ゆうしゃの夏、まほうつかいの空

えんびあゆ

文字の大きさ
35 / 68
番外編:『まほうの手紙、ゆうしゃへの道しるべ ―結城ほのか、3年前の物語―』

第6話 しるしを描く手と思い出の足跡[1]

しおりを挟む
まだ夏の空が高く澄んでいた、ある日の午後。
アスファルトの照り返しに揺らめく空気のなか、ほのかとひよりは、団地の一角にある古びた公園に立っていた。

小さな広場の中央には、色褪せた回転遊具がきしみを上げながらゆっくりと回っている。
風もないのに、誰かの記憶だけがそこを動かしているかのように。
その隣には、さびついたブランコが、風に揺れるでもなく、ただ静かに吊られていた。

この場所は、どこにでもあるような小さな公園だった。
でも、ほのかにとっては、ここが「最初のしるし」を描くにふさわしい、大切な記憶の場所だった。

「……ここだよ、最初の“しるし”は」

ほのかはそうつぶやいて、バッグの奥から、小さな銀色の缶を取り出した。
手のひらにすっぽり収まるサイズ。
中には、丁寧に折りたたまれた紙のメモが入っていた。
その文字は、何度も何度も書き直し、推敲を重ねて選ばれた、たったひとこと。

——“ゆうしゃ”は、つまずいても、また立ち上がるんだよ。

回転遊具の下、砂の間にある小さな地面の窪み。
ほのかはしゃがみこみ、手で砂をよけると、そっと缶を差し込んだ。
それはまるで、大切な想いを未来へ埋めるような、小さな儀式のようだった。

「なつみ、昔ここで転んでね……」
ほのかがぽつりと語りはじめる。

「まだ保育園のころだったかな。走ってきて、回転遊具のところで思い切り転んで、膝すりむいて、泣いちゃったの」
「……うん」
「でも、“ゆうしゃだから平気!”って、鼻をすすりながら、また走って行ったの」

ふっとほのかの顔に微笑みが浮かぶ。
その姿が、どれだけ誇らしくて、どれだけ愛おしかったか。
あの時、何もできずに遠くから見ていただけだったけど、その勇気だけは、心にずっと残っていた。

「だからね。ここに、“勇気”のしるしを残すの。なつみが、つまずいたときに思い出せるように」

ひよりは黙って見守っていたが、その目の奥には、こらえきれない想いが揺れていた。

「……ねえ、ほのか」
「なに?」
「やっぱりこれ……すこし、こわくない? いつ、だれが見つけてくれるかもわからないまま、“たからもの”を埋めるなんて」

ほのかは手を止め、ほんの一瞬だけ、空を見上げた。
雲ひとつない青のキャンバス。
その先に広がる“未来”を想うように。

「うん、ちょっとだけね。でも、信じてるから」

砂をかぶせながら、彼女はそう言った。

「きっと、なつみはたどってくれる。あの子は、ね……わたしより、ずっと強いから」

その言葉には、決意と祈りと、ほんの少しの寂しさが滲んでいた。
誰にも知られない“しるし”。
でもそれは、たしかに心から手渡された、優しさのかたちだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶

菱沼あゆ
キャラ文芸
 冷徹非道と噂の皇帝陛下のもとに、これまた悪しき評判しかない異国の王女、琳玲がやってきた。  琳玲は皇后の位は与えられたが、離宮に閉じ込められる。  それぞれの思惑がある離宮の女官や侍女たちは、怪しい薬草で皇帝陛下たちを翻弄する琳玲を観察――。  悪徳公主と冷徹皇帝陛下と女官たちの日々は今日も騒がしい。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

処理中です...