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9「気持ちよくなってたりしねぇ?」
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翌日――
昨日のことを思い返す。
悠斗くんに合わせる顔がない。
悠斗くんなら許してくれそうな気もするけれど、当然ながら、バラす気もない。
1コマ目、そもそも悠斗くんは同じ講義だろうか。
いつもより早く来てしまったため、学生はまだ数人しかいなかった。
後ろの方の適当な席に着いて、教科書を取り出す。
こういうとき、一人でいる生徒に声をかけられたら、友達も増えるんだろうけど。
あいにく俺にその勇気はないし、話しかけられる魅力もない。
昨日の悠真くんの一件で、より実感させられた。
ああいうのは住む世界が違う人たちだと思って、気にしないことにする。
高校でもないし、関わらないようにしようと思えば、関わらずに生活できるのは都合がいい。
悠斗くんが俺に声をかけてくれたのは、やっぱり霊のおかげだろう。
そんなことを考えていると――
「おい」
少し離れた場所から、声をかけられる。
まさかとは思ったけど、顔をあげると、声の主は俺を見ていた。
悠真くんだ。
「えっと、俺……?」
さすがに警戒してしまう。
「いいか、動くなよ」
「う、うん……」
俺はわけもわからず、体を強張らせる。
動かないようにしていると、悠真くんの方から、少しだけ近づいて来てくれた。
二人で話すにしてはちょっと不自然な距離を保ったまま、悠真くんが話し始める。
「昨日は悪かった。あんな態度取って」
「う、ううん。俺が急に近づいたから……」
「悠斗から聞いたよ。遊び半分で、あの家住んでるわけじゃねぇって」
俺のこと、軽いノリで好き好んで事故物件に住んでるやばいやつ……みたいに思ってたのか。
もちろん最終的に決めたのは俺だし、嫌々でもないから、好きで住んでいることには変わりないんだけど。
「昨日の夜、家でしっかり怒られた」
「悠斗くんに……?」
「ああ。言っとくけど、別にお前のことが嫌いとか、そういうことじゃねぇから」
そういえば、俺を睨んでいたわけじゃないって、悠斗くんも言ってたっけ。
「もしかして……俺に憑いてるやつのこと、睨んでた?」
「……まあ、そういうこと。目は合わせねぇようにしてたけど」
たぶん悠真くんも、見えることは秘密にしているんだろう。
俺になら言ってもいい……悠斗くんに怒られて、言った方がいいって思ってくれたのかもしれない。
俺自身が睨まれたわけじゃないとわかったおかげで、少し気が晴れる。
「近づくなってのも、俺の体質の問題だから気にすんなって言いたいとこだけど、あんな態度取って気にならないはずねぇだろうし、さすがに悪かった」
「う、ううん。その……体質の問題って、悠真くんは近づくとどうなるの?」
「寒気がするっつーか……とにかく近づきたくねぇ。けどお前が気持ち悪いとかじゃねぇよ。お前が連れてるそいつらが苦手ってだけ」
「連れてる……そいつら……」
複数……なのか。
そういえば、悠斗くんより悠真くんの方が敏感なんだっけ。
同じように第六感があって、いろいろ見えている悠斗くんは平気でも、悠真くんは体が拒否反応を示してしまうってことだろう。
たとえば同じ虫を見ても、めちゃくちゃ気持ち悪く感じる人もいれば、平気で触れる人もいる。
もしかしたら、そんな感じなのかもしれない。
「お前、体……マジで平気なのかよ」
悠真くんの視線が突き刺さる。
「一応、平気だよ」
「それに関しては、ちょっと興味あったりすんだよな。お前みたいなやつの意見、聞ける機会もそうないし。悠斗が触れたりしても大丈夫だったんだって?」
「う、うん……触った……のかな」
俺自身は触られたけど、霊を触ったのかどうかはよくわからない。
「……それで、お前は見えてないんだよな」
「うん……」
たぶんこの人に嘘をついたところで、すぐに見破られてしまうだろう。
俺は素直に白状する。
「まあ、それだけ見えてて平然としてたら、怖ぇしな……」
悠真くんは少し視線を逸らして、苦笑いしていた。
「けど、感じてんだろ」
「感じてって……」
どういう意味かわからなくて、顔がかぁっと熱くなる。
「……変な意味じゃねぇから」
なにか察したのか、悠真くんはすぐさま言葉をつけ足した。
「えっと……気配とか、そういうこと?」
「まあそんな感じ。見ててなんとなくわかるけど、自覚はねぇみたいだな」
「感じてる……自覚?」
よくわからない……ってことは、自覚がないってことか。
「悠斗は平気そうだし、あいつに任せるけど。ひとつ、忠告しといてやる。悠斗の言うこと、真に受けすぎんなよ」
「え……」
悠真くんは、俺を見てニヤリと笑う。
真に受けすぎるなって、どういうことだろう。
嘘……つかれてるってこと?
「ちなみに、昨日お前のこと笑ってたやつらだけど」
「あ……うん……」
悠斗くんについて、もう少し聞きたかったけど、話を変えられてしまう。
昨日笑ってたやつら……悠斗くんに声をかけようとして、くすくす笑われたことを思い出す。
「見えてもねぇのに笑うとか意味わかんねぇし、むしろアイツらの方が友達になれねぇって俺は思ってるから」
「そう、なんだ……」
俺に憑いているものが見えているうえで嫌悪感を示した悠真くんと、なにも見えていないのに、見下すように笑ってた女の子たちとでは、雲泥の差がある。
一緒にして欲しくないってことだろう。
ただ、俺はなにも見えていないから、悠斗くんや悠真くんの言葉を信じるしかない。
「それと、悠斗が気にして見てるみてぇだけど、一応、少しは自分でも気をつけろよ」
「え……気をつけるって……?」
霊のことだと思うけど、見えるわけでも感じるわけでもないのに、どう気をつければいいんだろう。
「お前、気持ちよくなってたりしねぇ?」
「気持ちよく……?」
「自覚させていいのかわかんねぇけど……」
悠真くんは、少し迷うようなそぶりを見せた後――
「変な意味じゃなくてさ。心地いいとか、そんな感じ」
そう言葉を続けた。
軋むベッドの音で興奮してしまうのとは、また別の話だろう。
「うとうとしちゃうことなら、よくあるけど……」
大したことを言ったつもりはないけど、悠真くんは少し顔をしかめていた。
「で、でも、気持ち悪くなったりはしてないよ」
「気持ち悪くなる方が警戒できる分、マシってこともあんだよ。たとえば……そうだな。風呂場で湯船に浸かったまま寝ちまうとか」
「あ、あれ、気持ちいいよね」
「実際は寝てるんじゃなくて、気を失ってるんだって言うだろ。そんな感じ。つーか、やっぱあぶねぇな、お前」
湯船では、あったかくて気持ちよくて寝ちゃってるんだと思ってたけど、どうやらそうとも限らないようだ。
のぼせて気が遠くなっているのなら、悠真くんの言うようにかなり危ない。
「俺が普段うとうとしてるのが、そんな感じってこと……?」
「寄りつかれて、気持ちよくなって、そのまま……」
そのまま。
そのまま、なんだって言うんだろう。
わからないけど、ゾッとする。
あっちの世界に連れて行かれるとかそういうこと?
「……そろそろ行くわ」
「あ、うん」
結局、そのままどうなってしまうのか、悠真くんは口にしなかったけど、話を切り上げられてしまい、それ以上、聞くことはできなかった。
悠真くんは、いつの間にか来ていた悠斗くんのところへと向かう。
入れ違いで、俺の隣に誠がやってきた。
「おはよ。俺より早いなんて珍しいな」
「たまにはね。誠こそ珍しいな。もうすぐ講義始まるってのにギリギリじゃん」
「少し前から来てたよ。なんか話し込んでるみたいだったから、声かけなかっただけ」
そうだったのか。
全然気づかなかった。
俺って鈍感なのかな。
「和解できた?」
「喧嘩してたわけじゃないけど、昨日のこと謝ってくれた」
「ふぅん。よかったな」
誠は気に掛けてくれるけど、深くは聞いてこない。
その距離感が、ありがたかった。
今日は、悠斗くんと話をする隙もなく、すべての講義を終える。
家が隣でも、俺と違って悠斗くんにはたくさん友達がいるんだろうし、今日は1コマ目以外、同じ講義はないみたいだった。
同じ講義があったところで、なかなか話せそうにないけど。
悠真くんと和解できたのは、たぶん悠斗くんのおかげだ。
そのお礼くらいは伝えたい。
ただ、悠真くんが悠斗くんの言うことを真に受けすぎるなって言ってたのは気になるけど。
そんなことを考えながら家に向かうと、ドアの前に立つ悠斗くんの姿が、視界に入り込んできた。
「悠斗くん……!」
「あ、玲矢。おかえり」
「どうしたの。鍵、忘れちゃったとか……」
「違うよ。玲矢のこと、待ってた」
「え……」
「よく考えたら、連絡先も交換してないし、まだ帰ってなさそうだったから」
ちょうどよかった。
これでお礼を伝えられる。
「俺、悠斗くんにお礼を言おうと思ってたんだ。俺のことで、悠真くん、怒ってくれたんだよね」
「ああ、うん。それね」
「今日、ちゃんと謝ってくれたよ。少し話もできたし、おかげでちょっと悠真くんのことわかった気がする。俺のことも、わかってもらえたような気がするし……」
もしかしたら、悠真くんとも仲良くできるかも……。
そんな淡い期待を抱くけど、そもそも悠真くんは俺に近づけない。
調子に乗るのはやめようと、口を噤んで悠斗くんを窺う。
「悠斗くん……?」
悠斗くんは、なにか考えているのか、複雑な表情を浮かべていた。
「ああ、ごめん。なんでもない。ちょっと気になることがあるんだけど……今日、玲矢の部屋、遊びに行ってもいいかな」
「え……」
突然のお誘いで、顔が熱くなってしまう。
悠真くんのことで少し忘れていたけれど、昨日、俺は悠斗くんのことを思い出しながら、してしまったのだ。
そんな本人を、またあの部屋に入れるなんて……。
「変なこと考えてる? 顔、赤いけど」
「か、考えてないよ」
少し考えたけど。
「その……前みたいなことは……」
「嫌?」
「嫌っていうか……迷惑かけちゃうから」
「俺は全然迷惑じゃないし、またしたいよ」
あ、この人、またうっとりしてる。
興奮してるんだろうか。
冗談なのか本気なのかわからない。
俺は、どうしたいんだろう。
「だめ?」
その聞き方はずるい。
断わり辛くなってしまう。
悠斗くんは、わかっててそういう聞き方をしていそうだけど。
「とりあえず、気になることっても気になるし、いいよ」
そう答えると、悠斗くんは嬉しそうに、笑ってくれた。
昨日のことを思い返す。
悠斗くんに合わせる顔がない。
悠斗くんなら許してくれそうな気もするけれど、当然ながら、バラす気もない。
1コマ目、そもそも悠斗くんは同じ講義だろうか。
いつもより早く来てしまったため、学生はまだ数人しかいなかった。
後ろの方の適当な席に着いて、教科書を取り出す。
こういうとき、一人でいる生徒に声をかけられたら、友達も増えるんだろうけど。
あいにく俺にその勇気はないし、話しかけられる魅力もない。
昨日の悠真くんの一件で、より実感させられた。
ああいうのは住む世界が違う人たちだと思って、気にしないことにする。
高校でもないし、関わらないようにしようと思えば、関わらずに生活できるのは都合がいい。
悠斗くんが俺に声をかけてくれたのは、やっぱり霊のおかげだろう。
そんなことを考えていると――
「おい」
少し離れた場所から、声をかけられる。
まさかとは思ったけど、顔をあげると、声の主は俺を見ていた。
悠真くんだ。
「えっと、俺……?」
さすがに警戒してしまう。
「いいか、動くなよ」
「う、うん……」
俺はわけもわからず、体を強張らせる。
動かないようにしていると、悠真くんの方から、少しだけ近づいて来てくれた。
二人で話すにしてはちょっと不自然な距離を保ったまま、悠真くんが話し始める。
「昨日は悪かった。あんな態度取って」
「う、ううん。俺が急に近づいたから……」
「悠斗から聞いたよ。遊び半分で、あの家住んでるわけじゃねぇって」
俺のこと、軽いノリで好き好んで事故物件に住んでるやばいやつ……みたいに思ってたのか。
もちろん最終的に決めたのは俺だし、嫌々でもないから、好きで住んでいることには変わりないんだけど。
「昨日の夜、家でしっかり怒られた」
「悠斗くんに……?」
「ああ。言っとくけど、別にお前のことが嫌いとか、そういうことじゃねぇから」
そういえば、俺を睨んでいたわけじゃないって、悠斗くんも言ってたっけ。
「もしかして……俺に憑いてるやつのこと、睨んでた?」
「……まあ、そういうこと。目は合わせねぇようにしてたけど」
たぶん悠真くんも、見えることは秘密にしているんだろう。
俺になら言ってもいい……悠斗くんに怒られて、言った方がいいって思ってくれたのかもしれない。
俺自身が睨まれたわけじゃないとわかったおかげで、少し気が晴れる。
「近づくなってのも、俺の体質の問題だから気にすんなって言いたいとこだけど、あんな態度取って気にならないはずねぇだろうし、さすがに悪かった」
「う、ううん。その……体質の問題って、悠真くんは近づくとどうなるの?」
「寒気がするっつーか……とにかく近づきたくねぇ。けどお前が気持ち悪いとかじゃねぇよ。お前が連れてるそいつらが苦手ってだけ」
「連れてる……そいつら……」
複数……なのか。
そういえば、悠斗くんより悠真くんの方が敏感なんだっけ。
同じように第六感があって、いろいろ見えている悠斗くんは平気でも、悠真くんは体が拒否反応を示してしまうってことだろう。
たとえば同じ虫を見ても、めちゃくちゃ気持ち悪く感じる人もいれば、平気で触れる人もいる。
もしかしたら、そんな感じなのかもしれない。
「お前、体……マジで平気なのかよ」
悠真くんの視線が突き刺さる。
「一応、平気だよ」
「それに関しては、ちょっと興味あったりすんだよな。お前みたいなやつの意見、聞ける機会もそうないし。悠斗が触れたりしても大丈夫だったんだって?」
「う、うん……触った……のかな」
俺自身は触られたけど、霊を触ったのかどうかはよくわからない。
「……それで、お前は見えてないんだよな」
「うん……」
たぶんこの人に嘘をついたところで、すぐに見破られてしまうだろう。
俺は素直に白状する。
「まあ、それだけ見えてて平然としてたら、怖ぇしな……」
悠真くんは少し視線を逸らして、苦笑いしていた。
「けど、感じてんだろ」
「感じてって……」
どういう意味かわからなくて、顔がかぁっと熱くなる。
「……変な意味じゃねぇから」
なにか察したのか、悠真くんはすぐさま言葉をつけ足した。
「えっと……気配とか、そういうこと?」
「まあそんな感じ。見ててなんとなくわかるけど、自覚はねぇみたいだな」
「感じてる……自覚?」
よくわからない……ってことは、自覚がないってことか。
「悠斗は平気そうだし、あいつに任せるけど。ひとつ、忠告しといてやる。悠斗の言うこと、真に受けすぎんなよ」
「え……」
悠真くんは、俺を見てニヤリと笑う。
真に受けすぎるなって、どういうことだろう。
嘘……つかれてるってこと?
「ちなみに、昨日お前のこと笑ってたやつらだけど」
「あ……うん……」
悠斗くんについて、もう少し聞きたかったけど、話を変えられてしまう。
昨日笑ってたやつら……悠斗くんに声をかけようとして、くすくす笑われたことを思い出す。
「見えてもねぇのに笑うとか意味わかんねぇし、むしろアイツらの方が友達になれねぇって俺は思ってるから」
「そう、なんだ……」
俺に憑いているものが見えているうえで嫌悪感を示した悠真くんと、なにも見えていないのに、見下すように笑ってた女の子たちとでは、雲泥の差がある。
一緒にして欲しくないってことだろう。
ただ、俺はなにも見えていないから、悠斗くんや悠真くんの言葉を信じるしかない。
「それと、悠斗が気にして見てるみてぇだけど、一応、少しは自分でも気をつけろよ」
「え……気をつけるって……?」
霊のことだと思うけど、見えるわけでも感じるわけでもないのに、どう気をつければいいんだろう。
「お前、気持ちよくなってたりしねぇ?」
「気持ちよく……?」
「自覚させていいのかわかんねぇけど……」
悠真くんは、少し迷うようなそぶりを見せた後――
「変な意味じゃなくてさ。心地いいとか、そんな感じ」
そう言葉を続けた。
軋むベッドの音で興奮してしまうのとは、また別の話だろう。
「うとうとしちゃうことなら、よくあるけど……」
大したことを言ったつもりはないけど、悠真くんは少し顔をしかめていた。
「で、でも、気持ち悪くなったりはしてないよ」
「気持ち悪くなる方が警戒できる分、マシってこともあんだよ。たとえば……そうだな。風呂場で湯船に浸かったまま寝ちまうとか」
「あ、あれ、気持ちいいよね」
「実際は寝てるんじゃなくて、気を失ってるんだって言うだろ。そんな感じ。つーか、やっぱあぶねぇな、お前」
湯船では、あったかくて気持ちよくて寝ちゃってるんだと思ってたけど、どうやらそうとも限らないようだ。
のぼせて気が遠くなっているのなら、悠真くんの言うようにかなり危ない。
「俺が普段うとうとしてるのが、そんな感じってこと……?」
「寄りつかれて、気持ちよくなって、そのまま……」
そのまま。
そのまま、なんだって言うんだろう。
わからないけど、ゾッとする。
あっちの世界に連れて行かれるとかそういうこと?
「……そろそろ行くわ」
「あ、うん」
結局、そのままどうなってしまうのか、悠真くんは口にしなかったけど、話を切り上げられてしまい、それ以上、聞くことはできなかった。
悠真くんは、いつの間にか来ていた悠斗くんのところへと向かう。
入れ違いで、俺の隣に誠がやってきた。
「おはよ。俺より早いなんて珍しいな」
「たまにはね。誠こそ珍しいな。もうすぐ講義始まるってのにギリギリじゃん」
「少し前から来てたよ。なんか話し込んでるみたいだったから、声かけなかっただけ」
そうだったのか。
全然気づかなかった。
俺って鈍感なのかな。
「和解できた?」
「喧嘩してたわけじゃないけど、昨日のこと謝ってくれた」
「ふぅん。よかったな」
誠は気に掛けてくれるけど、深くは聞いてこない。
その距離感が、ありがたかった。
今日は、悠斗くんと話をする隙もなく、すべての講義を終える。
家が隣でも、俺と違って悠斗くんにはたくさん友達がいるんだろうし、今日は1コマ目以外、同じ講義はないみたいだった。
同じ講義があったところで、なかなか話せそうにないけど。
悠真くんと和解できたのは、たぶん悠斗くんのおかげだ。
そのお礼くらいは伝えたい。
ただ、悠真くんが悠斗くんの言うことを真に受けすぎるなって言ってたのは気になるけど。
そんなことを考えながら家に向かうと、ドアの前に立つ悠斗くんの姿が、視界に入り込んできた。
「悠斗くん……!」
「あ、玲矢。おかえり」
「どうしたの。鍵、忘れちゃったとか……」
「違うよ。玲矢のこと、待ってた」
「え……」
「よく考えたら、連絡先も交換してないし、まだ帰ってなさそうだったから」
ちょうどよかった。
これでお礼を伝えられる。
「俺、悠斗くんにお礼を言おうと思ってたんだ。俺のことで、悠真くん、怒ってくれたんだよね」
「ああ、うん。それね」
「今日、ちゃんと謝ってくれたよ。少し話もできたし、おかげでちょっと悠真くんのことわかった気がする。俺のことも、わかってもらえたような気がするし……」
もしかしたら、悠真くんとも仲良くできるかも……。
そんな淡い期待を抱くけど、そもそも悠真くんは俺に近づけない。
調子に乗るのはやめようと、口を噤んで悠斗くんを窺う。
「悠斗くん……?」
悠斗くんは、なにか考えているのか、複雑な表情を浮かべていた。
「ああ、ごめん。なんでもない。ちょっと気になることがあるんだけど……今日、玲矢の部屋、遊びに行ってもいいかな」
「え……」
突然のお誘いで、顔が熱くなってしまう。
悠真くんのことで少し忘れていたけれど、昨日、俺は悠斗くんのことを思い出しながら、してしまったのだ。
そんな本人を、またあの部屋に入れるなんて……。
「変なこと考えてる? 顔、赤いけど」
「か、考えてないよ」
少し考えたけど。
「その……前みたいなことは……」
「嫌?」
「嫌っていうか……迷惑かけちゃうから」
「俺は全然迷惑じゃないし、またしたいよ」
あ、この人、またうっとりしてる。
興奮してるんだろうか。
冗談なのか本気なのかわからない。
俺は、どうしたいんだろう。
「だめ?」
その聞き方はずるい。
断わり辛くなってしまう。
悠斗くんは、わかっててそういう聞き方をしていそうだけど。
「とりあえず、気になることっても気になるし、いいよ」
そう答えると、悠斗くんは嬉しそうに、笑ってくれた。
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