ツいてるなんて聞いてない!

水無月

文字の大きさ
10 / 13

10「強いの好きでしょ?」

しおりを挟む
 その日の夜、7時頃――
 風呂を済ませてきた悠斗くんを出迎える。
「お邪魔します」
「なんか荷物多そうだけど」
「ご飯作ろうと思って」
 手にした袋には、夕飯の材料が入っているようだ。
「また作ってくれるんだ?」
「うん。つまり泊めて欲しいってことなんだけど」
 泊めること自体は嫌じゃない。
「別にご飯がなくても泊めるよ。霊が出るのは0時くらいみたいだし、泊まらないと調べられないもんね」
「それなんだけど」
 なにか違うんだろうか。
 首を傾げる俺の頬に、悠斗くんが手を添える。
「0時に出るんじゃなくて、玲矢が寝るのに合わせて出てるんじゃないかな」
 たしかに、ベッドで待機している可能性もある。
 俺は見えないけど常にそこにいて、ベッドに寝転がることが動き出すきっかけなのかもしれない。
「それと……別に霊が目当てってわけでもないから」
 悠斗くんはそう言うと、またうっとりした表情を俺に向けてきた。
 その顔、なんかドキドキするからちょっと苦手なんだけど。
「と、とりあえず部屋、行こう」
 玄関で立ち話もなんだし。
 どういうつもりかわからないけど、悠斗くんに頬を触れられているのも緊張する。
 ひとまず俺は悠斗くんの手から逃れると、キッチンに案内した。

 あいかわらず、慣れた手つきで料理をする悠斗くんを、遠目に見つめる。
 手伝いたい気もしたけど、さっき聞いたら遠慮されたし、俺の腕じゃ逆に邪魔になってしまいそうだ。
 そのかわり、俺は泊めてあげられるし、霊のことも調べさせてあげられる。
 そう思ったけど、結局、霊頼りで、俺自身ができていることはなにもない。
 霊がいなかったら、俺と悠斗くんの関係は、どうなっていたんだろう。

「お待たせ」
 そう言って、悠斗くんが持って来てくれたのはオムライスだった。
 悠斗くんの分と俺の分、テーブルへと運んでくれる。
「ありがとう」
 俺の前に置かれたオムライスには、ケチャップでハートマークが描かれていた。
 たぶん、深い意味なんてない。
 それでもつい、じっと見つめていると――
「誰にでもこうするわけじゃないよ」
 悠斗くんが告げる。
「え……」
「前に勘違いしちゃう人、いると思うって言ってたから。この際、はっきり言っておこうと思って。勘違いされてもおかしくないようなこと、好きでもない相手にわざわざしないよ。面倒なことになるだけだし……ね」
 たしかに勘違いされるのは面倒だろう。
 じゃあ、これはいったい……。
「……食べて? 冷めちゃう前に」
「う、うん。いただきます」
 はっきり言っておこうなんて言ったくせに、肝心なところで濁される。
 これは勘違いされてもおかしくないことだろう。
 勘違いじゃないのか?
 ひとまず促されるがまま、オムライスを口に運ぶ。
「おいしい……!」
「本当?」
「うん、毎日作って欲しいくらい!」
「いいよ」
「いや……そんなことさせられないし、冗談だよ」
 悠斗くんも、冗談かもしれないけど。
 嘘でも冗談でも、そんな風にいいよって言ってもらえるのは、やっぱり嬉しく感じた。



 今日は、悠斗くんが来る前に風呂は済ませてた。
 ご飯の後、歯磨きをして、いつでも寝られる状態でベッドの部屋へと移動する。
「そういえば、夕方言ってた気になることって、なにか聞いてもいい?」
 ベッドを背もたれにして、床に座りながら悠斗くんに尋ねる。
 悠斗くんも、俺の右隣でベッドにもたれながら、口を開いた。
「朝、悠真と話してたよね」
 なんだ、そのことか。
「気になることなんて言うから、なにかと思ったよ」
 霊のことかと思っていたけど、どうやら違うらしい。
 少し気が抜ける。
「夕方にも少し話したけど、大丈夫だよ。俺も、悠真くんのこと理解できた……つもりだし、理解してもらえたみたいだったし」
 そういえば結局、ちゃんとお礼を言えてなかったと思い出す。
「悠斗くん、ありがとう。いろいろ言ってくれて」
「うん。よかった」
 よかった。
 口ではそう言ってくれているのに、横目で見た悠斗くんの表情は、なんだか浮かない様子で、不安が押し寄せる。
「悠斗くん……?」
「怒ったのは俺だし、謝った方がいいって言ったのも俺だけど……先に、伝えておきたいことがあって」
「先にって、なにより先に?」
「玲矢が悠真とこれ以上、仲良くなるより先に」
 そういえば、悠真くんは体質的に霊が無理みたいだった。
 俺と一緒にいることが、悠真くんに悪い影響を与えているのかもしれない。
 悠斗くんが悠真くんのことを心配するのも当然だ。
「だ、大丈夫だよ。俺、悠真くんに近づかないようにするし」
 そう悠斗くんの方も見れずに告げる。
「え……」
「ちょっと残念だけど……今日みたいに距離を取ったまま話したり、気分が悪くならないように考えるから……」
 だいたい悠真くん自身、俺に近づかないだろう。
「なんなら、話さなくても……」
 正直、仲良くなってしまった後だったら、もっとショックだろうけど、悠真くんとは、まだ少し会話をした程度の関係だ。
 悠斗くんが言うように、悠真くんとこれ以上、仲良くなるより先に、伝えてもらってよかったかもしれない。
「優しいね。悠真のこと、心配してくれてるんだ?」
「悠斗くんもでしょ」
「違うよ」
 違う?
 どういうこと?
 顔を横に向けると、思った以上に近くて、なんだか照れくさく感じた。
 それでも、悠斗くんがじっとこっちを見るもんだから、目が離せない。
「わかってたんだ。俺より悠真の方が第六感が強いから。きっと玲矢のこともたくさん理解できるってね」
「そう、なの……?」
「よく見えるし、よく感じる。どんな霊か、どんな影響を与えているのか、きっと俺より正しく分析できるけど……俺の方が好きだから」
 たしかに悠真くんは俺の霊が苦手で、悠斗くんはそうでもない。
 そう思ってたけど――
「好き、だったんだ……」
「うん、好き」
 悠斗くんの顔が近づいてくる。
 どうすればいいのかわからなくて、動けないでいると、そのまま悠斗くんに口を塞がれてしまう。
 なんで……どうして。
 これって、キスしてる……?
「あ……俺……んんっ!」
 いったん、口が離れたと思ったのに、また塞がれて、頭が真っ白になる。
 悠斗くんの手が、俺の頭を優しく掴んだかと思うと、唇の隙間からなにか入り込んできた。
「ん……」
 悠斗くんの舌……?
 もちろん、こんなのはじめてだし。
 でも……気持ちいいかもしんない。
 会ったばかりだけど、悠斗くんはすごくかっこいい。
 かっこよければいいってわけでもないんだけど。
 俺にないものをたくさん持っている。
 それなのに、俺なんかに構ってくれて、その上、キスまで……。
「ん……んん……」
「いや……?」
 至近距離で悠斗くんに尋ねられる。
 小さく首を横に振ると、また唇が重なった。
 たくさん舌が絡まって、うとうとしてしまう。
「んぅ……はぁ……ん……」
「……息苦しい?」
「はぁ……少し……」
「そう。でも、気持ちいい?」
 悠斗くんの言う通り、キスの最中は少しだけ息苦しかったけど、それより気持ちいい。
 小さく頷くと、悠斗くんはそっと頭を撫でてくれた。
「はぁ……やっぱりかわいい。前のときもそうだったけど、玲矢って気持ちいいとうとうとしちゃうよね」
 そうなのか?
 そうなのかもしれない。
「……みんな、そうじゃない?」
「少しはそうかもしれないけど、俺はそれ以上に興奮しちゃうから」
 いま、悠斗くんは興奮してるんだろうか。
「玲矢、わかってないみたいだから、俺が教えてあげる」
「なに……」
 なにを教えてくれるんだろう。
 そう思っていると、ベッドと俺の間に悠斗くんが体を割り込ませてきた。
 俺の背後に回った悠斗くんが、後ろから俺の体を抱きしめる。
「昨日は、霊に触られた?」
「え……」
「触られてない?」
「わかんない……」
 そう言っていいのかわからなかったけど、悠斗くんは、もう知っている。
 俺が、なにもわかってないってこと。
「触られた感触はなくても、体は変化したんじゃないかな。いまだって……ほら」
 悠斗くんはなにを思ったのか、俺の着ていたTシャツを捲りあげてしまう。
「なっ……」
「見える? 乳首、勃っちゃってるね」
 言われて自覚した。
 そこがピンと勃ちあがっていることに。
「こ、これは……寒い、から」
 自分でもまったく思っていないいいわけを口にする。
「寒いんだ? じゃあ、温めてあげないと」
「だ、大丈夫……大丈夫だから」
 そもそも本当は寒くもないし。
 慌てる俺の態度がおかしかったのか、後ろで悠斗くんが微かに笑う。
 捲りあげたシャツをおろす気はないらしい。
「前に泊まったときも、ここ……霊に撫でられて、服の上からでもわかるくらいに勃ってたよ」
「そんな……嘘……」
「嘘じゃないんだけどな。信じられない?」
 耳元で囁かれると、その吐息で身震いしてしまう。
 悠斗くんは、嘘つきだって疑われることが嫌いだってのはわかってる。
 でも、これはさすがに信じられない。
 悠真くんだって、悠斗くんの言うことを真に受けるなって言っていた。
 逆に悠真くんの言葉を真に受けていいのか、それもわからないけど……。
「下も、硬くしてるよね?」
 後ろから、シャツを捲り上げられているだけなのに、悠斗くんの言う通り、ズボンが膨らんでいるのが視界に入る。
「これは……その……!」
「いいよ。恥ずかしくないからね。こんないやらしい手つきで撫でられたら、勃っちゃうのも当然だよ」
「こんな……やらしい手つきって……」
「また、教えて欲しい?」
 教えてくれなくていいって俺が言ったら、たぶん解放してくれるだろう。
 違う、解放じゃなくてきっと放置される。
 昨日みたいに、もどかしくて物足りなくて、どうしようもない感覚を味わわされてしまう。
 そんなのごめんだ。
「おし……えて……」
 そう告げると、悠斗くんの右手が、俺が履いているスウェットのズボン越しに硬くなっているモノをそっと掴んだ。
「んぅん!」
 形を確認するようにして、いやらしい手つきで撫で回される。
「あっ……んんっ……んっ、悠斗くっ……」
 少し強くて、抵抗しようと思ったけど、体がうまく動かなかった。
「待っ……んん……んぅ……ん……」
「なに?」
「ぁ……あ……それ……う……つよい、から」
 悠斗くんの腕の中で体が跳ねそうになる。
「玲矢は、強いの好きでしょ?」
 どうやらあえて強くしてるらしい。
「胸もたくさん弄られてるよ。こんな風に……ね」
 今度は悠斗くんの左手の人差し指が、俺の乳首をくにくにと押さえつけていく。
「んぅっ……はぁ……はぁ……あっ……」
「玲矢のこと、ちょっと鈍感だなって思ってたんだけど、まったく見えなくて感じない人よりは、感じてるってことだよね?」
 そう言われても、こんなことをされているせいか、頭が働かない。
「触られてる自覚はないのかもしれないけど、体はその気になってるわけだし……ね」
「んっ……はぁっ……その気になんて……」
「なってるよ。霊が据え膳状態までしあげてくれてるっていうか……こんなの、俺が興奮しちゃうのも、わかるよね?」
 わからない。
 そう言っていいのかすらわからない。
「大学では、まあ憑いてるなぁってだけだったけど、家での玲矢、本当にすごかったよ」
 詳しく聞いていいものか迷ったけど、尋ねるまでもなく悠斗くんの方から教えてくれた。
「ベッドで、すごくエッチな顔してた。顔だけじゃなく、体もね。無自覚だったかな。くねらせて、腰まで浮かせて……駄目だよ、あんな姿、人に晒したら……」
「はぁ……ん……俺……!」
「見えない人には、ただ玲矢が少しうねうねしてるだけに見えるかもしれないけど。撫でられて、じわじわ感じてるんだなって思ったら、本当にたまんなくて……」
 悠斗くんの手が、やっと離れてくれる。
 解放されると、なんだか物足りなくて、俺はつい後ろを振り返った。
「ん……したい?」
「俺……」
「いいよ。恥ずかしいなら、霊のせいにすればいい」
 霊のせいでこんなに興奮してるって?
 それはそれでおかしいだろう。
 悠斗くんの手で感じて、悠斗くんに続きをしてもらいたいって思う方が自然だ。
「悠斗くんは……霊としたいの?」
 いつも引っかかっていた。
 いつもってほど、なにかしてるわけじゃないけど。
 悠斗くんが見ているのは、俺じゃない。
 事故物件の部屋で、霊で、霊に絡まれている俺だ。
 霊が憑いていなければ、悠斗くんが俺を気にすることなんてなかっただろうし、いまだって、俺自身を気にしているのか定かじゃない。
「霊としたいんじゃないよ」
 悠斗くんは、そう言って俺に希望を残してくれた。
 このままじゃ期待してしまう。
「そもそも俺は霊に触られても感じたりしないしね。霊に煽られて、いやらしくなってる玲矢としたい」
「霊に煽られたからじゃなくて……今日は、悠斗くんのせいだよ……」
 そう告げると、悠斗くんがふっと笑った。
「今日は……って?」
「え……あ……」
「昨日もした? 昨日は、誰のせいだったのかな」
 昨日は、悠斗くんに触られたわけでもないのに、興奮してしまった。
 でも、俺は悠斗くんのことを思い出していた。
「俺……」
「霊にいかせてもらった?」
「霊じゃ……なくて……自分で……」
「何か、想像した?」
 本人に直接聞かれて、顔が熱くなる。
 この人はもう、わかっているんじゃないだろうか。
「俺……」
「いいよ。今日は想像しなくていいからね。しようか」
 そう言うと、悠斗くんは俺の体を抱いて、ベッドに乗せてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

「イケメン滅びろ」って呪ったら

竜也りく
BL
うわー……。 廊下の向こうから我が校きってのイケメン佐々木が、女どもを引き連れてこっちに向かって歩いてくるのを発見し、オレは心の中で盛大にため息をついた。大名行列かよ。 「チッ、イケメン滅びろ」 つい口からそんな言葉が転がり出た瞬間。 「うわっ!?」 腕をグイッと後ろに引っ張られたかと思ったら、暗がりに引きずり込まれ、目の前で扉が閉まった。 -------- 腹黒系イケメン攻×ちょっとだけお人好しなフツメン受 ※毎回2000文字程度 ※『小説家になろう』でも掲載しています

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―

たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。 以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。 ​「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」 トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。 ​しかし、千秋はまだ知らない。 レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。

極度の怖がりな俺、ド派手な先輩とルームシェアが決まる

雪 いつき
BL
幽霊が怖い極度の怖がりな由井 明良(ゆい あきら)は、上京した翌日に、契約した部屋が事故物件だと知る。 隣人である鴫野 聖凪(しぎの せな)からそれを聞き、震えながら途方に暮れていると、聖凪からルームシェアを提案される。 あれよあれよと引っ越しまで進み、始まった新生活。聖凪との暮らしは、予想外に居心地のいいものだった。 《大学3年生×大学1年生》 《見た目ド派手な世話焼きバンドマン攻×怖がりピュアな受》

好きな人に迷惑をかけないために、店で初体験を終えた

和泉奏
BL
これで、きっと全部うまくいくはずなんだ。そうだろ?

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...