってください!」
「らいじょぅぶよ、おねっほなら」
「チーズケーキを頬張りながら言っても説得力がありません!」
ミカエルは立ち上がってオネットを指差す。
「今度不埒なマネをしてみろ。ミカエルスペシャルの餌食にするからな」
「俺は何もしていない」
「存在が罪だ。マリア王女をたぶらかすのはやめろ!」
「死ねと言いたいのか?」
オネットは口元を引くつかせた。
「言いがかりの質が低すぎないか?」
「言いがかりに質を求めるな!」
ミカエルはドカッと音を立てて椅子に座った。
その様子をスターとジャックは紅茶を飲んで見守っていた。
「若いのぅ。あー茶がうまい」
「ひゃはは! オネットも大変だな。苦労ばかりしてないで、食え! チーズケーキうまいぜ」
ジャックが勧めるが、オネットは首を横に振って立ち上がった。
「俺はもう行く。これ以上は長居できない。マルドゥクを止めなければいけない」
そう言って喫茶店の入り口に向かう。
リヒトを始めとした人だかりが、オネットの前で両手を広げた。
「行かせませぬ。国王と王妃が亡くなられて、あなたがさらわれてから十二年も経ちました。マルドゥクたちに虐げられ、彼らに服従するフリをしながら多くの辛酸をなめてきました。レーベン王国はあなたによる立て直しが必要なのです!」
「どけ」
オネットはけんもほろろに言い放った。
レーベン王国の立て直しに関心を持っていないようだ。
「ぐぬぬ……ここで儂が倒れようとも、第二第三の騎士か大臣が放たれます。意地でもあなたに立て直しをやらせるでしょう。諦めてレーベン王国に残ってくださいってどこに行きましたか!?」
リヒトの口上を無視して、オネットは人だかりをすり抜けていた。
しかし、その先にはまた人だかりができていた。
「我こそはレーベン王国の大臣たちだ。ここは絶対に通さぬ!」
「失せろ」
「ぐはぁ冷酷すぎる」
戦闘経験のない大臣たちは、オネットにすごまれただけで涙目になった。
しかし、そんなすごみが効かない相手がいる。
「あ、よく分からないけどすごいお兄ちゃんだ!」
幼い女の子が、母親と共に手を振っている。一人や二人ではない。おそらく、レーベン王国中の親子が勢揃いしている。
「ああ、素敵な王子様ね」
「わーいわーいおにちゃんだー!」
オネットは歩みを止めた。
オネットの後ろでリヒトと大臣たちが勝ち誇ったように笑っている。
「わーははは! いたいけな子供たちに手は出せまい。諦めてレーベン王国に残るが良い!」
オネットは後ろを指差した。
「美味しいチーズケーキ屋が開いている」
マリアたちがいる喫茶店の事だろう。
「本当!? 行く行くー!」
子供たちは一斉に走り出した。訓練されていない子供たちは、自分の欲望に忠実だ。
「待ちなさい!」
親たちは我が子を追いかける。通りはがら空きになった。
リヒトと大臣たちの笑顔は固まった。
オネットは歩き出す。
朝焼けが妙にまぶしい。
「ソール大陸でマリアたちと別れた日の朝も、こんな感じだったな」
呟いた後で、小鳥の鳴き声に気づいた。
ピピピと可愛らしい声を発していた。屋根の裏に巣を作っているようだ。
オネットの表情がほころぶ。
その表情のまま、身体をひねる。
地面に矢が刺さっていた。
矢が飛んできた方向に向き直る。
「狙撃手ならもっとうまく気配を隠した方がいい」
「……畜生」
建物の陰から矢を放ったのは、少年であった。
その場でドッカとあぐらをかいて座りこむ。
「もう一回放つ時間は与えないだろ? 父さんみたいに殺せよ!」
「おまえの父さんは騎士団だったのか?」
オネットは穏やかな口調で尋ねた。
少年は涙を浮かべた。
「父さんはおまえに殺された。おまえを殺す事だけが僕の生きがいだった。でも、もうそんなチャンスがないなら死んだ方がマシだ!」
「あいにく、今の俺は人を殺す気分ではない。死にたいなら他を当たってくれ」
「何を言ってんだ。『マルドゥクの殺戮人形』から殺人を取ったら何が残るんだ!?」
「そうだな。何も残らない」
オネットは肯定した。
リヒトをはじめ、自分を引き留めようとする国民はいる。しかし、過去の罪は消えない。その罪を咎めるものがいるのは不思議な事ではない。
マルドゥクの手下の中で、最も人を殺している。罪悪感がない事も多かった。
「俺は今も昔もマルドゥクの手下だ。言い訳をするつもりはない」
「じゃあ、なんで僕を殺さない!?」
「気が乗らないと言っただろう。俺は他にやりたい事がある」
オネットは歩くのを再開した。
「待て! 逃げるのか!?」
少年は追いかける。
しかし、朝霧が立ち込めると、すぐに見失ってしまう。
少年は地面に両膝をついて、何度も自分の右腕を殴った。
矢を放った腕だった。
「畜生、畜生、畜生!」
少年の目からとめどなく涙が流れ落ちる。やり場のない悔しさを右腕にぶつけていた。
しかし、その動きは急に止められた。
右腕を打ち付ける左腕を、何者かが掴んでいた。
掴んでいるのは、スターだった。
「おまえの父は素晴らしい騎士じゃった」
少年は老齢の騎士の顔を見る。老いぼれのはずなのに、精悍な顔立ちに見えた。
「あの方の罪を許せとは言わぬ。償うつもりもないじゃろうし」
「スターン将軍……」
少年はほうけていた。
レーベン王国で伝説の騎士と謳われた騎士がそこにいる。
「あの方の罪は儂が償わせる。その日を見届けてほしい。決して自分で自分を傷つけるでないぞ」
スターは力強く言い放ち、少年の左腕から手を離した。
少年は片膝をついて、十字を切った。
「スターン将軍の未来に幸あれ」
スターは鷹揚に頷いて、走っていった。
彼が走る先には、鉄道のそばでマリアとオネットが向き合っていた。
「一人でなんとかしようとしないでと言ったでしょ。マルドゥクを止めたいのはみんな一緒なんだから」
マリアは腕を組んで、頬を膨らませた。怒っているのだ。
「……今はマルドゥクが動かないようにするべきだ。『マルドゥクの殺戮人形』の異名が効くうちに、マルドゥクが虐殺する芽を摘んでおきたい」
オネットは気まずそうに視線をそらしているが、言うことは言っている。
しかし、マリアは納得しなかった。
「一人でやる事はないでしょう!?」
「マリア王女、オネットの事情をもう少し聞きましょう。何かしら良い作戦が思い浮かぶかもしれません」
口を挟んだのはミカエルだった。
オネットが呟く。
「敵か味方か分からない奴だな」
「敵だ。僕は騎士団長、おまえは倒すべき暗殺者だと思っている。だが、おまえの情報は貴重だ。聞く価値があると思っている」
「単純な話だ。俺はマルドゥクを倒すつもりはない。マルドゥクの権力を利用したい。それだけだ」
オネットは淡々と言っていた。
マリアが身震いする。
「権力を利用して何がしたいの?」
「話す義務はない」
「人が戦おうとしている時に、マルドゥクの権力を振りかざしたいとか思っていない!?」
マリアの口調は荒かった。
「あなたはどこまで一人で薄汚れるつもりなの!?」
「暗殺者だからな。どこまでも汚れる事はできる」
オネットの両目から光が消える。うつろな目でマリアを覗き込んでいた。
感情の読めない表情を浮かべていた。
「消えようのない罪を犯した。だが、俺しかできない事もある」
「マルドゥクを陰で操って被害を最小限に抑える事? バカみたい!」
「マルドゥクを利用したい人間は多いからな。簡単ではない」
オネットはそっとマリアから距離を取る。放っておけばどこかへ行ってしまいそうな、儚い雰囲気をまとっていた。
「さようなら。二度と会う事はないだろうが、たまには思い出してほしい」
「待って、お願い!」
マリアが抱きつこうと距離を詰める。
しかし、彼女がオネットに触れる事はなかった。
「目ぇ覚ませよボケェ!」
その代わり、派手な殴打音が辺りに響いた。
オネットの左頬に赤い跡がついていた。
「わりぃ。当たっちまった!」
ジャックの右拳も、赤い跡がついていた。
ふらつくオネットの肩を、ジャックが抱きとめる。
「言いたい事は分かるが、友達を傷つけちゃいけないぜ!」
「殴ったくせに」
「おうよ! 俺も一緒に傷ついてやる!」
ジャックは自分の左頬を殴りつけた。派手な音と共に赤い跡がつく。
「これでおあいこだぜ。さぁ、腹を割って話し合おうぜ!」
「言いたい事は言った」
「よーっし話は終わりだ。飯食うぜ!」
「さっきチーズケーキを食べていただろう」
ジャックはチッチッチッと口ずさみながら指を振った。
「てめぇは何も食べていない!」
「列車で食べる」
「来い、てめぇの居場所はこっちだ!」
ジャックはオネットの右腕を強引に引っ張る。
「そうよ、行きなさい!」
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