ゆうしゃの夏、まほうつかいの空

えんびあゆ

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第3章 ゆうしゃのしるしを巡る冒険

第26話 秘密の地図とゆうしゃのしるし[14]

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夕暮れの川沿いを出発してから、そらたとなつみは、不意に笑い合ったり、じっと沈黙したりしながら歩き続けていた。
今、二人は最後のゆうしゃのしるしである"こえのある ばしょ"に向かっていた。
二人の間には、言葉にしなくてもわかる静かな絆があった。

「ねえ、そらた……次の“しるし”、どう思う?」

なつみがそっと、地図を胸に抱えるようにして言った。
「こえのある ばしょ」の文字が、紙面にやわらかな曲線を描いていた。

「こえ……声?」

そらたはつぶやくように問い返す。
「なっちゃん、この声って、たぶん——お姉ちゃんの声かな?」

「わたしもそう思う……お姉ちゃんが、『またがんばってね』って小さな声で励ましてくれるような場所」

歩きながら、なつみは思い出すようにつぶやいた。

「小さいころ、お姉ちゃんがよくよしよしって頭を撫でてくれたの。『大丈夫だよ、なつみ』って。その声が、体に染みこんでる感じがする」

そらたは、なつみを見る。
彼女の瞳は夕暮れの影に少し揺れながらも、まっすぐに空を見据えていた。

「じゃあ、声が届く場所……神社とか?それとも、坂の上の風が吹く所?」

「……もしかしたら、公園の野外ステージかも」

意外な答えに、そらたが首を傾げる。

「野外ステージ?」
「うん。学校帰りに通る公園で、小さい舞台があるんだよ。あそこで、お姉ちゃんが歌とか、朗読とか聞かせてくれたことがあって……声が響く場所だったんだ」
「そうなんだ」

二人はゆっくりと足を進め、公園へと向かった。
夜の帳が下り始めるが、まだ街灯は点いていない暗がりを、そっと足音を響かせずに歩いた。

公園のステージは、柔らかなライトも消え、風が通るだけの静けさだった。
薄暗い草地に腰を下ろし、そらたとなつみは向かい合った。

「なっちゃん、お姉ちゃん、ここで歌ってたの?」
「うん。昔ね、うたってくれた風景の記憶はあんまりはっきりしないけど……でも、声だけは、ずっとずっと覚えてるんだ」

なつみはそっと目を閉じる。
風が彼女の耳をくすぐり、「ありがとう」「また頑張ろうね」という声が聞こえたような錯覚を抱く。

「……お姉ちゃんの声が、風に乗って、ここにある気がする」

心の中の静寂が、そう囁くようだった。
そらたはその横で、じんわりと胸が熱くなるのを感じていた。

その瞬間、なつみの胸の奥に、ひとつの記憶がくっきりと浮かび上がった。
あの日――お姉ちゃんが、いなくなった日のこと。

夏の終わりだった。病室の白いカーテンがゆれていて、風の音はなかった。  
でも、お姉ちゃんは、最後の力をふりしぼるように、微笑みながら言った。

「……またね、なつみ。きっと、どこかで声を届けるから」

泣きそうになる自分を必死で抑えた。  
その手は、冷たくなっていたけれど、声だけは、不思議とあたたかかった。

――あのとき、たしかに“声”は残っていた。

それが今、ここに響いている気がする。

「なんで、今まで忘れていたんだろ……お姉ちゃんが居なくなった日のこと……」

なつみの言葉に呼応するように、そらたはそっと胸ポケットに手を伸ばした。
「そういえば……」
と彼は小さく息をのむ。

そこには、あの日、図書室でほのかさんからこっそり預かったメモがあった。
「大切なものは、きっと ひかりの先にあるよ」
──そんな文字が静かに刻まれていた。

「ぼく、ずっと胸にしまってて……でも、今この声を感じてる場所なら、なっちゃんに届けられる気がした」

そう語る表情は、緊張と優しさが混ざっていた。
そらたはそっとメモを差し出す。

「これ、ほのかさんからもらったものなんだ。あの時は意味がわからなかったけど、今なら…なっちゃんに読んでほしい。きっとそれには意味があるから」

なつみはそっとそれを受け取る。
ステージの縁に座ったまま、そっと開いた。
そこには淡く、丁寧な文字でこう書かれていた。

【たとえ声が聞こえなくても、心にはいつも“声”があるよ】
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