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とっておきのお返し

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「私の呪縛を解くなんて、どんな人物ですの?」
 ロベルタは会話に応じる事にした。会話をする間に、新たにざまぁする方法を絞り出したかった。

「ネクラという魔法使いだ。あらゆる魔術に精通している」

 ケッペキは快く答えていた。

「とっておきのチートスキルを持っているらしい」
「チートスキル!? いったいどんな能力ですの?」
「詳しい事は明かせないと言っていたが、あなたを解放する最高のスキルだと言っていた」

 ケッペキはロベルタの手を取る。

「すぐには信じられないかもしれない。しかし、ネクラの魔術を見れば納得すると思う」
「……あなたはネクラに差し向けられたのですね」
 ロベルタの瞳が鋭く光る。
 その光に気付かずに、ケッペキは笑顔で頷いた。
「そのとおりだ。ネクラがいなかったら、あなたの事を知る事もできなかったかもしれない」
「面白そうな相手ですわね。ぜいお会いしたいですわ」
「本当か!? ネクラもあなたに会いたいと言っていた。早速連れて行こう」
 ケッペキの笑顔が輝くと同時に、ロベルタはほくそ笑んでいた。

「とっておきのお返しをしたいですわ」

 とっておきのお返し、すなわちチートスキル『ざまぁ』を徹底的に行使するつもりでいた。

 黒幕を相手に容赦をするつもりはない。
 ケッペキは、ロベルタがネクラにお礼をしたがっているのだと思ったのだろうが。
 ケッペキが口笛を吹く。白い馬が草をはむのをやめて、ケッペキの元までとことこ歩いてきた。
「ぬかるんだ大地をレディーに歩いてほしくない。鞍を拭くから、乗ってくれ」
「あら、あなたはどうなさいますの?」
「歩きでいい。ネクラの居場所はここから遠くない」
「お気遣い感謝いたします」
 ロベルタはケッペキの手を借りながら、素直に白い馬にまたがった。
 ネクラに会うまでは怪しまれる行動を避けるつもりだ。
 馬とケッペキはゆっくりと歩き出す。
 その足跡は、くっきりと残されていった。

「……オイラはどうすればいいのでしょうか?」

 御者に尋ねられて、暗雲は戸惑った。

「僕に聞かれたって分からないよぉ」
 御者も暗雲も途方に暮れていた。
 イケメンに応急処置をして馬車の座席に寝かせたのはいいが、その後の指示はなかった。
 ケッペキがロベルタを連れていくのを止めようかと考えたが、ロベルタがネクラと会いたがっているのを察してためらった。

「こんな時こそ指示を出すべきなのに、イケメン様は役に立ちませんな」

「誰が役立たずだって?」

 イケメンが急に起き上がり、御者の首を絞める。
「この僕を悪く言うなんて、神も悪魔も僕も許さないよ」
「ご自身を何と並べてるのですががが」
「この世の最も力ある者たちだよ」
 イケメンは当然のごとく言っていた。
「そんな事より早く訂正しないと、このまま絞め殺すよ」
「ぐるじぃです、訂正しますす」
 御者は力負けして、イケメンの要求どおりにした。
 イケメンは髪をかきあげる。
「また過ちを正してしまったよ」
「……もう何も言いません」
「気にいらない態度だけど、今はケッペキとの決闘が優先だね」
「ケッペキならロベルタ様を連れてどこかへ行きましたよ」
 御者の言葉に、イケメンは口元を引くつかせた。
「僕は降参していないのに逃げたのか。しかもロベルタを連れて」
「普通に考えれば勝負ありだと思いましたが……何でもありません、睨まないでください」
 御者はへこへこ何度も頭を下げながら、視線をそらしていた。
 イケメンは低い声で笑っていたが、その目は笑っていない。
「ロベルタも勝手に僕から離れるなんて、何があったのかな」
「ネクラという魔法使いに会いに行くようですよ」
「なぜ?」
 イケメンがどす黒くオーラを放っていた。
 御者は全身を震わせながら、なんとか言葉を整理する。
「とっておきのお返しをしたいと言っていました」
「なんのお返しかな?」
「それは分かりませんでした」
 御者が冷や汗ダラダラになりながら報告すると、イケメンは御者台に飛び乗ってきた。
 口元は笑っているが、その目には暗くよどんだ悪意が宿っている。
「すぐにロベルタの元に行くよ」
「え、どこに行ったか分からないのに」
「簡単だ。馬の足跡がある。ケッペキにはとっておきのお返しをしないといけない。暗雲もついてくるように」
 イケメンは御者の鞭と手綱を奪い取り、馬車馬に鞭を打った。
 馬車馬はヒヒーンと悲壮な悲鳴をあげた。

 荒い音を立てながら猛然と走る。暗雲も慌てて馬車の上を飛んでいた。

 御者は誰にも聞こえない声で呟く。
「……ケッペキが、イケメン様からロベルタ様を解放しようとしていたなんて言えませんよ」
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