魔法学園最弱の俺が英雄に

結城 もみじ

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第三十六話 お出掛けの準備

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 カケルの戦闘が終わった時、教室の中は赤黒い血溜りが至る所に溜まっていた。
 この残酷な光景を女子生徒たちには見せるわけにはいかなかったので、隣の教室に目を瞑らせたまま一人ずつ案内する。

 全員の案内を終えると『目を開けても良いよ』と言い、皆は目をゆっくり開けだす。
 そして目を開けた同士見合うと、生きていると実感出来たからなのか、涙を流しながら、抱き合う。
 そんな歓喜に包まれている中でただ一人だけ立ち上がり、カケルに駆けていく少女が居た。

 「カケルさん。怖かったです……私怖かったです……」

 「セレスさん。首が苦しい。苦しいから少し緩めて――苦しいっ」

 カケルの愛人へ一足先に進んだセレスだった。
 首に腕を回し、体が密着している体勢。そのせいで大きくて柔らかい胸がさっきから当たっている。

 『お、大きい……しかも良い香りが……じゃなくて』
 
 「胸が当たっている――首が苦しい……」

 彼女の目じりには大粒の涙が溢れている。
 そして耐え切れなくなったのか、小さな子供のように喘ぎながら涙を流し出す。
 涙には今まで溜め込んでいた、恐怖や苦しみといった感情が込められているような気がした。
 そんな状態がしばらく続き、いろいろ溜め込んだものを全て吐き出し終えたのか、ようやく苦しみから解放される。

 「ごめんなさい。色々とスッキリしたから、大丈夫。ありがとうね」

 組んでいた腕を放すと、カケルの正面に立つ。
 そこで何分間か沈黙が続き彼の視線が一点に集中している事に気がつく。
 視線の先を辿っていくと、そこには自分のはだけた服を見ていた。

 それに気がつくと、『キャッ』と小さな悲鳴を上げると、顔を赤らめ、立派に育っている胸を腕で抱きしめるように隠し、その場に座ってしまう。
 
 この場にはセレスのようにはだけている人も居るのだと思い出すと、カケルは色んな部屋を回り、羽織れる物をかき集めた。それらを一枚ずつ手渡しで渡していく。渡した女子生徒が何故か頬を赤らめて、モジモジしていたのを不思議そうに見るカケルであった。 

 最後の一人に配り終えた頃で男子生徒と教師を引き連れたモーリス学園長が現れた。
 始めは焦った表情をしていたが、生徒たちが助かっていることを確認するとホッとしたのか、肩の力が抜けていく。

 「よくやったな。カケル」

 「すみません。何人かは殺してしまいました……」

 このままモーリス学園長に拘束されて騎士団に引き渡されるのかと思っていたら、思ってもいなかった言葉が返って驚く。

 「どうせこの者は国に反逆した罪で処刑が決まっている。別に殺しても問題ないぞ」

 冷静に考えればそうだ。
 この国立魔法学園も国立と名が入っているように、国が保有している。
 と言うことはここを襲撃するということは、国家反逆罪と自然的になるのだ。
 今回のように国外で国が保有する施設、または団体を襲うケースはその国で処罰されず、エリン王国へ身柄を渡し、処罰される規則となっている。
 この場合では帝都からエリン王国へ身柄を引き渡されるだろう。
 もちろん、主悪の根源のザーギもこの一連の事件に関わっているので送られる。

 「今日起きた出来事は忘れた方が良いだろう」

 「はい。そうします」

 感情任せに人を殺してしまったが、これがカケルにとって初めて人を殺す経験となっている。立場がどうあれ殺したのには違いないことをカケルが後悔している事を知っているからこその言葉だろう。

 『大体初めて人を殺すとあの様になってしまうからな。本来なら早く戻らなければいけないが、一日だけ自由な時間を設け、その次の日に戻るとしよう』

 モーリス学園長は心の中で思ったことを言葉で皆に伝える。

 
 その日の内に襲撃者、及び諸悪の根源ザーギはエリン王国へ送られた。


 
 次の日の朝。
 昨日の出来事が何も無かったように皆起き、朝食を食べる。
 だが、普通なのはそこまで。
 残念なことに変化は朝食を食べている最中に起きてしまう。
 
 一番の被害を受けた女子生徒たちは食事をしている内に、だんだん落ち込んだ面持ちに変わっていく。その雰囲気を何とか明るくしようと盛り上げる男子生徒。

 「ほ、ほらこれあげるから元気出せよ」

 「今日はどこに行く? 自由行動楽しみだね!」

 不自然ながらも必死に明るく振舞う光景を何とも言えない表情で見つめるカケル。
 その右隣で大人しくしているが、どこか落ち着かない様子のセレス。
 反対の左隣には新しくカケル家(仮)の第一号のフローラリアがパンを口いっぱいに頬張っている。

 「何か色々と凄い(カオス)だな……」

 早く朝食を食べ終えこの状況から抜け出そうと早食いを始めたとき、一緒に食事をしていたモーリス学園長が手を二度叩き注目を集めた事で、即座に中断する羽目になる。

 「今日一日は聞いているように自由だ。ここでゆっくりするのも良し。愛人と共にするのも良し。仲間と出掛けに行っても良し。だが迷宮には行くなよ。これだけは守ってくれ。言う事は以上だ。朝食が終わり次第解散!」

 その話の影響なのか、男子生徒が女子生徒に話しかけている内容が全て『一緒に回ろうぜ』や『どこ行く?』と、これからの予定を立てている。

 そんな中カケルだけ、計画を立てるどころか会話すらしてない。
 訳は実に分かりやすい。
 既に計画を班の皆と一緒に練ったからだ。

 昨日何も気にしていない感じだったギルが、明日に計画するのは時間が勿体無いと提案し話が進んでいき、どこに行くか決まった。
 その為今日の朝にバタバタしなくて済んだので、これについては良かったと思っている。

 思い出しながらご飯を食べていたらいつの間にか無くなり、食べ終えていた。
 何故か無意識のうちに右隣のセレスを見ると、残り三分の一だったのでフローラリアの面倒を見るついでに待つことにする。と言ってもそこまで残っていなかった。

 そしてフローラリアが食べ終え、まだ食べ終えていない彼女にチラチラと気を配っていると、それに気がつきカケルを見る。

 「カケルさん。私がフローラリアちゃんと一緒に着替えるので待っていなくても良いですよ。皆を待つ必要は無いですよから」

 「そ、そう? じゃあ先に着替えて待ってるよ」

 「はい! カッコいい服でお願いしますね!」

 最後にちゃっかり自分のお願いを混ぜて可愛く微笑む。
 流石に考えていなかった応答に対してただ、苦笑いでお返しするしかなかった。
 
 食器を片付け、自分達の班の部屋に戻り各寝室で学生服から私服に着替える。
 私服は遠征準備の際ミーニァがあれと、これと突っ込んでくれたおかげで、セレスの言うカッコいい服もあった。

 それとフローラリアの服に関しては前日に買っていたので、それを着用することになるだろう。

 「カッコいい服装なぁ~やっぱりこうも沢山服があると悩むもんだな。セレスの言うことを聞いていて正解だったな」

 独り言をぶつぶつと言いながら、鏡を見ながら服が自分に似合っているか当てて確かめていく。
 
 「これも違う。これは派手すぎ。これも……無し!」

 色々と服を当てて試行錯誤を繰り返していたとき、ようやく『これだ!』と心の底から思うものが見つかった。
 だがその服を見つけた頃には約束の時間を迎えようとしていたのだ。

 「やばい。急がないと皆に怒られる」

 カケルは焦りながらも選んだ服を着用し、歯磨きを急ぎながらも丁寧に終わらせ、顔は起きたときに洗っていたので最後に身なりを整え集合場所の噴水広場に全力疾走で駆けていった。
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