身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美

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第三章 溺愛しだしたら、止める事はできません。暴走開始です。

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―――眩しい。
お腹もすいた。
今、何時だろう?
目を開けるとそこには整った顔が飛び込んでくる。
「おはよう」
龍迫はばっちり目を開けており、上機嫌だった。
「喉が渇いただろう?」
目が合うと恵麻に冷たいお茶を差し出しす。
「ありがとう」
お礼を言ってお茶を飲むと、時計が目に入った。
時計の針がさすのは12時。

・・・12時。
夜の12時じゃないわよね。
お部屋が明るいもの。
いつもは朝の6時。遅くても7時には起きる恵麻にとっては大大大寝坊。
風邪を引いた時でも、能津家では眠っていたら、継母と義姉に嫌みを言われ。
理不尽に用事を押し付けられるので、眠れなかったというのが正しい表現かもしれない。
ぼんやりと、体を起こし触り心地のいい毛布を抱き、背中に龍迫の肌の温もりを感じる。

・・・温もり。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!!!」
思わず毛布を持って立ち上がると、龍迫はシャツの前をはだけてはいるが。
しっかり身支度を整えていた。
「驚いた顔も可愛い。おいで」
両手を広げられるが・・・。
「14時から、夜会のドレスの試着です!」
「知ってる」
龍迫は昨日から引き続き、ニコニコとしている。
しつこいくらい何度もいうが、“自分"が初日にあんな暴言を吐いたのでこうなる展開が遅かったわけで。自分が悪いのだが。
龍迫はずっと、我慢していたのだ。
「俺、まるで盛りの付いた猿だよな」
全く持って、その通りです!
叫びたくなりながら、恵麻は衣装部屋に向かって歩き出した。
「どこに行く?」
「衣装部屋っ!続きは今夜でっ」
「続きは今夜・・・。そうか・・・。今夜か・・・」
呪文のように龍迫は呟くと、足早にあるく恵麻にまとわりつく。
「俺もシャワーを一緒に・・・」
「浴びません!」
ピシャリと言われ、さすがにこれ以上は嫌われるかっと龍迫は恵麻を解放するとベッドに戻りシーツに抱きついた。
恵麻の匂いがする。
「こら!旦那様も身支度してください!お返事は?」
「はい」
余韻を楽しんでいるのに。
妻はつれないなぁ。
もはや、龍迫は猟奇的な境地で溺愛していた。

***
「奥様。お車の用意ができました」
岬はドレス選びに向かう前、恵麻様ではなく奥様っと呼びかけた。
”奥様?”
聞き間違えだったかしらと思いながら岬をみる。
「奥様って呼んだ?」
「はい。今までは恵麻様と呼んでおりましたが、本日より。奥様と呼ばせてください」
「・・・そうね」
戸籍上の妻から、誰もが認める妻となったのだ。
「奥様がご主人様の指輪を受け取った際に呼び方を変更するべきだった所を遅くなり申し訳ございませんでした」
「いいえ・・・。そうね。奥様ね・・・。奥様。ふふふ」
恵麻は”奥様”という響きに照れながらはにかむと、身支度を整えた。
今日はドレスを選びに行かなければならない。
時間は迫っている。

「どれも綺麗で目移りしてしまいますね」
「これと、これと、これは購入」
龍迫は10着の中から3点を指さす。
「え?」
まだ、着てもないのにと驚くが。
「恵麻は鎖骨のライン、ピップのラインがとても美しい。この2着は華奢な恵麻には大きすぎる」
ちょっ!
人のプライバシーは!なぜ私のサイズを知っているのよ。
突っ込みそうになるが、なぜ知っているの?っと声を上げよとするならばこの男は・・・。
“知っているさ。夫なのだから”と言うだろうし。言いたそうだ。
「何も言わないのか?」
「言いません」
「そうか。残念だ。夫の特権で恵麻のことなら、全て知っているといおうと思ったのだが」
「言ってるじゃない。もうっ。試着して来るわ」
「手伝おうか?」
「手伝いません。岬さんっ見てばかりいないで」
止めに入ってよと言わんばかりに岬に言うと、岬は笑いだしそうになるのを堪えて恵麻と共に更衣室に向かった。
「良い作品を作った。デザインをした者に礼を頼む」
「かしこまりました」
丁寧にお辞儀をする定員を横目に岬に手伝ってもらいながら試着に移るのだが。
1着目。
「似合う。恵麻の美貌に比べれば月と鼈のすっぽんだが似合っている。もちろん、月が恵麻だぞ」
2着目。
「似合っている。恵麻の美しさに太刀打ちできるレベルではないが。良い品だ」
3着目。
「それはダメだ!」
赤のドレスで、くびれが強調されている上に思ったよりも胸元が広く着痩せする胸が協調されていた。
「だが、買う!それは、そうだな。俺の観賞用にしよう」
「鑑賞用って何?」
観賞用ドレスなんて聞いたことがない。
「そのドレスでたまに夕食を一緒に食べてくれると嬉しい」
「家でドレスを着てどうするのよ。せめて、領地は歩かせて」
「・・・女ばかりの領地に変えることを許可してくれるなら、領地を歩いてもいい」
そんな無茶苦茶な。
女だけの領地なんて聞いたことがないし、種の保存からして潰れてしまうわ。
「男性陣はどうするのよ?」
「うーん。そうだな、金を渡してどこかの体育館でも閉じ込めるかな?」
「どうしてそう、極端な発想になるの?」
そういって、腰に手を当て呆れる恵麻は美しい。
「動くな。命令だ」
低い声で龍迫は言うと、携帯の写真をおもむろにとった。
「そんなに気に入ってれたなら、今日はこれで過ごすわ。一緒にどこかで写真を撮りましょう」
恵麻は携帯電話を取り出すと、龍迫と二人で写真に写った。
「初めてね」
にっこり笑うと運ばれてくるアクセサリーを見る。
「どれが似合うかしら?指輪は沢山、ご主人様から頂いたから必要ないし。ブレスレッドも有栖川家の歴代夫人の物がたくさんあるし・・・」
「ネックレスは?」
「ネックレスね・・・。うーん」
恵麻は無意識に首の後ろに手を当てた。
「その傷。ネックレスか?」
恵麻にはうなじによく見ないと分からない程度の薄い傷があった。
よく見てるわね。
龍迫は長い髪の毛を下ろしている恵麻の髪の毛を持ちあげ、恵麻の手をすっと握り、うっすらした傷を見る。
「引きちぎられたか」
昔、産みの母のネックレスを家の使用人から貰いつけたことがあった。
家庭教師の母が買ったネックレスなので、高価なものではなかったが。
それをたまたま通りかかった姉、恵莉にネックレスをつけるなんて生意気だと引きちぎられたのだ。
子供同士の力ではあったが、全体重をかけて引っ張られたために恵麻のうなじはネックレスでこすれて出血。
ネックレスのチェーンが切れ、血がついたものだから。
その場で恵莉に投げ捨てられた。
そして、全体重をかけていた恵莉は転倒、継母に恵麻にこけさせられたと、恵莉に報告をされて平手打ちをされたっけ?
ついでに父親に恵麻にネックレスを渡した使用人は解雇されたっけ?
さらにさらに、その後、使用人全員に恵麻の母親の私物がないかどうか捜索が行われた。
母親の形見を1つくらいは持っておきたかったのにな・・・。
「もう痛まないから大丈夫よ」
「そうか」
龍迫はそっと傷跡に唇を落とした。
体の傷も心の傷も消えない。
「恵麻に害をなすものが触れれないように有刺鉄線のドレスでも作らせようか?」
「そんなトゲトゲのドレス。私自身も痛くて着れません!」
「そこは気合で。あぁ、でも、僕が抱き着く時は脱いでくれよ。痛いから」
「ちょっと待った。旦那様っ。人に無理難題を要求するときには、ご自身でクリアしてから要求してください」
「困ったなぁ。でもまぁ、恵麻に触るためなら血みどろになる覚悟はできているし・・・」
「旦那様っ!愛情表現が歪んでいます」
恵麻は片手を腰に手を当て、ビジッと開いている方の指を龍迫に突きつける。
ここまで来たら。
本当に猟奇的だ。
「そうだな。恵麻を僕の色で染めたいが、僕の血で染めるのは申し訳ない」
「だから。ホラーですから」
「ホラー?カップルで吊り橋を歩いて。吊り橋の上という状況が怖くてドキドキしているのを、隣にいる恋人にドキドキしていると思い込んで好きになる吊り橋効果ってあるし、ホラーのドキドキを僕をこの上なく愛しているというドキドキだと・・・」
しゃーしゃーとおかしな方向で愛情表現をし続ける龍迫の口を恵麻は自分の手で塞ぐ。
「少し黙りましょう。旦那様!!!」
そんな二人に周囲は気恥ずかしくなり、視線を逸らしていた。

***
―――許さない。
「徹底的に恵麻が能津家でされてきたことを全て調べ上げろ」
帰宅後、恵麻が入浴を呑気にしている時。
書斎に龍迫は飯田を呼び出すと、低い声で命じる。
「かしこまりました」
飯田は勿論、頷く。
「いつ、どこで、誰にされたか。事実もデマも全て調べろ。人も金もどれだけ使っても構わん」
「徹底的に有栖川公爵家の権力を振りかざし、いかなる手段を使っても徹底的にお調べいたします」
「あぁ。頼んだ」
頼んだ。
有栖川公爵家の当主が頼んだという案件に全力で答えないはずはない。
飯田は全力で一礼する。
ここの部屋で命令をされたという事は、絶対に恵麻には悟られてはいけないという事だ。
あの明るく優しい女主人を守るためならば、公爵家の使用人は全力で従うだろう。
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