平凡なアラサー女子ですが、ハイスペ同期と元カレに溺愛されています

優月紬

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歌の中で

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「沙羅、早かったね」
「……嶺二」

 私が嶺二が指定したバーに着くと、彼は本当に私を待っていた。

「あの、渡したいものって……?」
「まだ渡したくないから待って」

 嶺二の様子がいつもと違って見えて、私はどうしていいか分からなくなる。酔っているのかと思ったけれど、そうでもなさそうだった。

「俺さ、沙羅のこと好きだよ」
「ごめんなさい、私は……」

 嶺二は、私の言葉を待っていた。真っ直ぐ、私の目を見つめて。

「私は、他に好きな人がいる。だから、嶺二とは、別れたい」
「嫌だって言ったら?」
「……もう、会えないです」

 私は、嶺二の前に、もらった合鍵を出した。
 私たちの間に、しばらくの間、沈黙が流れた。しばらくして、嶺二は私が出した合鍵を受け取り、黙ってポケットの中にしまった。
 長い長い沈黙が、私達の間に流れた。

「分かった、別れよっか」

 嶺二はそう言って、しばらくまた黙った。私も、何も言えなかった。
 再び口を開いたのは、嶺二だった。

「……俺さ、沙羅のこと好きだよ。だから、沙羅のこと、これからもずっと好きでいてもいい?別れてからも」

 私は、何も答えることができなかった。

「もし俺が好きだって言ったら、それは全部沙羅のことだから。愛してるって言ったら、それも全部沙羅のことだから。この先ずっと、変わらないから。覚えてて」

 嶺二は手元にあったカクテルの残りを一気に飲むと、そのまま私に告げた。

「シンガーソングライターになるよ、俺」

 嶺二は微笑んで、言葉を続けた。

「歌の中で、沙羅のことを一生愛し続ける。俺は、有名になって沙羅の耳にその歌が常に聴こえるようにする」

 それは、今まで嶺二に言われたどんな言葉よりも、特大な愛の言葉に思えた。
 嶺二の目は、最初に路上ライブで見かけた時と同じくらいに、キラキラと輝いて見えた。

「沙羅が言ったんだよ、俺に歌っていて欲しいって。だから責任取って、沙羅はこれからも、一生俺に愛されてね」

 私は、嶺二に向かって微笑んで、頷いた。頷くしかなかった。
 だって、音楽は、誰にも邪魔ができない。嶺二の歌が、自然と私の耳に入ってきたら。それは、誰にも防ぎようがない。どんなに防ごうとしても、私が受け止めたくなくても、受け止めさせられてしまう。音楽は、勝手に耳に入ってきてしまうものだから。
 嶺二は頷いた私を見て、幸せそうに笑っていた。

「はい、これ。渡したかったもの」
「……ありがとう」

 嶺二に渡されたのは、小さい紙袋だった。

「俺、沙羅のこと好きだよ。今までも、これからも」
「私、嶺二のこと大好きだったよ。嶺二のこと、応援してる。今までも、これからも」

 私はさよならと言いかけて、なんとなく口を噤んだ。嶺二も、それ以上何も言わなかった。
 私はなんとなく、そこから動きたくなくなってしまう。だけど、帰らなくては。倉橋の家に。私は嶺二と別れて、バーを後にした。
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