ゆうしゃの夏、まほうつかいの空

えんびあゆ

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番外編:『まほうの手紙、ゆうしゃへの道しるべ ―結城ほのか、3年前の物語―』

第7話 しるしを描く手と思い出の足跡[2]

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次にふたりが向かったのは、少し離れた空き地だった。
住宅街の端、雑草が伸び放題になっているその場所には、かつてふたりが「ひみつ基地」と呼んだ古びたトタン屋根の倉庫が、まだ残されていた。

「ここ……まだあるんだ」
ほのかは、少し驚いたように口にした。

倉庫の外壁は所々サビに覆われ、時間の経過を物語っていた。けれど、屋根の角度やドアの軋み、窓ガラスの曇りまでもが、昔の記憶とそっくりで、ふたりは言葉をなくしたまま見つめていた。

ギィ……と金属の音を立てて、ドアを開ける。
中は薄暗く、ほんのり埃の匂いが漂っていた。けれど、その奥には確かに、あの頃の面影が残っていた。

天井には、ところどころ隙間ができていて、そこからやわらかな夏の陽が斜めに差し込んでいる。
ほのかはしばらく無言でその光を見上げていた。

「“ひみつの そら”は、ここがいい」
彼女は静かにそう言った。

ほのかは小さなガラスの小瓶をバッグから取り出した。瓶の中には、淡い紫色の便箋が丁寧に折られて入っている。
その紙には、たった一文だけ――

―――そらをながめて おもいだして。

「記憶」のしるし。
思い出してほしいのは、楽しかったことだけじゃない。悲しかったことも、泣いたことも、ちゃんと覚えていてほしい。
それらが“なつみ”という人の芯になるから。
そう思ったからこそ、ほのかはこの場所を選んだ。

倉庫の隅に置かれていた古びた脚立に登り、ほのかは小瓶を手にした。
脚立がわずかにきしむ。
けれど、その足取りは揺るがなかった。

「ここなら、きっと風にも雨にも負けない。なつみがちゃんと気づけるように」
ほのかは、天井近くの梁の釘に、細い麻紐で瓶を括りつけた。

「……ほのか、気をつけて」
下からひよりが心配そうに見上げる。
その声に、ほのかは微笑んで頷いた。

瓶が吊るされた場所に、陽の光がひとすじ射し込んだ。
その瞬間、小瓶のガラスがほんのりきらりと光る。

「……空を見てると、なにか思い出すよね。楽しかったこととか、泣いたこととか」
ほのかは、静かにそうつぶやいた。

「うん……ひよりにも、そんな空ある?」
「あるよ。雨上がりの放課後、ほのかと並んで帰った空、まだ忘れてない」
「ふふ……わたしも、覚えてる」
ふたりは顔を見合わせて、ふっと笑った。

少しの沈黙。
その静けさが、逆にふたりの心の奥を通わせていくようだった。

「このしるしは、きっとなつみに届く。……思い出って、目に見えないけど、大事な“光”になるから」
「うん」
「わたし、忘れられてもいい。でも、なつみの中に残ってくれたら、それでいいんだ」

それは、ほのかにしか言えない言葉だった。
大切な誰かの未来のために、自分の姿を少しずつ手放していく――
それが、彼女の描く「ゆうしゃ」の姿だったのかもしれない。

ひよりはそっと、ほのかの手を握った。
その体温が、ふたりの“しるし”のように、確かに残った。

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