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決戦!
マリアの”ゼロ”
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ルドは振り向かない。ただ氷の道を歩くだけだ。
ミカエルがルドの背中を槍で突き刺さそうとする瞬間。
ルドの笑い声が聞こえた。
「無粋なマネはマルドゥク様が許しませんよ」
轟音が響き渡る。まばゆい光が辺りを包む。
マルドゥクが放った光線だ。フレイは、イアンの猛攻を受けて、マルドゥクを足止めしきれなくなったのだろう。
馬を走らせても避けようがないほど巨大な光線だ。確実にミカエルを捉えている。
ミカエルの先には、グローリア王国がある。このままでは滅してしまう。
「おのれえぇぇええ!」
ミカエルは叫び、槍を振り回す。
一か八か、ミカエルスペシャルの発動に賭けていた。
しかし、炎を呼び出せない。
それでもミカエルは雄叫びをあげて光線に向けて槍を振り続ける。
槍の切っ先が光線にわずかに触れる。すさまじい重圧に、ミカエルの身体は押しつぶされそうになる。
体力は限界だ。グローリア王国騎士団長の意地だけがあった。
「マリア王女、あなただけでも逃げてください!」
ミカエルの魂の叫びが届いたのか届いていないのか。
マリアは海岸に出て、グローリア王家のペンダントを掲げていた。ペンダントには虹色の三角形が浮かんでいる。
「きっと大丈夫よ。みんながいるから」
マリアは深呼吸をする。
生暖かい風が吹き、マリアの長い金髪と白いドレスを揺らす。
意を決したように、マリアは声高に言い放つ。
「”ゼロ”蘇生! お父様、お母様、助けて!」
ミカエルには一瞬、何を言っているのか分からなかった。
”ゼロ”とはあらゆるスキルを一時的に封じる能力だ。それを蘇生するためにマリアの両親、つまりグローリア王国の国王と王妃の力を使ったのだと理解するのに時間を要した。
ミカエルの理解が追いつく前に、事態は進む。
マルドゥクが放った光線は、マリアの前に張られた虹色の六芒星に阻まれ、動きを止める。
光線は音を立てて散り、光の粒となって消える。同時に、空に巨大な六芒星が浮かび上がった。
マリアの”ゼロ”が発動されたのだ。
「すげぇ……これがマリアの”ゼロ”か」
フレイは呟いた。
大空に広大な虹色の六芒星が描かれている。神聖な光が降り注ぎ、海面は輝いていた。
辺りはどことなく温もりを感じる、優しい空間となっていた。
相手の力を封じる”ゼロ”と、グローリア王家に伝わる業が合わさったのだろう。
「俺が生きているのも、グローリア王家の蘇生のおかげだ」
フレイは目元をぬぐった。
マリアの友達になると言ってマルドゥクの逆鱗に触れ、大怪我を負い、オネットが助けてくれたが、イアンに切られた。
切られた後の記憶はなかった。目を覚ました時は地獄に落ちているものだと思っていた。
しかし、現実にマリアの住む世界にいる。
「この命、大事にするぜ」
フレイは拳を作って、左胸に当てた。力強い鼓動が耳まで聞こえていた。
その鼓動に応えるように、彼の周りで”フレイム”の炎がうなりをあげる。獰猛な狼のようだった。
フレイが見据えるのは、マルドゥク。
”マスター”を封じられて、なおも闘志を失わないマーニ大陸の覇者。
ポキッポキッと指を鳴らして気合いをためている。
恐ろしくも神々しい闘気をまとっている。
「おまえたちのお遊びは終わりか?」
答えるものはいない。
ソール大陸の連合軍は畏怖を抱いていた。
不意に、フレイが笑い声をあげた。
「おぅ! お楽しみはこれからだぜ!」
フレイが走る。
獰猛な炎の狼と共に、マルドゥクに殴り掛かる。
フレイを後押しするように、”マリオネット”の糸がマルドゥクの全身を絡め取る。
回避不可能な”フレイム”の炎を受けて、マルドゥクはたじろいだ。
「今だ! 掛かれ!」
ミカエルが号令をかける。
グローリア王国の騎士団が一斉に槍を向けて突進する。
「おのれぇぇええ!」
マルドゥクは雄叫びをあげて気合いを解き放つ。
”マリオネット”の糸も、騎士団も吹き飛ばす。なおも殴り掛かるフレイを蹴り飛ばした。
マルドゥクは両目を血走らせた。血に飢えた獣のように凶暴な目つきであった。
「俺に逆らうとは嘆かわしい! 所詮は無能かゴミばかりだ。俺はマーニ大陸の覇者にして、世界の覇者となる男だ。世界を立て直してやる!」
”マスター”を封じられ、切り札が無いはずのマルドゥクだが、野心は潰えていない。
「目障りな邪魔者はすべて排除する!」
そう言って、マルドゥクが走る。彼が走る先にはグローリア王国の海岸と、海岸に立つマリアがいる。
ミカエルが追いかけ、マルドゥクに飛びかかる。
「マリア王女に手出しはさせない!」
槍を振り降ろす。渾身の力を込めた一撃だ。
しかし、マルドゥクはせせら笑い、両手をクロスして受け止める。
「軟弱者め。弱さは罪だ」
「なんだと!?」
渾身の一撃をあっさり防がれ、ミカエルは動揺した。
マルドゥクの蹴りが、ミカエルの腹に入る。普通の人間なら内蔵が破裂して、死に至る攻撃だった。
しかし、マルドゥクは軸足が海に落ちていて、全力で蹴る事ができなかった。”マリオネット”の糸の絨毯が器用に操られ、マルドゥクの足元だけ糸が消えていたのだ。
それでも強烈な攻撃だったのに変わりはない。ミカエルは苦しくなり、何度も咳をした。
グローリア王国の海岸に続く糸の絨毯は消えている。たゆたう波が、空に輝く六芒星を映していた。
ミカエルがルドの背中を槍で突き刺さそうとする瞬間。
ルドの笑い声が聞こえた。
「無粋なマネはマルドゥク様が許しませんよ」
轟音が響き渡る。まばゆい光が辺りを包む。
マルドゥクが放った光線だ。フレイは、イアンの猛攻を受けて、マルドゥクを足止めしきれなくなったのだろう。
馬を走らせても避けようがないほど巨大な光線だ。確実にミカエルを捉えている。
ミカエルの先には、グローリア王国がある。このままでは滅してしまう。
「おのれえぇぇええ!」
ミカエルは叫び、槍を振り回す。
一か八か、ミカエルスペシャルの発動に賭けていた。
しかし、炎を呼び出せない。
それでもミカエルは雄叫びをあげて光線に向けて槍を振り続ける。
槍の切っ先が光線にわずかに触れる。すさまじい重圧に、ミカエルの身体は押しつぶされそうになる。
体力は限界だ。グローリア王国騎士団長の意地だけがあった。
「マリア王女、あなただけでも逃げてください!」
ミカエルの魂の叫びが届いたのか届いていないのか。
マリアは海岸に出て、グローリア王家のペンダントを掲げていた。ペンダントには虹色の三角形が浮かんでいる。
「きっと大丈夫よ。みんながいるから」
マリアは深呼吸をする。
生暖かい風が吹き、マリアの長い金髪と白いドレスを揺らす。
意を決したように、マリアは声高に言い放つ。
「”ゼロ”蘇生! お父様、お母様、助けて!」
ミカエルには一瞬、何を言っているのか分からなかった。
”ゼロ”とはあらゆるスキルを一時的に封じる能力だ。それを蘇生するためにマリアの両親、つまりグローリア王国の国王と王妃の力を使ったのだと理解するのに時間を要した。
ミカエルの理解が追いつく前に、事態は進む。
マルドゥクが放った光線は、マリアの前に張られた虹色の六芒星に阻まれ、動きを止める。
光線は音を立てて散り、光の粒となって消える。同時に、空に巨大な六芒星が浮かび上がった。
マリアの”ゼロ”が発動されたのだ。
「すげぇ……これがマリアの”ゼロ”か」
フレイは呟いた。
大空に広大な虹色の六芒星が描かれている。神聖な光が降り注ぎ、海面は輝いていた。
辺りはどことなく温もりを感じる、優しい空間となっていた。
相手の力を封じる”ゼロ”と、グローリア王家に伝わる業が合わさったのだろう。
「俺が生きているのも、グローリア王家の蘇生のおかげだ」
フレイは目元をぬぐった。
マリアの友達になると言ってマルドゥクの逆鱗に触れ、大怪我を負い、オネットが助けてくれたが、イアンに切られた。
切られた後の記憶はなかった。目を覚ました時は地獄に落ちているものだと思っていた。
しかし、現実にマリアの住む世界にいる。
「この命、大事にするぜ」
フレイは拳を作って、左胸に当てた。力強い鼓動が耳まで聞こえていた。
その鼓動に応えるように、彼の周りで”フレイム”の炎がうなりをあげる。獰猛な狼のようだった。
フレイが見据えるのは、マルドゥク。
”マスター”を封じられて、なおも闘志を失わないマーニ大陸の覇者。
ポキッポキッと指を鳴らして気合いをためている。
恐ろしくも神々しい闘気をまとっている。
「おまえたちのお遊びは終わりか?」
答えるものはいない。
ソール大陸の連合軍は畏怖を抱いていた。
不意に、フレイが笑い声をあげた。
「おぅ! お楽しみはこれからだぜ!」
フレイが走る。
獰猛な炎の狼と共に、マルドゥクに殴り掛かる。
フレイを後押しするように、”マリオネット”の糸がマルドゥクの全身を絡め取る。
回避不可能な”フレイム”の炎を受けて、マルドゥクはたじろいだ。
「今だ! 掛かれ!」
ミカエルが号令をかける。
グローリア王国の騎士団が一斉に槍を向けて突進する。
「おのれぇぇええ!」
マルドゥクは雄叫びをあげて気合いを解き放つ。
”マリオネット”の糸も、騎士団も吹き飛ばす。なおも殴り掛かるフレイを蹴り飛ばした。
マルドゥクは両目を血走らせた。血に飢えた獣のように凶暴な目つきであった。
「俺に逆らうとは嘆かわしい! 所詮は無能かゴミばかりだ。俺はマーニ大陸の覇者にして、世界の覇者となる男だ。世界を立て直してやる!」
”マスター”を封じられ、切り札が無いはずのマルドゥクだが、野心は潰えていない。
「目障りな邪魔者はすべて排除する!」
そう言って、マルドゥクが走る。彼が走る先にはグローリア王国の海岸と、海岸に立つマリアがいる。
ミカエルが追いかけ、マルドゥクに飛びかかる。
「マリア王女に手出しはさせない!」
槍を振り降ろす。渾身の力を込めた一撃だ。
しかし、マルドゥクはせせら笑い、両手をクロスして受け止める。
「軟弱者め。弱さは罪だ」
「なんだと!?」
渾身の一撃をあっさり防がれ、ミカエルは動揺した。
マルドゥクの蹴りが、ミカエルの腹に入る。普通の人間なら内蔵が破裂して、死に至る攻撃だった。
しかし、マルドゥクは軸足が海に落ちていて、全力で蹴る事ができなかった。”マリオネット”の糸の絨毯が器用に操られ、マルドゥクの足元だけ糸が消えていたのだ。
それでも強烈な攻撃だったのに変わりはない。ミカエルは苦しくなり、何度も咳をした。
グローリア王国の海岸に続く糸の絨毯は消えている。たゆたう波が、空に輝く六芒星を映していた。
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