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8「昨日、いろいろ撮っちゃった」
しおりを挟む翌朝、自分の部屋へと戻る悠斗くんを玄関まで見送る。
「それじゃあまた、大学でね」
「うん……あの……」
「ん?」
昨日の夜のこと、触れていいのかわからないけど、やっぱり気になってしまう。
そんな俺に気づいてか、悠斗くんはにっこり笑って、
「秘密ね?」
そう言ってくれた。
秘密にして欲しいことがありすぎて、なにに対する秘密なのかは曖昧だけど。
当然、忘れているわけではないらしい。
忘れてくれた方が都合がいいのかもしれないけど、覚えてくれていたことがなんだか嬉しくて、にやける顔を隠すように、頷いておいた。
その後、準備を終えて、家を出ようとしたときだった。
テーブルの上のスマホに気づく。
俺のじゃない。
悠斗くんのか。
他に思い当たる人はいない。
早く渡した方がいいだろう。
大学用のカバンとスマホを手に家を出ると、すぐさま隣の家のインターホンを押してみた。
これで悠真くんが出てきたらちょっと怖いけど。
少し待ってみたものの、反応はない。
「もう大学か……」
家に置いていくのもなんだし、今日は必修科目もあるからどうにか会えるだろう。
俺は、悠斗くんのスマホをカバンに入れると、少し速足で大学へと向かった。
大学についてすぐ、1コマ目の講義が行われる教室で悠斗くんの姿を見つける。
ホッとしたのもつかの間、隣には悠真くんがいて、他にも何人か学生が集まっていた。
あそこに行かなきゃならないのか。
ちょっと難しいかもしれない。
ひとまず、後ろの方、ぽつんと一人座っている誠の隣にカバンを置く。
「おはよう」
「おう。おはよう。昨日どうだった?」
昨日……悠斗くんのことだろう。
「言いにくい話だってんなら、聞かないでおくけど」
言いにくい……というより、言えないこともあるけど、全部が全部、言えないわけじゃない。
「まあ、少し仲良くなったよ。それで……悠斗くんがうちに忘れ物してったから、返したいんだけど……」
現状を誠に伝える。
「うわ……そいつはなかなか難しそうだな」
誠が悠斗くんの方を見て呟く。
「はぁ……」
「忘れたってことに気づいてんなら、向こうからこっちに来てくれそうじゃない?」
そうであって欲しいけど、あいにく悠斗くんがこっちへ来てくれる気配はない。
講義後、別の誰かが悠斗くんの周りに集まる前に話しかけるとか?
……おそらくそれも難しい。
近くの席にいる人たちが、すぐ集まってしまうだろう。
スマホなんて大事なものだし、あんまり長く持ってはいたくない。
「渡してくる」
「おう、がんばれー」
スマホだけを持って、俺は悠斗くんの方へと向かった。
いち早く俺に気づいたのは、悠斗くんじゃない。
悠真くんだった。
あからさまに顔をしかめる。
「おい……それ以上、近づくんじゃねぇ」
悠真くんが呟くと、一瞬、周りが静かになる。
直後、近くにいた女の子たちが、俺の方を見て、くすくす笑った。
「さすがにそれはかわいそうだって」
「友達になりたいんじゃない?」
……やっぱり、来なきゃよかった。
俺だって、悠斗くんや悠真くんに釣り合う人間だなんて思ってない。
言われなくてもわかってる。
当たり前のことだから、別にいいけど。
最初から近づかなければ、こんな嫌な気持ちになることもなかったのに。
「悠斗くん……その、スマホ……」
いつもに増して、うまく言葉が出てこなかった。
悠斗くんが、女の子たちをどけるようにして俺の前に来てくれる。
「ありがとう。写真とか動画用で、メインのスマホは別だけど、助かったよ」
「そうだったんだ……」
「うん。昨日、いろいろ撮っちゃった」
撮ったって……俺の部屋、かな。
なにを撮ったのかはわからないけど、うっとりした表情を向けてくれる悠斗くんを見て、少しほっとする。
それでも、やっぱり俺は悠斗くんと仲良くしちゃいけないような気がして、ただ頷きながら、スマホを渡した。
そのまま後ろの席に戻ろうと思ったけど、悠斗くんが俺の手を掴む。
「え……」
「俺も、そっちの席行っていい?」
悠斗くんに言われて、誠がいる席の方へと目を向ける。
近くの席はいくつか空いていた。
「前の方が、先生の話、聞きやすいんじゃ……」
「後ろでも聞ける」
「俺は、いいけど」
悠真くんが、舌打ちする。
女の子たちも、なんだか腑に落ちていないみたいだった。
悠斗くんは俺に微笑んだ後、悠真くんや女の子たちに向き直る。
「俺の友達に酷いこと言わないでくれる?」
悠斗くんがいったいどういう顔でそう言ってくれてるのかわからないけど、恥ずかしいような嬉しいような、よくわからない感情が押し寄せてきた。
「俺はそういうつもりで言ったんじゃない」
悠真くんが答える。
そういうつもりって、なんだろう。
「わかってる。でも後でちゃんと謝って?」
悠斗くんは、理解しているらしい。
「行こう?」
そう言うと、掴んだままだった俺の手を強く引っ張ってくれた。
「……おかえり」
そう言いながら、誠がひとつ席をずれてくれる。
「ただいま」
「ごめんね、お邪魔します」
悠斗くんが、俺の隣の席につく。
誠、俺、悠斗くんの並びは、はたから見てすごく違和感あるだろう。
「まあ、昨日も声かけてたし、仲良くなったみたいなこと言ってたから、俺は別にいいけど、あっちは大丈夫なのかよ」
俺を挟んで、誠が悠斗くんに尋ねる。
「悠真はともかく、他は友達ってわけでもないし」
「発端は、その悠真ってやつじゃね? 昨日も、玲矢のこと睨んでただろ」
俺は別に構わない……そう告げる前に、悠斗くんが答えた。
「睨んでたのは、玲矢じゃないよ」
「え……」
俺が睨まれたとばかり思ってたけど、違うんだ?
「……まあ、玲矢を睨んでいるように見えてもおかしくないし、さっきのことも、改めて俺からちゃんと言っておく。ごめんね」
悠斗くんに言われて、俺はぶんぶんと首を横に振る。
「もう、さっき言ってくれたので十分だよ」
「お前が謝る必要ないしな」
誠の意見に同意する。
コクコク頷いていると、悠斗くんは頬を緩めて笑ってくれた。
「ありがとう」
講義中、会話をすることはないけど、なんだかいつもより緊張した。
隣に悠斗くんがいるだけで、こんなに違うもんなのか。
緊張で体に力が入ってしまった反動か、少しうとうとしてしまう。
そんな中、ふと視線を感じて隣を見ると、悠斗くんがこっちを見て微笑んでいた。
「な、に……」
「ん? なんでもないよ」
なんでもないって顔じゃない。
とはいえ、もしかしたら霊のことだとか、人には聞かせられない内容かもしれない。
とりあえず、視線を先生に戻すけど、今日はまったく頭に入りそうになかった。
講義後、辺りがざわつき始めると、誠が口を開いた。
「なぁ……なんで突然、玲矢に声かけたんだ?」
もっともな疑問だろう。
尋ねられた悠斗くんが、ちらりと俺を窺う。
誠に視線を戻したかと思うと――
「好きになっちゃったから……?」
冗談めかして告げる。
事故物件のことを隠そうとしてくれているのかもしれない。
「そういうの、いいから」
冗談だとわかり切っているのか、誠は少し呆れているみたいだった。
「あながち、ウソってわけでもないんだけどなぁ」
「え……?」
俺と誠の声が重なる。
これもまた冗談なのかもしれない。
「次の講義、一緒じゃないよね? 教室遠いから、もう行くよ」
悠斗くんが席を立つ。
「う、うん」
見送った後、
「……俺たちも、次の教室行くか」
誠に促されるようにして、俺たちも移動することにした。
触れちゃいけないことだとでも思ったのか、誠はそれ以上、なにも聞いてこなかった。
言い訳したい気もしたけれど、それじゃあなんで悠斗くんが俺に声をかけたのかって、どうにも説明し辛い。
誠なら、俺が事故物件に住んでいたところで、受け入れてくれそうだけど。
事故物件が目当てだとか、霊が気になっているだとか、そういうのは、たぶんあまりいい印象じゃない。
人のイメージを下げるようなことをわざわざ言いたくはないし、ちょっとだけ『あながち、ウソってわけでもない』と言っていた悠斗くんの言葉を期待している自分もいた。
好きになったって。
俺のことか霊のことかわからないけど、嫌いだったら、いくらなんでも昨日、あんなことはしないだろう。
その日の夜、ベッドに寝転がってすぐ、妙な物音が聞こえてきた。
隣から聞こえる音でもなく、このベッドが軋む音。
悠斗くんを信じるなら、これは霊がベッドを軋ませている音だ。
俺を撫でているらしい。
どんな風に撫でているかは、昨日、悠斗くんが教えてくれた。
まったく同じではないらしいけど……。
「ん……」
駄目だ。
また興奮しそうになる。
これは悠斗くんのせい。
あいかわらずうとうとしてしまうのは、一人暮らしするタイミングで買ったベッドが、すごく睡魔を誘ういいベッドだからだ。
眠くて、気持ちいい。
目を伏せると、軋む音が頭に響いてきた。
昨日、悠斗くんに触れられた感触が蘇ってくる。
悠斗くんは胸元を撫でて、その後、俺のを……。
「ん……」
右手で、昨日の悠斗くんの行動を辿る。
なにしてるんだろう、俺。
眠いのに興奮してるなんて、自分でもよくわからない。
俺の体、どうなってるんだ?
下着の中で窮屈そうにしていたものを取り出す。
霊のせいじゃない……これは悠斗くんのせい。
悠斗くんのせいにしていいものなのかどうかわからないけど、掴んだ手をゆるゆると動かしてみせる。
「んぅ……ん……ん、はぁ……」
俺の動きに連動して、ベッドがギシギシ音を立てた。
俺はそんなに動いていないのに。
やらしくて、激しくて、音に煽られるように俺もまた手に力を込める。
「あっ……ん……ん……」
悠斗くんの手つきや声が、頭に浮かぶ。
昨日、たしか言ってた。
かわいいって……たぶん、俺のこと。
「ん、んっ……はぁ……はぁっ……んぅ……んっ」
足りない。
苦しい。
悠斗くんが手伝ってくれたら……。
なに考えてんだろう、俺。
いつも一人でしてたのに、昨日のことが忘れられなくて、また欲しくなってしまう。
悠斗くんの手は優しくて、それでいて強くて、激しくて……でも、ちょうどいいの、一緒に探さないとねって、言ってくれた。
探したい。
探して欲しい。
一緒じゃないと……。
「はぁっ……んっ、んぅっ、ん……! んぅんんっ!」
この場にいない悠斗くんを求めながら、とうとう達してしまう。
「はぁ……」
すごく惨めだ。
なんだこれ。
羞恥心と罪悪感。
そんな俺を慰めるみたいに、柔らかなベッドが睡魔を誘う。
寝ぼけ眼でティッシュを手に取る。
出してしまったものを処理した直後、俺はそのまま意識を手離した。
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