ゆうしゃの夏、まほうつかいの空

えんびあゆ

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完結編:『ゆうしゃの誓い、まほうつかいの旅立ち -さよならの向こうにあるもの-』

第1話 ずっと一緒に冒険を[1]

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※この話は『ゆうしゃの夏、まほうつかいの空』本編から1年半後の後日談であり完結編です。
 先に本編『ゆうしゃの夏、まほうつかいの空』及び番外編である『まほうの手紙、ゆうしゃへの道しるべ ―結城ほのか、3年前の物語―』を読むことをお勧めします。

春の風が町をやさしく撫でる朝。
東の空にはやわらかな光が差し始めていて、校門までの道はほんのりと桜色に染まり始めていた。
小学校の門をくぐると、校庭の桜の枝先には小さなつぼみがいくつも膨らんでいる。
まだ冬の冷たさが空気に残っているはずなのに、吐く息はもう白くなくて、洋服の上から風を感じると、心の奥まであたたかくなっていく。
「もうすぐ卒業式だね」
誰かのそんな声が耳に入るたび、なつみは「そうだね」と微笑むけれど、その実感はどこか遠いもののように思えた。

思い返せば、四年前の春も、こんなふうに季節が動きはじめていた。
まだ小さかったなつみは、姉のほのかを亡くした悲しみの中で、どうやって明日を迎えたらいいのかさえ分からなかった。
けれど、今から1年半前――5年生の夏休みに姉の遺した"ゆうしゃのしるし"をそらたとともに巡った“冒険”は、なつみの中に新しい何かを芽生えさせてくれたのだ。

あの夏、そらたと冒険した時のことは、今も鮮明に覚えている。
図書館の静かな空気、窓から差し込むまぶしい光、背の低い本棚に隠れながらも、私を支えてくれた優しい声の男の子。
最初はちょっと頼りなさそうで、おっとりしたそらたに「まほうつかいになりたい」なんて言われたとき、なつみは思わず笑ってしまった。

でも、その日から始まったふたりの冒険は、なつみにとってただの遊びじゃなかった。

夏休みの間中、図書館の奥や、公園の秘密の場所、校舎の裏側――
なつみとそらたは“ゆうしゃのしるし”を探して、毎日どきどきしながら走り回った。
小さな地図を手に、時には謎解きに夢中になり、時には夕焼けの帰り道で他愛もない話をした。
そらたはどんなときもなつみの「ゆうしゃ」としての夢を応援してくれて、なつみが迷ったときは、そっと寄り添ってくれた。

あの夏のある日、道に迷ってしまったこともあった。
ほんの少しだけ不安を見せた私に、「でもこれも冒険だよ!」ってそらたが笑ってくれた。
その声を聞いて、私は「うん!」と元気に答えて、ふたりで広場を駆け抜けた。
その時の心の高鳴りや、浮かぶ虹の色、そらたと見上げた空の広さ――
全部がなつみの“ゆうしゃ”としての思い出に変わった。

そして―――。
“しるし”を見つけて姉のことを思い出しながら、なつみは初めて「強くなりたい」と自分で思った。
あのとき、そらたはなつみの隣で「なつみなら絶対できるよ」と微笑んでくれた。
――その言葉が、なつみの中の小さな勇気の種になった。

気がつけば、あれからもう1年半以上が過ぎた。
背も少し伸びて、心も体も前よりずっと大きくなった。
悲しみだけでなく、新しい毎日や友だち、そらたとの何気ない会話や笑顔が、なつみの中で宝物のように輝いている。

ほのかお姉ちゃんが旅立った春と同じように、また新しい春がやってくる。
その季節を、今はもう、まっすぐな目で見つめられる気がする。
あの日の冒険が、なつみを“ゆうしゃ”にしてくれた。
今もそらたと一緒に、なつみは「未来」という名前の冒険を歩いている。

卒業式がもうすぐそこまで迫っている今、
あの夏のひとときは、なつみの心の奥で、やさしく風のように吹き続けていた。
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