マルドゥクの殺戮人形

今晩葉ミチル

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決戦!

海上の激闘

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 ルドが右手をあげる。
 辺りは急激に冷気を帯び、空気中に無数の氷の矢が召喚される。
 近隣諸国の軍勢の何名かは恐れ、悲鳴をあげた。
 そんな中でフレイはケラケラと笑っていた。
「面白い事になったな! スーパーヒーローの決戦はこうでなくっちゃ」
 フレイは夜空を指差し、勢いよく啖呵を切る。
「天が呼んだ地が呼んだ。闇よりさらに深い闇を蹴散らすために。悪あるところにさらなる悪あり。『爆炎の狼』フレイ、見・参! ”コールド”なんかぶっ飛ばしてやらぁ!」
「”アイアン”を忘れるんじゃねぇ!」
 イアンが、フレイに刃を向けて軍艦から飛び降りる。
「一回切って死ねぇなら、何度でも切り刻んでやる!」
 フレイがイアンの斬撃をかわす間に、ルドが生み出していた氷の矢が近隣諸国の軍勢へ降り注ぐ。
 氷の矢の多くは”マリオネット”の糸に絡み取られ、四散し、無効化されていたが冷気は消えない。寒さで身体がうまく動かなくなった人も出た。
 そんな人たちに対して、マルドゥクの光線は容赦なく放たれる。
「身の程を思い知れ」
「知るか!」
 フレイの放つ炎が、光線に激突する。炎と光がせめぎ合い、その場で轟音をたてて爆発した。
 夜空が真昼のように輝く。
 衝撃が海面に伝わり、急激な高波が生まれる。海上で編まれた無数の糸が大幅に揺れ、近隣諸国の軍勢の足場を悪くする。
 しかし、足場が悪いのはマルドゥクたちも同じだ。マルドゥクは柵に捕まり、ルドはバランスを崩して燃え盛る軍艦の甲板で転んだ。
 いち早く体勢を立て直したのはイアンだった。
 揺れ動く糸の上を巧みに歩き、フレイへと斬撃を振り下ろそうとする。
 しかし、それを拒むように大量の糸がイアンの足元を絡め取る。
「うっとうしい!」
 ”アイアン”を足元で最大限に発動させて、無数の糸を一瞬で切り刻んだ。
 その一瞬のうちにフレイはイアンに向けて”フレイム”を発動させていた。
 イアンの全身が炎に包まれる。
 以前ならこれで勝負がついていた。イアンは全身に火傷を負い、戦闘不能になるはずだった。
 揺らぐ炎が人の形になる。
 ”フレイム”をイアンにまとわりつかせているのだから、当然と言えば当然だった。
 しかしフレイは、イアンの周りで炎が燃え盛るのを見ながら、違和感を覚えていた。同時に、嫌な予感がしてその場を大きく退く。
 次の瞬間に、炎を帯びたイアンが、フレイのもといた場所を切り裂いていた。
 切り裂かれた糸は焼け焦げ、海に溶けるように消えていく。
 赤黒く輝く”アイアン”の使い手は猛攻を止めない。不適な笑みを浮かべて、逃げ回るフレイを追い詰めていった。
 フレイは、イアンに仕掛けていた”フレイム”を、効果がないと判断して解除した。

「なんかパワーアップしたか?」

「当たり前だ! 鋼鉄を熱に強くなるように組み替えた。炎を食らって無様に逃げるのは懲り懲りだぜ」

 イアンはフレイに切りかかる。彼の脳裏には、レーベン王国でミカエルスペシャルを食らって敗走せざるをえなくなったという苦い記憶がよぎっていた。
「絶対にグローリアの騎士もぶっ殺してやるぜ!」
「させるかあぁああ!」
 イアンとフレイが咆哮をあげる。
 その頃ミカエルは、ミカエルスペシャルの準備をしながら嫌な汗をかいていた。
 以前ならとっくにミカエルスペシャルを発動していた。大量の火源石を同時に振り、超高温を発するのだ。
 しかし、今はどういうわけか重たい槍が何も発してくれない。ミカエルスペシャルを使えなくなったようだ。
 フレイはイアンの猛攻をすんでのところでかわすが、対抗策を思いつかない状態だ。
 波の揺れが収まる。
 マルドゥクとルドも体勢を立て直していた。
 ”コールド”が軍艦の炎を凍りつかせる。”フレイム”が放たれない状況で、辺りはすっかり”コールド”の支配領域となった。
 ルドは微笑む。

「茶番は終わりです。懺悔をしなさい。苦しまずに天に召されるように祈ってあげますよ」

 ルドが乗る軍艦を中心に、海上が徐々に凍りつく。
 海上の氷をマルドゥクとルドが悠然と歩く。氷の道は、グローリア王城に向かって少しずつ伸びていた。

「グローリア王国を殲滅する。オネットがどこにいるか分からないが、あいつに与える罰としてちょうどいいだろう」

「待て、俺が許さん!」

 ”フレイム”の業火が放たれ、マルドゥクの全身が炎に包まれるが、一瞬にして凍らされた。”マスター”のスキルの一部を使ったのだ。
 しかし、業火は何度も放たれる。円を組み、さらなる高熱がマルドゥクの周囲を包む。
 地獄のような業火を光線で蹴散らし、マルドゥクは忌々しげに呟く。
「……しつこい男だ。俺はフレイから処分する」
「オネットはどうしますか?」
「後回しにしたいが、イアンが足元をすくわれる可能性がある。一旦二手に分かれるしかない」
 マルドゥクの作戦を聞いて、ルドはニヤついた。
「マルドゥク様がフレイに遅れを取るはずがありません。万が一僕だけでオネットを倒せなくても、あの子は絶体絶命ですね」
 ミカエルは逡巡した。
 有利だったはずの戦況は大幅に変化している。大きな戦力であるフレイの攻撃は決定打にならず、果敢にもイアンに仕掛けた軍人は返り討ちにあった。
 現在、フレイはマルドゥクとイアンから逃げ回っている。防戦一方で勝てる相手ではないが、有効な攻撃手段がないのだろう。
 そのうえ、ルドがグローリア王国に向かっている。おそらくオネットが相手をするだろうが、広範囲に”マリオネット”を操っている状態でどこまで力を割けるのか分からない。
 フレイとオネットがやられれば、次はグローリア王国が同じ運命を辿るだろう。
「できれば二人がいるうちに決着をつけたいが……」
 ミカエルは重い槍の切っ先を見つめる。
 いくつもの火源石がついた槍だ。振り回せば超高温の炎が発動するはずのものだった。
 しかし、今は炎はおろか少しも温もりがない。火源石が無効化されてしまっているのだろう。
 ミカエルにとって思い当たる節がないわけではない。 
 一時期オネットの左手首にはめられた無源石のブレスレットだ。
 はめられた者は自力で外すことができず、スキルを封じられる。 
 ミカエルがオネットの手首から外したのだが、どこかへ消えてしまった。不思議なブレスレットだった。

「……暗殺者ごときが僕の活躍を奪うとはな」

 活躍ができないのをオネットのせいにして、ミカエルは忌々しげに呟いた。

 しかし、恨み言を言っても仕方ない。
 ルドという脅威がグローリア王国に向かっている。オネットだけではどうしようもないかもしれない。
 ミカエルは槍を構えて馬を走らせた。グローリア王国の危機を何があっても回避しなければならない。
 刺し違えてでもルドを仕留めるつもりだった。
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